01
輝血達は凱斗達と合流した後この街の隅から隅まで歩き回った。
異様な空気が漂うこの街は龍に来る前の輝血達の住処より酷かった。
ボロボロで汚れた服を着た人間達がありとあらゆる場所で座り込み、寝転び、黙って龍を目で追った。
そんな中に綺麗で派手な服装をした人間が混じり込んでいる。
ボロボロの服装の人間達は、綺麗な服装の人間達にペコペコと頭を下げ、笑顔を向けている。
綺麗な服装の人間達はそれに見向きもしない。
きっとこの街ではそれが普通なのだろう。
「かーくん、ここの人達はやっぱり普通じゃないんだろうね。」
懍が隣を歩く輝血に小声で話しかける。
「そうだな。……でも少し前の俺ならきっとこの光景を見てもなんとも思わなかった。弱肉強食の世界で弱い者が食われるのは当たり前だし、自分は強い側だと思っていたから……きっと俺も見向きもし無かっただろうな。」
「そうだね……でも今の俺達はもう……弱い側だって分かっているから。」
「うん。俺達はあの媚を売っている側の人達と同じだな。」
輝血と懍は目を合わせ小さなため息をついた。
──────────────
「じゃあこの先は俺と桜庭、総龍幹部数人で行くから他は各龍で分かれて見てきて。食屍鬼と出会した場合はすぐに連絡する事。……あとはこの街の人に絡まれたり問題に巻き込まれたら俺に連絡してくれ。」
凱斗はそう言うと気怠そうに手を振りながら奥へと進んでいく。
その後ろを桜庭、幹部がついて行きあっという間に見えなくなった。
「さて、ここから先は食屍鬼がいる確率がグンと上がるらしい。道は入り組み迷子になれば終わり。一人の時に食屍鬼と出会ってしまっても終わり。絶対に勝手な行動はせずに俺に付いてくるんだ。」
羽鳥の言葉を聞いて輝血達は頷いた。
「ちょっとドキドキするね。」
懍はワクワクした表情を見せ、輝血は引きつった笑顔を見せる。
「輝血、懍。」
柏木が真剣な表情で話しかける。
「この先は危険だ。くれぐれも注意するんだぞ。」
「さすが元龍。俺達とは覚悟が違うって感じ。ね、かーくん。」
「そうだな。俺達も気を引き締めないとな、懍。」
懍は頷くがまだワクワクした表情のままだった。
「俺は向こう側だから一緒に見回れない。全員無事に会える事を祈る。」
柏木はそう言うと輝血達が向かう道とは逆方向へと向かい走り、仲間達と進んで行った。
「さ、俺達も行くぞ。」
羽鳥ともう一人の幹部が先頭、その後ろを輝血達がついて行く形で歩み進める。
輝血は大橋の言葉が気になっていた。
糸を張ったとはどういう事なのだろうか。
この先に答えが見つかるのだろうか。
お父さんはどこまで関係しているのだろうか。
どうしてこの街を選んだのだろうか。
会長は本気で俺達が盾になる存在だと思っているのだろうか。
アザミや香達も食屍鬼討伐に参加するのだろうか?
輝血は考えを巡らせるが答えは見つからない。
「ねえかーくんかーくん。」
懍がキョロキョロと辺りを見回す。
「どうした?」
「この街って子供がいないね?」
懍の言葉を聞き輝血も辺りをグルっと見てみるが、確かに子供の姿は見当たらない。
「食屍鬼の事があるから室内にいるとか、どこか安全な場所に連れて行かれたとかじゃないか?」
「うーん。でもそれならどうして大人達は外に居るんだろう?安全な場所にって言うなら大人達だって連れて行かないとじゃない?」
「そうだな。まるで食屍鬼なんて知らないって感じだよな。もしかしたら極秘でここに居る人達は知らない……とか?」
「えー、知らないままなら被害に遭う可能性が高くなるよ。会長は食屍鬼被害者を出したくないって誰よりも思ってるはず……だよね?」
「うーん。じゃあどうしてだろう?」
「自分たちの意思だよ。」
羽鳥が前を向いたまま答えた。
「自分たちの意思?」
「そう。一応会長も桜庭さんとここに来た時に上の人に全員避難するようには言ったらしい。上の人もそれを街の人達には伝えたが避難する気がない人達はこうして残っている。
それに客も来ているし、食屍鬼が発生していたあの頃、この場所は前会長のおかげで被害に遭っていない。だからきっと恐怖心とかそういう物があまり無いんだろう。」
「でも食屍鬼っていうのがどういう存在でとかの説明もしてるんだろ?それでも怖くないのかよ。」
「簡単に言えば、俺達が今離れた地区から来た人間達にこういう化け物が出たから避難してくれ。なんて言われたとしよう。その化け物はそうだな、昔話で聞く鬼でも河童でも雪女でもなんでもいい。でも実際それを見たことが無いわけだ。それに、他地区で出たとニュースを見た事があったとしても人間っていうのは、自分は大丈夫 だなんて思い込んでしまう。」
「うーん……確かに俺も元々食屍鬼が出た地区とは近い場所に住んでいたけど、ニュースで聞くだけで目の前に現れた事も無かったし恐れてはいなかったかも。……現にそのせいでこうなったとも言えるしね。」
懍は暗い表情を見せた。
「俺も……あの時、自分の家族が目の前で食屍鬼になってやっと事の重大さに気付いた。恐ろしい生き物なんだってそこでようやく確信した。……その前にも会っていたはずなのにな……。」
輝血は血の海の中で無惨な姿になった家族たちを思い出す。
「とにかく。食屍鬼が現れれば被害を出さないように俺達が始末する。お前達はすぐに会長達に連絡を入れるんだぞ。」
輝血と懍、その後ろを歩く仲間達は元気よく返事をした。
「羽鳥、お前相当懐かれていないか?」
「そうか?」
羽鳥と幹部の一人が話しながら歩みを進めると、少し空気が変わった場所へと出た。




