03
「か、会長!お疲れ様です!」
柏木は一歩下がり深々と頭を下げた。
懍の顔は引き攣り、輝血は固まっていた。
「なーに?お前達は俺に挨拶しないわけ?」
輝血の耳元に息がかかる。
「ヒッ……お、お疲れ様です……。」
「お疲れ様です……。」
引き攣る二人を見て凱斗は満足気に笑みを零した。
「うん、お疲れさん。」
「会長!お疲れ様です!!」
羽鳥が凱斗の隣に立ち頭を下げると、ズシリと頭が重くなった。
「人間相手、ねぇ。」
羽鳥の頭を掴む凱斗はニコリと笑っているが、手には力が込められていた。
「え、あ、はい……。」
羽鳥の影が濡れる。
「食屍鬼と人間相手、だろ?」
「はい!その通りです!」
「人間より食屍鬼が最優先だよな?」
「はい!」
「うんうん、分かってりゃいいんだよ。」
羽鳥の頭が軽くなる。
「いやー、もしかして……食屍鬼は俺達龍に任せて、お前達は人間だけ相手しろ、なんて冗談でも言ったのかと思ってビックリしちゃった。」
凱斗は、はっはっはっと笑う。
羽鳥は頭を上げることができないでいた。
「ま、こいつら盾にもならないし戦えるとも思ってないんだけど。」
羽鳥は顔を上げる。
額から多量の汗が流れていた。
「ではコイツ達は餌にするという事ですか?!」
「いやいや、俺はコイツらが気に入ってんだ。それになんで食屍鬼に餌なんて与えなきゃなんねーんだよ。飢え死にしてほしいよ。」
「では何故食屍鬼討伐に?」
「ん?慣れだよ慣れ。1回は目の前で見たからどんなもんかってのは分かってると思うけど、あの時は暗かったしそれに身内ときた。情が湧いて憎しみも無かっただろう。むしろ自分を責めてたんじゃないか?」
輝血は唾を飲み込む。
「情が湧いたままじゃどちらにせよ斬るなんて事は出来ない。一人がその状態だと周りもつられて一瞬にして崩壊、全員が餌になる。だから食屍鬼に慣れさせるために連れてきた。」
「え、じゃあ人間相手……とかじゃなくて…?」
「あ?人間に用は無いし、ここは俺達とは直接関係無い場所なわけ。そりゃ目の前で悪いことしてたら見逃しは出来ないけど基本的に相手にしないよ。」
輝血と羽鳥の目が合い、輝血は苦笑いをした。
「それに、ここの人間は頭が良いよ。絡んでくるのは大体ここの客らしい。偉そうに自分達の場所みたいな面して吠えてくるけど、本当のここの住人を目の前にしたら黙るよ。」
「そうなんですか?」
「うん。ま、俺も一番上には会えてないけど。一応こっちに食屍鬼がいるから龍が出入りするけどお前らの敵じゃないから許してーって話はした。」
「会長自らですか?!」
「ん、俺と俺を心配して勝手についてきた桜庭とで。」
「桜庭さんがいたなら安心ですね」
「なに?それはどういう意味だ?羽鳥。」
「い、いえ。なんでもありません。」
「……ま、いいや。
一番では無いけど上の立場の人に話して、とりあえず俺達は、ここの住人の商売の邪魔はしない。向こうも俺たちの邪魔はしない。お互いに干渉し合わない。って条件を向こうの一番上の人間が許可を出してくれて今に至る。」
「そうだったんですね。でもそういう話し合いは一番上がでてくるべきでは?会長が来てるんですし……。」
「んー、自分の商売に関わる客以外の人間には興味が無いから会って話す時間が無駄らしい。ただ面倒くさくて嘘をついているだけかもしれないけど。まぁ話し合いが面倒っていうのは俺も気持ちは分かるし、あんまり無理強いして断られたら俺達も本来の目的が果たせなくなるし、許可してくれたからまあいいかなって。桜庭も文句は言ってたけどとりあえずこれでいいんだよ。」
羽鳥は少し不服そうな顔をする。
「お前さぁ。」
「は、はい!申し訳ございません!」
「いや、謝らなくていいけど。なんか年々桜庭に似てきてない?俺嫌なんだけど、桜庭が二人とか。」
「どうして嫌なんですか?会長。」
凱斗の背後にユラリと現れた影に輝血達の顔が再び引き攣った。
「そりゃお前、アイツが口うるさいの知ってんだろ?もうあんな鬼母みたいな人間一人でいいよ。あんなのが増えたら俺はストレスで死んでしまう。」
「へぇ。私の事鬼母だと思っていたんですね?」
「そうそう。ピッタリだ……え?」
会長がゆっくり振り返ると鬼の形相をした眼鏡の男性が立っていた。
「……桜庭、来るの早かったな!さ、行くか!!」
輝血達の方へ向き直した会長は足早に歩いていく。
「貴方って人は!どうして部下の前であんな事を!!そもそも無駄話している時間はないでしょう!!!」
その後ろを桜庭が追いかけ、あっという間に二人の姿は小さくなった。
「桜庭って人すげぇ。」
懍が呆然としている。
「ああ、桜庭さんは会長が小さい時からずっとそばに居た方だ。今も黒龍を纏めていらっしゃる。」
柏木の表情はどこか懐かしさを感じているようだった。
「にしても会長ってあんな顔するんだなぁ。桜庭さんに気付いた時のこの世の終わりみたいな顔、笑いそうになっちゃったよ。」
懍がクスクス笑うと周りもつられて笑った。
「でも驚いたな。輝血達の後ろに立つ会長を見た時。俺達に近付く時くらい気配隠さないで欲しいよ。」
柏木は胸に手を当てた。
「本当、心臓を鷲掴みにされたような気持ちになる。」
輝血も胸に手を当てた。
「俺も会長の気配には気付けないし、あの人の動きの速さには毎度の事ながら度肝を抜かれるよ。」
羽鳥も胸に手を当て、三人は大きくため息をついた。
そんな三人を見てまた懍達が笑っていると、遠くの方から桜庭の声が聞こえてきた。
「貴方達何をしているのですか?!早く来なさい!!!」
「はい!!!!!」
全員が大きく返事をし駆け足で向かう。
建物内からその光景を見てクスクスと笑う男が一人。
「へぇ。おもしろそうだなァ?龍とかいうヤツら。」
男はカーテンを閉める。
「くくっ、赤城ィ。」
「はい、キョウさん。」
「状況によっちゃあ龍の味方してやるかァ。」
「承知しました。」
「楽しみだなァ。」




