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食屍鬼 -蜘蛛糸-  作者: 藤岡
闇の世界
62/123

01

あれから数日後。

総龍会屋敷内は騒がしかった。

「何事だ?」

訓練をしていた輝血達は、走り回る隊員達を見て首を傾げる。

「こんなに騒がしいのは珍しいね、かーくん。」

「そうだな。何かあったのか?」

走り回っている隊員の一人が輝血達に気付き輝血達の方へと走ってくる。

「やべ、サボるなって怒られちゃう。」

懍と輝血は慌てて訓練所の中に戻るが、そのまま隊員も訓練所の中へと入ってきた。

「お前達。」

隊員が息を切らしながら話す。

「訓練は一時中断。集合だ。」

懍と輝血、そして仲間達は目を合わせた。

隊員について行き辿り着いたのは水仙と最期に会った場所。

「ここは……出動要請が出た時に集められる場所……?」

輝血は普段自分が来ることのない場所へと連れてこられ少々困惑している様子である。

「それにお父さんの……。」

懍と輝血はあの日のことを思い出したが今はそれどころでは無いという事がすぐに分かった。

一番前に立つのは会長。

その隣には総龍会幹部、そして各龍の隊長。

会長に向けて膝を着き頭を下げているのは各龍の幹部や上級層。

一体何があったんだ?

輝血は隊員に従い頭を下げながら不思議に思った。

「全員集まったか?」

会長の声だけが響く。

「急で申し訳ないがお前達には今から討伐に行ってもらう。」

輝血達は息をのんだ。

「輝血。」

輝血は恐る恐る顔を上げた。

「お前達にも行ってもらう。いいな?」

会長の目に光が無い。

輝血はゆっくり頷く。

会長は隊長や幹部それぞれに指示を出し、すぐさま解散となった。

輝血達は総龍幹部に連れられ外へと向かう。

会長は輝血達の後ろ姿を見つめていた。

──────────────

「お前達にはそれなりの働きをしてもらわないと困る。」

幹部の一人が運転をしながら話す。

後部座席に座る輝血達は疑問に思っていたことを聞いた。

「今から何を討伐しに……?」

頭では分かっていた。

討伐対象はヤツらだろうと。

自分達が復活を望み、自分達の仲間……家族を奪ったヤツらなんだろうと。

「食屍鬼だよ。」

「……どれくらいの数がいるの?」

懍が質問をすると幹部は深く息を吐き出し小さく首を横に振る。

「分からない。どこから発生しているのかも正しい情報はまだ掴めていない。」

「じゃあどうやって討伐を?」

「最近頻繁に出現する場所へと向かっている。会長はこの付近が怪しいと睨んでいる。一斉捜査を行い発生源を探し出して潰すのが目的だ。」

「俺達も力になれるんですか?」

懍の質問に幹部は首を傾げた。

「弱いやつ相手なら多少の力にはなれるかもしれない。が、もし仮に成功体がいたらお前達所か俺達さえ勝てるか分からないよ。食屍鬼との関わりはあの日終わったはずだったからな。あの日以降対食屍鬼の特訓はしていなかったしな。」

輝血達の心にチクリと刺さる。

「会長も同じだ。一時は誰よりも弱っていたからな。それでも目の前にすれば仕留めることが出来る力があるのは…過去の怒りが誰よりも大きいからだろうな。」

「会長も参加するんですか?」

輝血の質問に幹部は頷く。

「会長は水仙が死んだあの日からずっと各地に出向いて討伐してきた。だから見つけることが出来たんだよ、今向かっている場所を。

……参加対象になったからお前達にも話してやるけど、一つ約束しろ。」

「約束?」

輝血は首を傾げる。

「ああ。無茶はするな。お前達が無茶をした所で被害が増えるだけだ。引く時は引け。」

「……分かった。」

「食屍鬼の数が増えているのは大橋が関係していると考えるのが妥当だ。ヤツが何処かで誰かの力を借りている……とすれば、成功体がいる確率はグンと上がる。」

「大橋……結局見つけることは出来なかったのか。」

「ああ。龍から逃げる為に前もって色々と用意してたんだろう。で、大橋を助けている奴がいるならそいつも捕まえなければならない。大橋にアレコレ吹き込まれていたら大橋だけを捕まえたところでこの事態は収まらない。」

「今から向かう場所に大橋もいるのか?」

「いや、いないだろう。ヤツは逃亡者だ。龍が自分に近付いてきているかどうかなんてすぐに分かるだろう。元々今行く場所を拠点としていたとしても今はもうどこかに逃げてるよ。とにかく、お前達は俺達から離れるんじゃない。勝手な行動はするな。相手は人間じゃなくて化け物だ。分かったな?」

輝血達が返事をすると車内は静まり、ガタガタと揺らしながら目的地へと向かった。

輝血は懍の肩に寄りかかり目を閉じる。

自分の考えを整理したかったのだ。


自分が一番大切なのは家族。

自分が一番憎しみを抱いているのはその家族を連れ去った龍。

龍の頂点に立つ男。

だがその男は自分の家族を苦しみから解き放ってくれた。

それに……心から父だと思っていた人と関わりがあった。

だがその男は自分が絶望している時に光を与えてくれた二番目の父の命を奪った。

勝てると思っていた。

口だけだと思っていた。

結局は一人じゃ何も出来ない集団だと思っていた。

でもそれは、自分だった。

一人で立ち向かうのが怖かった。

目が合うだけで命が吸い取られている感覚に陥った。

足が竦んだ。

目を合わせられなかった。

身体が震えた。

怖かった。

あの男の言うことを聞かなければ自分だけじゃなく家族まで酷い目に遭うのではないかと思った。

だから俺は心を開いたフリをした。

だから俺は改心したフリをした。

だから俺は……龍の犬になったフリをしたんだ。

なのに、いつの間にか俺はアイツの優しさに触れてしまった。

フリが本心へと変わっていくのが分かった。

これが大人数を纏める人間の力なのか?

どう足掻いても、俺一人じゃ勝てない。

家族全員で向かっていったとしても勝てない。

それにやっぱり……自分が救えなかった家族を救ってくれた恩を仇で返すなんて事は出来ない。

かといって俺は……お父さんの命を奪ったやつに心から忠誠は誓えない。

でも今のこの状況は俺達が作り出してしまった。

俺達の、俺の甘い考えが招いた悲劇の物語だ。

どれだけの人間が被害に遭ったのかは分からない。

どれだけの食屍鬼がいるのかも分からない。

自分がどれ程の食屍鬼を相手に出来るのかも分からない。

もしかしたら、一匹も倒せないまま殺されるかもしれない。

俺は何の為に食屍鬼を復活させようと思ったんだっけ?

食屍鬼討伐をしていた龍を食ってもらおうと思ったんだっけ?

たった一人で複数を、瞬きをしている間に倒してしまう男がいる龍を……?

この世で誰よりも食屍鬼を恨み憎しんでいる男がいる龍を……?

もしも食屍鬼の復活なんて願わなければ今頃アイツ達は生きていたのかな。

大橋の存在を知らなければ。

柏木と出会わなければ。

俺がお父さんの所に来なければ。

俺があの時……コンビニになんて行かなければ。

俺があの時死んでいれば。

良かったのかな。

俺はどうすればいいんだろう。

幸輝ならなんて言うのかな?

お父さんはなんて言うのかな?

アザミや香はなんて言う?

俺は今からどうすればいいんだろう?


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