02
翌日早朝から訓練が始まった。
最初は簡単な体術。
それでも輝血達は息を切らした。
自分達の想像以上のスタミナ、フィジカル、素早さを要求された。
自分達が思っていたより動きが速い隊員達に圧倒された。
昼休憩を1時間挟んだ後、夜遅くまで続いた。
一日目にして、全員がグッタリと横たわり目を閉じると同時に夢の世界へと旅立った。
一週間が経ち、輝血達は隊員達から木刀を渡された。
剣術は体術よりも厳しく教えられた。
輝血達は何十回、何百回と隊員達からの攻撃を受けた。
「その程度じゃ赤ちゃん食屍鬼にすら勝てないよ。」
そう言われたのが悔しくて何度も立ち上がる。
涙が出そうな程に苦しい時間が続いた。
あの日以降凱斗は姿を現さなかった。
外にいるのか屋敷内にいるのかも分からない。
そもそも輝血達は外の世界の情報を一つも与えられていない。
今外がどういう状況なのかも分からない。
厳しい訓練と閉鎖的空間でストレスが溜まっていく一方だった。
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訓練が開始されて一ヶ月が過ぎたある日の夜。
「少しはマシになったんじゃないか?」
剣術を教えてくれていた隊員にそう言われ喜ぶ輝血達。
「数日でリタイアすると思っていたが全員耐えるとは思ってなかったよ。」
隊員達も少しは輝血達を認めたようだった。
「こーんばーんは。」
背後の扉の方から声が聞こえると隊員達は喉を鳴らした。
背筋を伸ばし扉の方へ体を向けると一斉に膝をつき頭を下げる。
「お疲れ様です、会長。」
「ん、お疲れ。どう?コイツら。」
一番前にいた隊員の頭に凱斗の手が触れると、触れられた隊員は体をビクリとさせた。
「は、はい。初日はこの先どうなる事かと思いましたが今は初日に比べ───」
「そりゃ一ヶ月もありゃ初日よりマシにはなるだろうが。」
隊員の言葉を遮る冷たい声。
「俺が聞きたいのは現状コイツらは食屍鬼とやり合えるレベルまで上がったのかってことなんだよ。」
「ちゅ、中級層よりは少し下辺りかと……。」
「ふぅん。その程度か。」
凱斗はため息をついた。
「ヤンチャ集団は所詮くだらないやつの集まりって事ね。」
凱斗はそう言うと輝血達の方を見てニヤリと笑う。
「このままだとお前達が一番最初に死ぬよ?」
「一番最初に……。」
輝血は下を向きギュッと拳を作った。
「そう。龍の盾にすらならないまま殺られるだけ。もっと力があると思っていたけど残念。死ぬ気で頑張ってくれない?」
凱斗の顔から笑みは消えていた。
「輝血、お前がリーダーだったか?」
「う、うん。」
「じゃあお前がこの中で一番力があるんだよな?コレ持って。」
凱斗は輝血の前まで行くと剣を渡した。
「会長、コイツらはまだ木刀で───」
「そんなぬるい事やってるから成長しないんだよ。」
凱斗を止めに入った隊員は凱斗に軽くこつかれた。
「こ、これ当たり所が悪かったら死んじゃうんじゃ?」
輝血がそう言うと凱斗はニィッと笑う。
「お前、食屍鬼を目の前にした時に斬るつもり無いの?」
「いや、そういうわけじゃないけど。」
「いいから黙って俺と練習しろ。」
「怪我しちゃうよ?」
輝血が心配そうにそう言うと凱斗を目を丸くさせ、そして大きな声を上げて笑った。
「はははっ、け、怪我って、くくっ、もしかして俺が?」
「そ、そうだけど……。」
「いいじゃんその自信。怪我させてみろよ。」
凱斗は嬉しそうに笑う。
「で、でも……。」
「いいからいいから。構えろ。」
凱斗は転がっていた木刀を手に持ち構えた。
輝血は恐る恐る構える。
木刀とは違う重さとキラリと光る剣先、そして目の前に立つ凱斗を見て手が震えた。
「いつでもいいよ。輝血の好きなタイミングでおいで。」
シンとした訓練場。
手汗が滲む。
一歩が踏み出せない。
凱斗は黙ったまま構えている。
周りの隊員や仲間達も声を出さずに見守っている。
輝血は、震える剣を見つめることしか出来ない。
時間が経てば経つほど動けなくなる。
輝血が顔を上げると、凱斗と目が合う。
「俺、やっぱり剣では……。」
ヒュッと風を斬る音と腹部に重い衝撃。
「まーだ俺を怪我させるかもとか考えて動かずにいたのか?」
耳元で聞こえる声。
「大丈夫、お前如きの攻撃なんて当たらない。」
よろける輝血は凱斗に支えられた。
「そんな心配いいから、早くお前の実力を見せてくれ。」
輝血の肩をポンッと叩くと、凱斗は距離を置いて構え直す。
訓練の時に嫌という程喰らった隊員達からの攻撃なんてまだ軽いものだったんだと思わざるを得ない程の重い重い攻撃。
殺る気でいかないと自分が殺られる。
輝血は大きく深呼吸をして構えた。
「いいね、目の色が変わった。」
凱斗は嬉しそうに言う。
「輝血、お前元々は俺を喰うつもりだったんだろ?その時を思い出せ。お前は俺が憎いんだろ?」
凱斗の言葉を聞いた輝血は唇を噛み締めた。
そうだ。
俺は龍が憎かった。
食い殺すつもりだった。
龍さえいなけりゃ良かった。
数でも力でも勝っていると思っていた。
龍が憎む食屍鬼の力を頼ろうとした。
食屍鬼と自分達で食えると思っていた。
だが食屍鬼に食われ、龍には手も足も出なかった。
思い上がっていた。
自分たちは強いんだと。
愚かな自分に腹が立つ。
「うおぉおおおお!!!」
輝血が叫び凱斗に向かって走り出す。
凱斗は動かずに輝血を見つめた。
「ムカつくんだよ!!!!!」
輝血は凱斗の腹を目掛けて剣を突き刺した。
「ははっ、その意気込みだけは合格。」
絶対に当たるはずだった。
剣先数ミリの所でかわされた。
ギリギリで交わしたんじゃなく、余裕があった。
会長はニコリと笑って俺の首に木刀を当てている。
これがもし木刀じゃなく剣だったなら、俺は死んでいた。
凱斗は輝血から剣を奪い代わりに木刀を渡した。
「お前らしっかり鍛えとけよ。」
そう言うと背を向け部屋を後にする。
隊員達は安堵の息を着く。
「会長はいつもいきなり来るんだもんなあ。」
「俺達が叱られるんじゃないかと思ったよ。」
輝血は渡された木刀を力強く握り締めた。
「俺は……弱い……。」




