03
「幸輝は俺の友達……って言っても幸輝の方が年上だけど。
よく依睦という名とその子の話を聞かされていたんだ。」
「幸輝……の……と……もだち……?」
「そっ。クローバーに向かって欲しいと連絡が来た時、俺達全員幸輝の無事を祈りながら行った。だけどそれは叶わなかった。施設前で倒れている幸輝を見た時、暗い暗い闇の中に堕ちたような感覚に陥ったよ。」
輝血は下を向き頭を抱えたままでいた。
「あの時一瞬だけ俺の視界に映りこんだ……誰かに手を引かれ姿を消した少年……あれは輝血……いや、依睦、お前だろう?」
「そ……うだと……思う……。」
「あの時依睦を追っていれば、あの時俺が依睦の腕を掴めていれば、あの時俺が水仙に気付けていれば……そう後悔しているよ。俺はあの日からずっと消息不明の少年、依睦の居場所が気になっていたんだ。どうしているんだろう、誰とどこへ向かったのだろう、そう考えていたが食屍鬼討伐に向けて忙しくなり今に至る、というわけ。」
輝血は何も返せず口を閉じたままだった。
沈黙の中で冷たい風が吹き、凱斗の髪が靡く。
輝血が顔を上げると凱斗が横目でチラリと見て微笑む。
「会長は……幸輝といつから友達なの?年の差も少しあるけど……どこで知り合ったの?」
「ん?いつから……いつからだったかな。ずっとずっと前からだよ。」
「ずっとずっと前……。」
「知り合ったのはここ。幸輝は元々黒龍の人間だったからね。」
「え……?」
「あれ、知らなかったか?元は黒龍隊員だったんだよ。」
「そう……なんだ……。」
輝血の心臓が大きく跳ねてドクドクと力強く波打つ。
「この屋敷に来たこともあるし、黒龍屋敷に住んでいた時期もある。幸輝の顔見知りもまだいるし、現に今俺がここにいる。」
「でも幸輝は食屍鬼が現れた時にはもう……。」
「そうだね。俺が隊長就任の時には既にクローバーで平和に暮らしていたからね。幸輝はそんなに長くもいなかったし。」
「そっか……。」
「それでも龍の一員だったことに変わりは無いし、入隊した日から俺達は全員仲間……家族みたいなもんだから。俺がガキの時に遊んでもらったんだよ。」
輝血はハッとした。
凱斗を見て幸輝を思い出した事があった。
二人の動作が似ている、そう気付いたのだ。
「そうか……だから既視感が。」
「ん?」
ビュッと強く吹いた風に輝血の言葉はさらわれ、凱斗は首を小さく傾げた。
「ううん。なんでもない。」
凱斗は不思議そうに輝血の目を見つめ「まあいっか」と逸らした。
「でもどうして今幸輝の話を?」
「ああ、いつかは話そうと思ってたんだけど。お前がクローバー出身者だって確証を得てからの方がいいかと思って。」
「確証?」
「そう。もしかしたら間違いかもしれない。それなら話す必要が無いからな。だからお前を青龍に連れて行った。クローバー出身者にお前を見てもらった。涙を流して喜んでいたよ。よりちーが生きてるってな。」
輝血の脳内は当時の幸せな思い出で溢れ返る。
「次は普通に会って話す機会を設けるよ。」
輝血の脳内に溢れ返る幸せの上にズズズと暗い闇が覆い被さる。
「お互いに話したい事とかあるだ───」
「いい!会わないし話さない!」
輝血は立ち上がり凱斗の言葉を遮った。
凱斗は表情ひとつ変えずに輝血を見上げた。
「俺が話せる事なんて……何も無いから。だから……いい……。」
輝血は声を震わせグッと涙を堪えた。
「……わかった。お前がそう言うなら無理強いはしない。」
凱斗はゆっくりと立ち上がると輝血の頭の上に手を置き雑に撫でた。
「今日はとりあえずこの辺でやめておこうか。明日から忙しい。ゆっくり部屋で休め、な。」
輝血が黙って頷くと凱斗は手を離し、輝血に部屋へ戻るように背中をとんとんと軽く叩いた。
輝血は頭を下げ部屋へと向かい歩き出す。
凱斗は手をヒラヒラとさせながら小さくなる背中を見守り続け、それが見えなくなるとため息をつきながらその場に座った。
「そりゃそうか。まだあの幸せな空間で共に暮らした人と話せる程吹っ切れてはないか。」
凱斗は煙草を取り出すとそれを咥え火を付ける。
「幸輝ならどうしていたのかな。」
凱斗は煙を吐き出しながら小さく呟いた。
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翌日。
輝血を含めた数人は総龍の隊員達に連れられ、簡易ベッドが並ぶ屋敷の一室に集められた。
不安そうな表情を浮かべる輝血達の前に女性研究者が現れた。
「只今より検査と治療を行います。」
女性研究者がそう言うと、ぞろぞろと白衣を着た人達が部屋へと入ってきて、一人につき白衣を着た人が3人付いた。
ベッドに横になるよう指示された輝血達はそれに従い、器具を取り付けられると、研究者の声がどんどん小さくなっていき、暗い暗い闇の世界へと堕ちた。
「………うだ?」
「…常……ん」
「……うか」
微かに聞こえる声。
今では聞き慣れた声と先程聞いたばかりの声。
輝血が薄く目を開けると、薄暗い中に見慣れた銀色が浮かび上がる。
「目が覚めたか?」
聞き慣れた声でそう聞かれコクンと頷くと頭を撫でられる。
優しく暖かい手で触れられ、輝血は幸輝を思い出した。
「……似てるなぁ…。」
ポツリと呟いたその言葉が凱斗の耳に届いたかは分からなかった。




