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「お待ちしておりました。」
門前に並ぶ隊員が整列し敬礼する。
隊員達に向け手を振り、屋敷の中へと向かう凱斗と凱斗に続く隊員達。
最後列の後を追うように輝血と総龍隊員達も屋敷の中へと足を踏み入れた。
先頭を歩く凱斗の後ろには緊張感が漂った。
少し歩いた先で一人の隊員が凱斗の横へと並び、廊下沿いに設置された階段へと手を向ける。
「此方になります。」
隊員の言葉を聞いた凱斗はチラリと後ろを振り返り、「前においで。」と輝血を手招きした。
輝血は総龍隊員に連れられ、青龍隊員達の間を歩き凱斗の隣へと並ぶ。
地下へと続く階段の先は、薄暗く照らされている。
「さて、何を話してくれるやら。」
凱斗はそう言うと階段を下っていく。
その後ろに輝血と総龍隊員、そして数人の青龍隊員達が続いた。
階段を下りきった先には二人の青龍隊員が敬礼をして立っており、凱斗へ挨拶を済ませる。
「お疲れ様。」
凱斗がそう声を掛けると青龍隊員達は一瞬だけ嬉しそうな表情を見せた。
青龍隊員は「失礼致します。」と背を向けると、鍵を取り出し扉を開ける。
キィッと音を立て開いた扉。
中には複数の扉があり、全ての扉は透明で中の様子が丸見えだった。
凱斗が扉の先に進むと同時にある部屋が騒がしくなる。
「誰だお前!」「総龍の奴か!」「何をしに来た!」
複数の女達の叫び声に凱斗は「ははは…。」とひきつりながら笑うしかなかった。
「女の方が圧倒されるな。」後ろを振り返った凱斗がそう言うと、総龍隊員達は頷いた。
「輝血、おいで。」
凱斗は輝血に向かい手を差し出す。
輝血は恐る恐る一歩中へと入り、凱斗の手に触れた。
騒いでいた女達は輝血の姿を目にすると口を開けたまま目を大きく見開いた。
「輝血か?」「どうしてここに?」「無事だったのか!」
女達は輝血に対し安堵の表情を浮かべる。
「輝血……?」
一人の女の声が聞こえると、周りの女達は口を閉じた。
「アザミ…?」
輝血が名前を呼ぶと女はニコリと微笑んだ。
「アザミ……アザミ……!」
輝血は壁へと駆け寄り名前を呼んだ。
微笑む女はゆっくりと壁へと近付くと、壁に手をつく。
「輝血、無事だったのね。総龍の所へ連れて行かれたと聞いた時、私は最低な想像をしてしまったわ。ごめんなさい。」
輝血はアザミの手に自分の手を合わせアザミの瞳を見つめた。
「俺も懍も無事だよ。他のヤツらも……全員ではないけれど……。」
輝血の手が震える。
アザミは震えに気付くと、ゆっくりと輝血の後ろへと視線を向けた。
「貴方、私の家族に何をしたの?」
アザミの声は震え、怒りが混じる。
瞳は闇に覆われ、怒りの炎が灯る。
「罰だよ。お前達も罰を受けただろう?同じだよ。……ま、多少はウチの方が厳しかったかもしれないが。」
凱斗は腕を組み真っ直ぐとアザミの目を見て話した。
「多少って……輝血はこんなに痩せ細ってなんていなかったし、こんなに弱々しくもなかったわ!相当酷いことをしたのでしょう?!」
アザミが壁を強く殴り怒鳴りつけると、凱斗は小さくため息をつき輝血の肩を掴み引き寄せた。
「うわっ」
急に引っ張られた輝血がよろける姿を横目に、凱斗は先程まで輝血が立っていた場所へと立ち、壁に手を付きアザミを近距離で見つめた。
「な、なによ!」
アザミが驚き1歩後ろに下がると凱斗はニヤリと笑う。
「相当酷いこと、ね。それは今までお前達がしてきた事だろ?仮に俺達が相当酷いことをコイツ達にしてたとしよう。でもそれは因果応報。自分がしてきた事が返ってきただけだ。それだけの事をお前達はしてきたんだよ。自分や仲間が酷い目に遭うと怒るというのは仲間意識が高くて嫌いじゃないが、立場を弁えて発言をしろよ?」
アザミの額からは汗が流れ落ちる。
アザミの後ろにいる女達は喉を鳴らし立ちすくむ。
「それにコイツが痩せたのはコイツが飯を食わなかったからであって、俺たちの罰の結果では無い。まあ今からその理由、それにここに来た理由も話す。」
凱斗は青龍隊員に椅子を持ってくるように言うと輝血の隣に立ち、輝血の耳元へと口を近付けた。
「あの女はお前の言葉を信用し、お前になら話すだろう。これ以上被害が増えないように出来るだけ情報を聞き出すんだ。」
凱斗の顔が離れ、輝血が凱斗の方を見ると、凱斗はフッと笑い輝血の頭を撫でた。
輝血がつられて笑うと凱斗に頭をはたかれムッとした表情を見せる。
それを見てまた凱斗が笑う。
その光景を見ていたアザミと女達は目をぱちぱちとさせ首を傾げた。
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「まさか……そんな事になっていたなんて……。」
凱斗と輝血から話を聞き、青ざめた表情を見せるアザミと女達。
「それでアザミ……何か知っていることは無いか?」
輝血の問い掛けにアザミは首を横に振った。
「ごめんなさい。私は何も知らないわ。香ちゃんも知らないと思うの……。」
顔を伏せ身体を震わせるアザミ。
輝血はアザミに「そうか。じゃあいいんだ。」と言うとチラリと凱斗を見て、息を飲む。
片口角を上げ、あまりにも冷たく鋭い眼差しでアザミを見つめる凱斗は、あの日見た魔王様の姿だったのだ。
「何も知らないなら仕方ないな。じゃ、俺達は帰るとするか。」
スッと立ち上がり伸びをする凱斗。
「ほら輝血、行くぞ。」
腕をプランとさせ気怠げに輝血に声を掛ける。
輝血は慌てて立ち上がると、そのまま凱斗に扉の方へと背中を押された。
「ま、またね!アザミ。」
ワタワタとしながらアザミの方へ顔を向け手を振る輝血。
それを見て薄らと笑みを浮かべ小さく手を振るアザミ。
そんなアザミに輝血は気付かない。
アザミは扉が閉まるまで輝血の背を見つめ続けた。




