05
「懍さん、あの女はどうですか?」
輝血がいる部屋へと向かう懍の後ろを歩く男が尋ねる。
「んー?いつもと一緒。ちょっと優しくすれば受け入れる馬鹿女。普通会ってすぐ首絞めてきた男が豹変して優しくなったら怖くない?その優しさ絶対嘘じゃん。でもああいうタイプの女はその優しさに引っかかる。そして俺を受け入れ最後まで俺の欲を発散する為だけに股を開く女になる。哀れだねぇ。哀れすぎて笑いそうになっちゃってさぁ、手が震えちゃった。」
懍が笑いながら話すと男も笑う。
「俺が好きなのは初めて見る苦しむ顔で、それ以降は興味無いわけ。あの女もいずれ向こう側に行く。俺の為に稼いで、俺の欲を受け入れて、そして死ぬ。ははっ、人は恐怖心に支配された時正常な判断が出来ないまま堕ちていく。馬鹿しかいないよ本当に。」
「確かに今までもそうですもんね。懍さんそういうタイプの女見つけるの上手いですよね。ってそうだ、懍さんの玩具達は今も頑張ってますよ。たまには顔出してあげないと拗ねるんじゃないですか?」
「そうだね、落ち着けば顔を出すよ。伝えておいて、もう少しだけ我慢してって。」
「はい!」
懍と男は不敵な笑みを浮かべたまま輝血がいる部屋の中へと入って行った。
「うっわくっさ!」
部屋に入るなり懍は顔を歪め鼻を摘む。
部屋の真ん中には地面を舐め回る男がいてそれを囲む男達が笑っている。
男は嘔吐物や尿に塗れながら必死で舌を動かしていた。
懍はそんな男を見てさらに顔を歪めた。
「かーくん悪趣味過ぎない?」
扉の横で煙草を吸いながら男を見つめる輝血に声を掛けると、輝血は笑う。
「懍に言われたくないよ。」
輝血は煙を吐くと灰皿へ煙草を押し付ける。
「で、どうする?」
輝血は懍の方を向く。先程笑っていたとは思えない程冷徹な目をした輝血を見て懍は嬉しそうな顔をする。
「お父さんにも報告がいってるはず。お父さんからの連絡を待つのがいいと思う。あと、場所変えない?ここ臭くて嫌だ。」
懍は扉を開け輝血を呼ぶ。
「早くー!俺達まで臭くなっちゃう。」
輝血は男達に「コイツはもういいや、お前たちの好きにしな。」と言うと、顔を上げた男に手を振る。
「タイミングが悪かったね。じゃあなおっさん。」
輝血が部屋から出、扉が閉まる瞬間男達の笑い声と男の悲鳴が聞こえた。
「あーあ、かーくんの新しい玩具探さないとね?」
懍は輝血の隣に並び扉を見つめた。
「暫くはいいかな。というか、遊ぶ暇なんて無さそうだ。」
「確かにね。」
二人は外に出るとボロボロのベンチに腰を掛ける。
「そろそろ連絡がきそうだね。」
懍が輝血にそう言うと、輝血の携帯が鳴る。
「懍、お前凄いな。」
輝血はチラリと懍を見た後携帯を取り出しスピーカーボタンを押した。
「もしもし。」
「輝血かい?話は聞いたと思う。やはり絶対は無かったね。」
「ああ、アビスに様子を見に行った俺の可愛い仲間が龍に捕まる。はっは、大人しくてめぇらの巣に篭ってろよクソ集団。」
「輝血の気持ちも分かるが、今は捕らえられた子の救出が優先だ。だが、それが難しすぎる。」
「どうして?龍の巣に突っ込めばいいんじゃないのか?人数はこっちの方が多いはずだぞ。」
「人数はね。一人一人の力は向こうの方が上だ。それに連れ去ったのは黒スーツの男達だったと聞いた。隊服ではなくスーツ……総龍なんだよ。」
「総龍がなんだよ。他の龍に守られてるだけだろ。一番弱そうだと思ってるんだけど。」
輝血の足は次第に大きく揺れる。
「いや、違うよ輝血。総龍は全ての龍の頂点に立つ。中でも総龍会会長は絶対的存在だ。この存在が居なくなれば龍は成り立たない。だからそれぞれの龍で鍛え抜かれた者達が総龍隊員になり、幹部となり、会長の側につく。」
「結局守られてるじゃん。だからあれだ、会長の近くのやつ殺っちゃえばこっちのもんって事だろ。」
「会長を舐めてはいけない。会長自身に力が無ければ務まらない。総龍の幹部ですら会長には敵わないと聞く。分かるかい?輝血。僕達ムスカリ全員で真正面から立ち向かえば龍に食われて終わるんだよ。」
「じゃあどうするんだよ。連れ去られたんだぞ?!アイツらは俺達みたいな人間を拷問して喜ぶ奴らだぞ?!仲間が拷問に合うかもしれないって分かってて黙って見てろって言うのかよ!」
「黙って見るなんてこともしない。捕まった子はアビスを見て回っている途中、先に住み着いていた人と揉め、そこに龍が現れ連れて行かれたと一緒に居た子から聞いた。相手を殺した訳でもなくただ揉めただけ。奴らは被害者に与えた痛みを加害者にも与える、そんな奴らだ。拷問には合わないだろう。」
輝血と懍は納得のいかない様子で黙ったまま次の言葉を待つ。
「輝血、懍。カブトの君達が暴れる事によって捕らえられたあの子の帰りが長引くかもしれない。僕も早く連れ出してやりたいが少し時間が必要だ。」
「じゃあ俺達はどうしたらいいの?俺もかーくんも殺りに行く気満々なんだけどお預けって事?」
懍は苛立つ輝血の背中を擦りながら話す。
「僕達は誰か一人が酷い目に遭わされると、他の者全員が飛び散るように相手に向かって行く事から蜘蛛の集団、と呼ばれているらしい。ははは、ならその名に相応しく蜘蛛の糸を張って相手が自ら掛かるのを待とう。一人一人の力が上でも、少数ならば僕達全員で相手にすれば勝てるさ。卑怯だと言われても構わない、僕は君達全員を可愛い我が子だと思っている。誰一人失いたくないんだ。」
「糸を張るってどういう事だよ。」
「食屍鬼が居なくなった今、僕達はザリチュの森を抜けアビスやその他の地区、それに各龍の地区に行く事も容易くなった。龍が歩き回っているといっても少数のグループ行動。一つずつ糸に絡ませ総龍の巣について聞けばいい。何事もまずは情報が大事だからね。」
「その情報を聞き出す手段は?」
「輝血がいつも玩具で遊ぶようにすればいい。でもあの遊びは懍はあまり得意ではなかったね。黒龍には女隊員が居ないと聞く。白龍も少なく、青龍と赤龍は女隊員が多い、そう聞いた事がある。だから懍は女隊員を捕まえれば得意な遊びをすればいいよ。」
「じゃあ俺達は青龍と赤龍を狙えばいいの?」
懍が質問をすると沈黙が流れる。
「お父さん?」
「ああ、すまない。いや、それでもカブトは黒龍と白龍を相手にしてもらうことになるね。アザミと香、雪のしずくが応戦すると連絡をくれてね。雪のしずくは女性しかいない。黒龍と白龍を相手にすれば向こう側が有利になってしまう。ごめんね懍。懍はあまり遊ばせてあげられないかもしれない。」
懍は「つまんねぇのー!」と叫び、ぷーっと頬を膨らませた。
「輝血、カブトの頂点に立つ君に全てが掛かっている。任せられるかい?」
「ああ、いいよ。本当は今すぐにでも乗り込んでやりたいけど、少し時間を置いて確実に殺れるなら我慢するよ。あいつらは前から気に入らない。俺がこの手で全員殺してやる。会長も殺してやる。はっは、龍の息の根止めてやるよ。」
輝血は目をキラリと光らせるとニタリと笑う。




