02
男の子が目を覚ますと、白い天井が視界に映る。
男の子がゆっくり身体を起こすと見慣れない部屋の中の見慣れないベッドの上にいた。
「ふかふかだ……。」
男の子は自分の上にあるふかふかとした布団を触る。
「ここは、どこなんだろう?」
男の子がポツリと呟くと「目が覚めたのか?」と男性の声が聞こえた。
男の子が声のする方へ振り向くと、そこには見知らぬ男性が立っていた。
「おはよう、依睦。調子はどうだ?気分は悪くないか?」
男の子が困惑する中、男性は声を掛けながらベッドの隣にある椅子へと腰を下ろした。
「お、おはよう……ございます……。」
男の子は眉を下げたまま挨拶を返す。
「はは、誰だお前?って顔をしているな。安心してくれ、俺は怪しい者じゃない。クローバーという施設の者だ。名前は、幸せに輝くと書いて幸輝。」
「幸輝……さん……。」
「さんなんて付けなくていいよ。幸輝でいい。お前はもう俺の家族なんだから。」
幸輝がそう言うと、依睦は首を傾げる。
「まだ起きたばかりだから詳しい話は後日にしよう。まずはお前が元気いっぱいになる事が最優先!」
幸輝が依睦の頭を優しく撫でると、依睦はその温もりに少し安心した。
眠っていた間の事は何も覚えていない。
けれど、夢の中でも同じような安心感を得た気がした。
──────────────
それから数日経ち依睦は幸輝と共に病院を出た。
依睦は幸輝に手を引かれ黙ったまま歩く。
依睦がチラリと見上げると幸輝と目が合い、幸輝は優しく微笑むとその場にしゃがみこみ、依睦と目を合わせた。
「うちには沢山の子供達がいる。みんな元気で明るい子達だ。依睦もすぐに仲良くなれるよ。」
依睦は幸輝の目をジッと見つめた。
「お父さんとお母さんはどこに行ったの?」
幸輝は依睦の疑問に優しい声で応えた。
「お父さんとお母さんは二人でね、依睦をもっと幸せにする為の旅に出たんだよ。お父さんとお母さんは今頑張っているんだよ。」
「もっと幸せにする為の旅……?一緒には行けないの?」
「そうだね。親っていうのは子供の幸せを一番に考えるんだ。その旅は子供にとってとてもしんどい道のりなんだ。だから、依睦が辛い思いをしなくて済むように、依睦のお父さんとお母さんが俺の所に依睦を連れて来たんだよ。」
依睦は再び首を傾げる。
「じゃあどうして病院に居たの?」
「少しばかり依睦の体調面が優れていないと判断してね。風邪っぽかったんだよ。だから念の為病院に連れて来て……依睦も辛かったからなのかあの日は丸一日目を覚まさなかったんだよ。」
「ずっと寝ていたの?」
「うん。でも沢山体を休ませたからもう辛くないでしょ?」
「うん!元気!」
依睦はその場でピョンピョンと飛び跳ねる。
そんな依睦の姿を幸輝は愛おしそうに見つめた。
施設に帰ると沢山の子供達が玄関へと集まり、依睦に目を瞑るように言うと手を引き奥へ奥へと進んでいく。
依睦が困惑し慌てていると、幸輝に「大丈夫だよ。」と声を掛けられる。
「依睦くん!目を開けていいよ!」
一人の女の子の声が聞こえる。
依睦がゆっくりと目を開けると、パァンッ!と大きな音が鳴り、目の前にはヒラヒラと綺麗な紙が舞う。
「依睦くん、おかえりなさい!!」
依睦の前に立つ沢山の子供達が笑顔で言う。
「え……え……?」
依睦は突然の事に驚き後ろに立つ幸輝に助けを求めた。
「はは、驚いたね。みーんな依睦が帰ってくるのを待っていたんだ。ほら、テーブルの上にケーキがあるよ。見に行こう。」
幸輝は依睦の手を取るとテーブルの方へと向かった。
依睦は子供達に歓迎されながら幸輝と共にテーブルの上のケーキを見つめた。
デコボコとしたクリームの上に沢山のイチゴが乗っていた。
「みんなでねぇ、作ったんだけどねぇ、ちょっと失敗しちゃったの。」
女の子が「下手くそでごめんね。」と依睦に謝ると、依睦は満面の笑みで「ううん、嬉しい!有難う!」と応えた。
女の子達は「よかったぁ。」と胸をなでおろし、男の子達は依睦に抱きついてきた。
それから依睦はみんなと仲良く暮らした。
毎日たくさん遊び、学び、時には喧嘩をして仲直りをし。
沢山イタズラをして幸輝に叱られ反省し、そしてまた沢山遊んだ。
毎日疲れてぐっすりと眠れた。
幸輝以外の施設の大人達とも関係は良好で、毎日温かいお風呂に入り、温かく美味しいご飯を食べた。
ふかふかの布団に入って眠る時が一番幸せを感じられた。
依睦はいつか迎えに来る両親に会えるのを楽しみに過ごしていた。




