03
「顔を上げて立て、亀八。」
亀八が顔を上げると凱斗が手を差し出す。
亀八はその手を取りゆっくりと立ち上がる。
「処分じゃない、犬になってもらう。」
凱斗は亀八の頭をグシャグシャと撫でながら言う。
「犬…?」
亀八は小さく首を傾げた。
「そう、犬。元々は俺達龍の犬になってもらい、働き生きて償うのがコイツらの役目。特に柏木は食屍鬼討伐時代の隊員だ。武器さえ持てばそれなりの動きは出来る。あの時代に戻ってもらう。何もしないまま命を落とすなんてことはさせない。もし柏木が俺達の手によって命を落とす日を待ち望んでいる、というのならば、俺達の為に命を懸けて戦え。」
柏木は自分の考え全てを見透かされているような気持ちになり、少し恥ずかしくなった。
「とりあえず亀八と桜庭は黒龍と白龍隊員の訓練を開始。総龍隊員はこいつ達の世話と訓練。百音と彩葉は捕らえているアザミ、香、その仲間と俺が接触する場を設け、隊員達には黒龍白龍の援護が出来るよう準備を進めてくれ。
お前達は地上の部屋で生活してもらうがこんな事があった今、前よりも厳しい監視になる。輝血はさっきも言った通り俺と青龍、赤龍の屋敷へと向かう。柏木もとりあえずはこいつらと一緒に部屋で待機。」
凱斗がそう言うと各隊長、総龍隊員達が膝を付き頭を下げる。
「ああ、そうだ。最後に恥ずかしい話だが、今この屋敷に大橋は居ない。俺達に隠れてうまい事逃げ道を作ってやがった。その道を辿ったが既に出口は外側から塞がれており、手こずった俺達はまんまと逃げられてしまった。俺達を裏切った大橋は自分がどうなるか分かっているから今も必死に逃げているだろう。で、今総龍隊員の一部隊が大橋の捜索に出ている。もし仮にこの中の誰かが大橋を見つけたらその時は話せるだけの気力を残し捕らえるように。今は情報が欲しい。鍵を握る大橋の命は今は奪わなくていい。俺からは以上だ。」
膝をついた者達は「はっ」と返事をし立ち上がると素早く部屋を出る。
「さて、お前達の部屋に案内しよう。今日はゆっくりしろ。輝血、お前は明日俺と一緒にお出掛けだ。ちゃんと眠っておけよ。」
凱斗はそう言うと輝血達に背を向け手をヒラヒラとさせ、部屋を後にした。
輝血達はその場に残った総龍隊員達に連れられ広い部屋へと案内された。
部屋には人数分の布団と着替えが用意されていた。
「部屋の前には二人の隊員を見張りとして付けておく。トイレ等の用事があれば部屋の前にいる隊員に声を掛けるように。それと、少しでも体調が悪いと感じたら直ぐに報告するように。」
隊員はそう言うと部屋を出て扉を閉め、輝血達は糸が切れたかのようにその場に座り込んだ。
──────────────
目の前で別の生き物になってしまった仲間。
元白龍隊員であっても素手では死を覚悟する程の生き物へと。
自分達に助けを求めてくるあの姿が脳裏にこびりついて離れない。
躊躇しどうしようも無い自分達の代わりに救いの手を差し伸べたのは、総龍の頂点の人間。
救いの手は一瞬にして自分達の仲間の願いを叶えた。
”家族なら尚更、この苦しみから早く解き放ってやった方がいい。そう思わないか?こいつらが誰かを食べたその時完全に人間では無くなる。それでもお前はこの状態で生かしておきたい、そう思うか?”
自分達へ向けてこの言葉を投げかけてきた時、彼の目は今までに見た事がないほどに悲しい色をしていた。
食屍鬼の第一被害者家族。
一晩にして家族三人を失い、その後彼自身が食屍鬼と戦ってきた。
食屍鬼の手によって幾つもの仲間達の命を失い悔しい思いをしてきた男。
誰よりも食屍鬼と近く、食屍鬼を恨む人間。
誰よりも、食屍鬼がいない世界を望んだ人間。
輝血達は着替え布団の中へと入る。
どれだけ目を瞑っても眠ることは出来なかった。
秒針の音だけが響く。
自分達が望んでいたモノとは少し違う。
自分達に従い護衛するモノを作りたかった。
自分達の家族をあんな姿に変えたかった訳では無い。
自分達がソレになりたい訳では無い。
自分が食屍鬼復活を望んだから、自分の家族があんな目に遭ったんだ。
輝血は静かに涙を流しながら、心の中で何回も何回も謝り続けた。
輝血が涙を流していることに、その場にいた全員が気付いていた。
そしてそのまま……朝を迎えた。




