02
「絶滅したであろう食屍鬼が再び俺達の前に姿を現した。ただこれには俺の責任もある。」
凱斗がそう言うと桜庭が立ち上がる。
「凱斗さんに責任なんて無いでしょう!?元はと言えばあの研究者がまたコソコソと……。」
「落ち着け桜庭。座れ。」
桜庭は、「取り乱しました。申し訳ございません。」と頭を下げ席に着く。
「で、えーと、ああそうそう。そうだよ、大橋。あいつがコソコソ、と。ただその大橋を生かしておいたのは俺。コソコソしている事に気付けなかったのも俺。」
凱斗は大きくため息をつき天井を見上げた。
「水仙とっ捕まえて少し経った位からあいつの様子がおかしいって隊員から報告は受けていた。俺がその時すぐに調べてりゃ止められたかもしれない。ただあの時は───」
「集団暴行事件に連続殺害事件、その他諸々の救援依頼が多数。白龍地域も他地域も全て応援要請が今までに無いほど届いて人手不足に陥る事態。会長も朝から晩まで各地に出向いてましたもんね?」
亀八がそう言うと凱斗は再びため息をつき頷く。
「俺が会長になってから初めてだった。タイミングが悪すぎる。」
「これも大橋さんが関係している……とかって無いですか?」
彩葉が恐る恐る発すると、百音が手を挙げる。
「私もそう思います!私達にとっては最悪なタイミングですが、大橋研究者にとっては最高のタイミング。」
「それはそうですが一体どうやってあれほどの人数を動かしたと言うんですか?大橋さん一人では少し無理があるように思えますが。」
桜庭が眉間に皺を寄せながら言う。
「水仙の手助け……?」
亀八がそう言うと百音は大きく頷いた。
凱斗はうーんと頭を抱える。
「あの……。」
か細い声に凱斗が反応する。
「どうした輝血?」
隊長達も一斉に輝血へと視線を向けた。
「お父さんが……人を集める、動かすのは容易い……。」
「ちょっとかーくん!」
輝血の言葉を遮るように懍が声を上げる。
「ごめんな、懍。今は輝血が話してるからお前は黙ってろ。いいな?」
凱斗がそう言うと懍は凱斗をキッと睨み付け、それを見た凱斗はニヤリと笑った。
お前に睨まれた所で怖くも何ともない、そう感じとれる笑みに懍は唇を噛み締め下を向いた。
「輝血、続けて。お前達の意見は重要だ。」
凱斗は輝血に優しく微笑みかけ続きを催促した。
輝血は懍の手を握ると凱斗の目を見て口を開く。
「お父さんには子供と呼べる人が俺達以外にも沢山いる。何人いてどこの誰なのかまでは俺も分からない…。俺が知っているのはラメント、ルスト、エクリプスに住んでた人達だけ。……ただ、アザミなら他の人を知っているかもしれない。」
「アザミ?あー、雪のしずくのリーダーか。アズール地区とクレセント地区に分けて入れていたよな?アザミはどっちにいるんだ?」
凱斗は百音と彩葉の方を向く。
「はい。アズール地区の青龍屋敷地下にいます。香は彩葉ちゃんの所、赤龍屋敷にいます。」
「必要ならば総龍本部までお連れいたしますが……ど、どうしましょう…?」
「ん、分かった。俺が行くよ。噂で聞いたよ、アザミも香も他のメンバーも未だにお前達に心を開かず敵対心剥き出しらしいな?素直に同行しないだろ。はは、俺が行ったら血相変えて殺しにかかってきそうだな。」
凱斗がヘラヘラと笑うと桜庭が溜め息をついた。
「私も同行しますよ、凱斗さん。」
「俺も同行しましょうか?」
「桜庭も亀八も同行しなくていいよ。お前らには別のことをしてもらいたい。俺と同行するのは───」
凱斗は再び輝血の方へと視線を向けた。
「輝血、お前だよ。」
輝血は優しくも冷たく感じる笑顔から目が離せなかった。
「お、俺…?」
輝血が恐る恐る聞くと凱斗はニコリと笑った。
「そ、お前。俺だけが姿を現せばさっきも言った通り血相変えて殺しにかかってくるかもしれない。でも家族のお前が居れば多少は落ち着いて話してくれそう……と思ったんだけどどう?」
凱斗の問い掛けに答えたのは懍だった。
「アザミも香も賢いからあんたをどうにかしてやろうなんて思わないよ。ただ、かーくんは痩せてしまって体力も無い。そんなかーくんの姿を見れば酷い事をされている、と思って余計話さなくなると思うけど。」
ツンと冷たい態度で答える懍を見て凱斗は頷く。
「確かに今の輝血の姿を見れば総龍に飯を抜かれたとか思うかもしれない。でも飯を食わないと判断したのは輝血、お前自身だよな?」
「かーくんは無理矢理そう言わされていると考えそうだけどね。」
「賢いんだろ?それに家族なら、輝血が本当の事を言っているのか、言わされているのかなんて目を見りゃ分かりそうなもんだけど。……よっぽど輝血の演技がうまけりゃ見抜けないかもな?」
輝血は黙ったまま凱斗の目を見つめた。
「それにこの現状を早くどうにかしなけりゃいけない。これ以上の被害者は出したくない。」
輝血の目を真剣な眼差しで見返し話す凱斗。
「お前達の仲間……家族がああなったのはうちの研究者のせいだ。それに関しては俺が頭を下げる。申し訳ない。」
凱斗が頭を下げると、桜庭達が顔を上げるようにと声を掛ける。
凱斗はゆっくりと顔を上げ、話を続けた。
「ただこの事に関してはお前達の父親である水仙が絡んでいる。何かを企んでいた事は分かっている。これが水仙がお前達に話した”糸を張り巡らせた”の意味を指しているんだろう。
という事は、お前達はこうなる事を知っていた、そう解釈しているんだけど違うか?」
凱斗の目は鋭く冷たい。
輝血や懍、他の仲間たちは喉を鳴らした。
「確かに……最初はそのつもりだった。」
輝血が小さく震えた声で話し始める。
「ただ自分の家族がそうなるとは思っていなかった。俺達は大橋の存在と食屍鬼の存在を知り、その食屍鬼がまた現れれば龍達はそっちで精一杯、俺達の仲間も奪い返せる。その可能性があるなら大橋と接触し協力してもらおう、そう思っていた。そこで大橋を連れ去ろうとした日、燈龍と出会った。」
凱斗は腕を組み黙って俯く。
「貴方達は食屍鬼の恐ろしさを知らないのですか?やっとの思いで消滅させ、長い戦いに終止符を打てたというのにまた奴らを復活させようだなんて……。」
桜庭が頭を抱えながらそう言うと、凱斗が顔を上げる。
「これは厄介な蜘蛛だな。毒を含ませた糸を張り巡らせ、そこに掛かった獲物、つまり俺達を片っ端から食い散らそう。そういう事か?ははっ、それなら引っ掛かるのが龍だけにしておけよ。どうしてお前達の家族が獲物になったんだ?」
「それは分からない……。」
次は輝血が俯いた。
「いい事を教えてやろう。」
そう言うと凱斗は立ち上がりゆっくりと輝血の目の前まで行くとしゃがみこみ、俯く輝血の目を覗き込む。
「お前達も大橋に裏切られた、または水仙と大橋は最初からそのつもりだった。まあ大方大橋の裏切りだろう。水仙は俺達に対していつもお前達の安否を確認してきていたからな。そんなお前達を食屍鬼に……なんて考えはしないと思うが。」
凱斗は目を逸らしゆっくりと立ち上がる。
「お前達の考えはなんとなく最初から知ってはいたけど、俺の思い違いであれと願っていた。が、もうお前達が本気で計画を立てていたという事は分かった。柏木、お前がいながらまさか食屍鬼を復活させようなんて馬鹿げた事を本気で考えていたとは思いもしなかった。……お前が龍を去ってしたかった事はこんな事なのか?」
凱斗は少し悲しそうな目を柏木へと向ける。
「凱斗くん、申し訳ない!」
柏木が黙っていると亀八が立ち上がり凱斗の前へと行くと土下座をした。
「こいつは兄の事を慕っていた。そんな兄の命を奪った食屍鬼復活なんて願いもしないだろう。白龍を去り、後に共にした仲間の影響で気が変わり、食屍鬼復活を願う側の人間になったというのならばそれは、兄を忘れ龍に敵対心を抱くただの悪人。」
亀八が顔を上げると自分を見下ろす凱斗と目が合う。
「元白龍のこいつが本気で食屍鬼復活を願うというのならばこいつの処分は白龍にさせて頂きたい。」
亀八は真っ直ぐに凱斗の目を見てそう言うと、もう一度頭を下げる。




