04
「は?」
男の言葉を聞いた輝血は顔を歪ませる。
「謝り方も知らねーのか?おいおい、これ以上冗談言うのは勘弁してくれよ。手が掛かって許されるのは未成年だけだよ。おっさん、お前今幾つだよ?」
男は手を震わせ下を向きまた小さな声で言う
「すみません……でした。」
男は唇を強く噛み涙を流した。
「……まあそれでいいや。じゃ、さっさと片付けて。これ以上苛立たせないでね。次苛立つような事言ったら殺すよ。」
輝血は壁にもたれかかると呆れた表情で男を見つめる。
男は少しの間下を向いたまま動かずにいると、ガシャンッと大きな音が聞こえた。
「俺、待たされるの嫌いなんだよね。」
輝血の隣にあった灰皿は倒れ中の吸い殻があちこちに散らばり、男の目の前に転がってきた吸い殻が黒い靴に踏み潰された。
男の前に大きな影が出来る。
男に伸し掛る圧は顔を上げることを良しとしなかった。
「いつまで待たせれば気が済む?」
頭上から聞こえるその声は先程よりも重く強い圧がかかっており、男は震えることしか出来なかった。
何も出来ないまま男は空を見上げる。
視界に映るのは宙を舞う赤黒い液体。
口元に痛みが走る。
後ろに大きく倒れた男の上に跨る輝血は光の無い暗い瞳で見下ろす。
「もう待てねぇ。」
輝血の言葉を聞いた男は痛む口を開いた。
「か、片付けっ方が分かりません!教え、教えてください!」
男が涙を流しながら必死に叫ぶと、輝血は目をパチパチとさせた。
「そういや教えようと思った時におっさんが咳き込んで……最後まで教えてなかったか!」
輝血が男の上から退き男に座るように言うと、男はゆっくりと体を起こして輝血の方へと視線をやる。
「ごめんごめん、教えたと思い込んでた俺が悪いね。ちゃんと分からないって言えて偉いよおっさん。」
輝血はニコリと笑ってみせるが、男の目に映る輝血は悪魔でしかなかった
「まず舌を出すでしょ。ほら、べーってして。」
男は黙って従い舌を出す
「そうそう。そのまま地面に顔くっ付けて、舐めるんだよ。」
男は舌を出したまま、また動けなくなる。
「ほらほらどうした?簡単だろ?自分が汚した部分を舐めて綺麗にするだけ。ついでにおっさんの血も飛んじゃったからそれも片付けてね。」
輝血は変わらずニコリと笑ったままそう言うと男をジッと見続ける。
男はそんな輝血を見て諦める。
きっと抵抗しても無駄だ。殴られ蹴られるだけだ。待たせればまた怒るだろう。次こそは本当に殺されるかもしれない。
男はゆっくりと地面に顔を近付け、周りにいる男達に笑われながら地面をペロリと舐めた。
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「なんなの?!やめてよ!!」
女は自分の上に跨り首を撫でる懍を見て叫ぶ。
懍は嬉しそうに微笑み女の耳元へと顔を近付ける。
「もっと抵抗して?その表情、興奮する。」
耳を甘噛みすると女はピクリと身体を跳ねさせる。
懍は体を起こすと女の首にそっと両手を重ね見下ろした。
女は震えもがき抵抗したが、その姿を見た懍は体をプルプルと震わせニタリと笑い、手に力を込める。
「嫌っ!!やめっ…!!」
女は懍の手を掴み離そうとするが微動だにしないその手の力は増した。
口を開け涙を流し懍の指を掴んで爪を立てると血が滲む。
「お姉さん、苦しい?」
女は涙を流すことしか出来ない。
目を見開き涎を垂らす女の顔を見た懍はそっと手の力を緩め優しく抱き締める。
「可愛いよ、お姉さん。」
呼吸をすることを許され大きく息を吸い込み咳き込んだ女は天井を見つめる。
懍は女の首元に顔を埋め幸せそうな表情を見せた。
「お姉さんいい匂いだー。俺ぇ、この匂い好き。」
懍は女の首をペロリと舐めるとそのまま頬へと舌を這わせる。
女は天井を見たまま動かない。
抵抗をしない女を見て懍は舌打ちをすると女の上からおり横たわる女の隣に座る。
「つまんねーの。もう元気無いの?」
懍が女の顔を見ると、女の目が動き懍と目を合わせる。
「どうして、こんな事……。」
女が小さな声でそう言うと懍はキョトンとした顔をして答えた。
「女の人が苦しんでる顔と声が好きだから。最初は抵抗するでしょ?でもさぁ、段々弱ってくの。最後には諦めて受け入れたり、これが性癖になっちゃったり。イシシッでも俺が好きなのは一番最初のあの絶望を感じた瞳。興奮する。大好き。」
懍が笑顔を向けたまま女の頭に手を伸ばすと女はビクリと跳ねる。
そんな女を見た懍はそのまま体を倒し女の上に覆い被さり頭を撫でる。
「俺が怖い?」
女は小さく頷く。
懍は女の頭を撫でたまま、また女の耳元へと顔を近付ける。
「ごめんね、苦しかったよね。ごめん。」
懍は小さな声でそう言うとギュッと女を抱き締めた。
女は懍の言葉に戸惑う。
「ごめんね、お姉さん。本当にごめん。もうしない。許して。」
先程までとは違い弱々しい声でそう言う懍の手は震えていた。
気付けば女は懍を優しく抱きしめ「謝らなくていいよ。」と言っていた。
「でも俺……あんな事しちゃって。」
「もういいよ、大丈夫だから。」
自分の首を締めてきた、出会って間もない男のゲスさと弱さをものの数分で見てしまった女は混乱していた。
何故許そうとしているのか自分でも分からなかった。
「ありがとう。」
懍はボソリと言ったあとゆっくりと体を起こし、女の手を引き向かい合って座る。
「俺、お姉さんに惚れたかもしれない。」
懍は無邪気に笑いながら女を自分の元へと引き寄せると優しく、強く抱き締める。
女は戸惑いつつも懍の腕の中へと収まる。
暖かくて良い匂い。自分を苦しめた男の鼓動が心地よい。
女はそっと懍の頭に触れ、撫でる。
懍はそれを受け入れ喜んだ。
「嬉しい。もっと撫でて。」
懍は甘い声を出し抱き締める力が増す。
女は懍のフワフワとした髪を優しく撫でた。
暫く経ち懍はそっと女から離れると微笑み女の唇を舐めた。
「なっ!」
女が顔を赤くし驚くと懍はまた優しく微笑む。
「怒った?」
懍の質問に女は首を横に振ると、嬉しそうな顔が近付き触れる。
何度も離れては触れる唇は熱を帯び、女の息は荒くなる。
そんな姿を見た懍は何度も何度も唇を重ねた。
懍の手が女の服に伸び、そのまま押し倒すと女は抵抗せず受け入れた。
「優しくするね。」
懍はそう言うと女の服を捲り、懍の手が女の肌に触れた時。
「懍さん!!!」
大きな音を立て扉が開くと懍の手が止まる。
「何?ノック位してくれない?」
懍は女から離れると立ち上がり扉へと向かう。
「すみません。ですがその、ご報告が……。」
男は懍の耳元へと顔を近付けコソコソと話す。
懍は何度か頷いた後少し目を大きくした。
「それかーくんは知ってるの?」
「輝血さんの所には他の者が報告しに行きました。」
「そっかそっか、じゃあかーくんも玩具遊びを辞めて話に来るだろうね。俺もここらで辞めておくよ。」
懍はそう言うと女の方を向き顔の前で手を合わせる。
「ごめんねお姉さん。俺急用出来ちゃったからここで待ってて。」
懍はそう言うと男と共に部屋を出る。
取り残された女は乱れを正しその場に座り、懍の帰りを待つ事にした。




