06
あれから何日、何週間経ったのか分からないまま輝血達は白部屋で過ごした。
あの日を境に輝血は一人で笑い、涙を流し、叫び、また笑うといった生活を送っている。
そんな輝血の傍にはいつも懍がいて、抱き寄せ落ち着かせていた。
仲間達も輝血を心配するが、自分達ではどうしようも無い事、そしてこの状況を知っているであろう総龍がなんの反応もしてこない事に苛立ちを覚える。
悪い空気が部屋を覆いつくす。
日が経つにつれて皆の口数は減っていき、最後まで声をあげていたのは輝血だった。
それからさらに日を重ねたある日の事。
料理が運ばれる、というアナウンスしか流れなかった白部屋に久々に人の声が流れ込んだ。
「皆さん、こんにちは。」
毎日料理のアナウンスをしてくれる声。
元々は拐う予定をしていた者の声。
「だいぶお疲れのようですね。ですが、あと少しの辛抱です。本当に……あと少しの。」
仲間達は首を傾げた。
輝血はボーッと天井を見上げている。
「もう少し……そうですね、早ければ今夜にでも。いやでも焦りは禁物。今週中、ということにしておきましょう。」
何の話だ?
ここから出られるのか?
と、仲間達は騒ぎ出す。
「シーッ。お静かに。
いいですか?私は今から研究所へ戻ります。入れ替わりで総龍の人が貴方達を監視しにまたこの部屋に来るでしょう。貴方達の会話は全て聞かれているというのは理解していますね?へっへへ、これは内密にしていただきたい。ですので私が去った後は誰もこの話をしては駄目ですよ。分かりましたね?」
仲間達は互いの目を見合せる。
「私は貴方達の味方です。それだけは覚えておいてください。では、また後ほど。」
プツリとマイクが切られる。
仲間達は不審に思いつつも僅かな希望があると信じ誰も口に出さなかった。
懍と柏木は目を合わすと小さく首を傾げた。
輝血は天井を見上げたまま表情一つ変えなかった。
それから暫く経つと総龍の者であろう男の声で、料理が運ばれる。とだけアナウンスが流れる。
白い天井に黒い線が浮かび上がり徐々に黒い空間が姿を現す。
カチャカチャと音を立てながら目の前にゆっくりと並ぶ料理と飲み物。
「ステーキだ!」
お腹を空かせていたのか一人の仲間がそう叫ぶと他の者も目を輝かせて集まった。
「見ろよ、めちゃくちゃ分厚いぞ!」
「いい匂いだな!」
ニコニコとしながら自分の食器を運び、分厚いステーキを口いっぱいに頬張る。
美味い、美味いと皆夢中になって食べた。
そんな時、輝血が叫ぶ。
「どうして!どうして俺は生きている?!どうして殺さなかった?!燈龍!」
一斉に静まり返る部屋。
「かーくん!かーくんは死ななくていいんだよ!」
懍が慌てて輝血の肩に手を回すと輝血はうわぁっと声を上げ泣いた。
「みんなは気にせずに食べてて。」
懍が笑顔で仲間達にそう言うと、仲間達は申し訳なさそうな顔をして食事を続ける。
「懍と輝血の分も運んできてやる。」
柏木はそういうとゆっくりと立ち上がる。
「ごめん、ありがとう。」
懍は柏木に礼を言うと泣き叫ぶ輝血の頭を撫でながら涙を流した。
柏木が懍と輝血の分の料理を運んでくると、懍は切られたステーキをフォークに刺し輝血に声を掛けた。
「かーくん、ほら美味しそうだよ。食べよう?」
輝血は自分の泣き声で聞こえていないのか懍の方を見ることも無く膝を抱えて泣き続ける。
「懍、輝血は俺が見るからお前は先に食べていろ。」
柏木はそっと懍の背中を撫でる。
「でもかーくんが……かーくんにも食べさせないと……。」
「大丈夫だ。落ち着かせてから食べさせるから。お前も少しゆっくりしろ。」
懍は頷き、立ち上がろうとした時。
「まって……。」
「え?どうしたのかーくん?」
泣き叫んでいた輝血は鼻を啜りながらか細い声で懍の服を掴んだ。
「懍……待って……。」
懍は座り直し輝血の頭を撫でる。
「うん、待つよ。大丈夫だよ。……柏木が先に食べてて。」
懍が柏木の方へ顔を向けそう言うと、柏木は首を横に振る。
「今日は輝血も食べられるかもしれない。それなら三人一緒がいい。」
柏木はニコリと笑う。
そんな柏木につられて懍も微笑む。
輝血は懍の服を掴む手に力を入れる。
「あれは……食べたくない。」
輝血の言葉に懍と柏木はキョトンとする。
「かーくんお肉好きだよね?どうして?」
懍が優しく聞くと輝血は眉を下げながら応える。
「分からない。けど、食べたくない。少し臭いし……食べたくない。懍と柏木……みんなにも食べて欲しくない……。」
懍と柏木は困った表情を見せる。
毎日、恐らく決まった時間帯に運ばれる料理。
あまりにも食べるのが遅いと食器を台に乗せろとアナウンスが入る。
一食を逃した所で大したことは無い。
が、輝血はここ何食か連続で食べられずにいた。
それに付き添い懍と柏木も何食か逃していた。
残すのは勿体ないから、と自分達が食べられなかった分は仲間達に分け与えた。
「みんなにも食べて欲しくないって……でももうみんな食べちゃったよ。美味しいって。かーくんも一口でいいから食べておこう?」
輝血は「嫌だ。」と下を向く。
「懍、輝血は俺が見るから気にせず食べてこい。」
柏木はそう言うと懍の服を掴む輝血の手を掴む。
輝血は顔を上げ「ダメだ、食べちゃダメだ!」と騒ぐ。
「気にしなくていい。いつもの事だ。冷める前に食べておいで。」
柏木は輝血の手を少し強引に懍の服から離した。
「懍!懍!!行っちゃダメだ!食べないで!お願いだから!」
輝血の悲しげな叫び声に懍は目を潤ませながら、でも空腹には勝てず自分の分を口にした。
「懍!懍!!」
自分の手を掴む柏木を振りほどいて懍の元へと行こうとするが身体がフラつく。
「危ないから、食べないならここで座ってろ。たまにはゆっくり食事をさせてやってくれ。」
柏木は輝血を抱え部屋の隅へと運ぶ。
「いやだ!いやだ!懍!お願いだから離れていかないで!」
泣きながら叫ぶ輝血を背に懍はステーキを口へと運び続けた。




