05
仲間達は自分達の力では外に出ることが出来ないと知り大人しく座り込んだ。
懍と柏木は黙り込み何かを考えている様子。
輝血は寝転び真っ白な天井を見つめる。
汚れ一つ無い真っ白な空間。
どれだけの時間が過ぎたのかも分からない。
いつここから出られるのか、生きて出してもらえるのかも分からない。
何も分からない。
何かを話せばそれは全て総龍に聞かれる。
「殴ったり蹴ったりし続ければ穴があく、とか無いかな?」
と仲間が言っただけで、室内に総龍からの叱りの言葉が流れ込む。
完全に監視されており自由も何も無い空間にストレスを感じ始める者も少なくは無い。
イライラし出す者を落ち着かせようとする者。
隅で小さくなり頭を抱える者。
それらを眺める輝血の目に光は無かった。
突如ガガガッと大きな音が鳴る。
先程までイライラしていた者達は一斉に目を見開き「なんだ?!」と騒ぎ出し、天井に薄く黒い線が浮かび上がるのを一人が見つける。
全員が天井を見上げると室内に男の声が流れ込む。
「食事の時間です。皆さん端の方に寄ってください。」
男はそう言うとマイクを切る。
天井が少しずつ左右に開かれ白い鉄板の様なものがゆっくりと下がってくる。
皆慌てて端に寄りじっとそれを見つめた。
カチャカチャと食器が音を立てている。
湯気が上がり食欲をそそる匂いが部屋に充満する。
皆黙り込み喉を鳴らす。
「再び失礼します。各トレーに名前が書かれた紙が置かれています。自分の名前が書かれたトレーを手に取ってください。食べ終わったら食器はその台の上に置いてください。床を汚さぬよう綺麗にお召し上がりください。全員の食器が置かれると自動的に上へと戻ります。危険ですのでまた端へ寄ってください。では、お食事をお楽しみください。」
再びマイクが切れると一人が近付き自分の名前を探す。それにつられもう一人、また一人と台へと近付き名前を探す。
自分の名前を見つけると、先程までイライラしていたとは思えない程の笑顔で嬉しそうにトレーを運ぶ。
「かーくんのも取ってこようか?」
懍が輝血の顔を覗き込み訊ねる。
「いや、自分で取りに行くよ。懍は自分のを取ってこいよ。」
輝血はニコリと微笑みゆっくりと立ち上がる。
皆幸せそうに食事を口へと運んでいる。
台の上には輝血、懍、柏木の分のトレーしか残っていなかった。
輝血はふと天井を見上げる。
台の四隅に設置された太いワイヤーが真っ暗で何も見えない空間へと繋がっている。
「どうなってるんだ?この屋敷。」
輝血はボソリと呟きトレーを手に取り先程までいた場所へと戻る。
懍と柏木もトレーを手に取ると輝血の隣へと座った。
「いただきます!」とニコニコしながら食べ始める懍。
小さな声で「いただきます。」と手を合わせる柏木。
輝血は箸を手に取り料理を見つめ、口には運ばなかった。
次々と満足気な顔をしてトレーを戻す仲間達。
もう少しで食べ終わりそうな懍と柏木。
未だに手を付けていない輝血。
そんな輝血のトレーを見た仲間が声を掛ける。
「輝血さん食べないんですか?」
「ああ……なんだかあまり食欲が無くて。」
輝血はそっと箸を置き「よかったら皆で分けて食べてくれ。」と微笑む。
「そんな……悪いですよ。」
「輝血さんも食べないと……。」
「体調悪いんですか?大丈夫ですか?」
と次々と人が集まり心配しだす。
「かーくん大丈夫?ごめんね気付かないまま一人で食べ始めちゃって。」
懍が眉を下げながら輝血の頭を撫でた。
「大丈夫。次からはちゃんと食べるよ。今回だけだよ。」
輝血がトレーを差し出すと皆申し訳なさそうに頭を下げ受け取り、輝血はその場でゴロリと寝転び目を閉じた。
”この部屋は一体なんなんだ?
俺達はこれからどうなる?
中からは出ることが出来ない、全て監視されている。
従うしかないのか?
それにあの時のあの顔……。
お前はどうしてそんな顔を見せたんだ?
総龍は……いや、お前は何を考えているんだ?
お前は俺達をどうしたいんだ?
教えてくれ、燈龍。”
輝血の頭の中をグルグルと駆け巡り見えない答えを探し求め必死に考えていると、いつの間にか眠っていた。
目を覚ますと周りの人間は皆寝転び動かない。
スースーと寝息が聞こえる。
「俺は何時間寝ていたんだ……。」
輝血が体を起こし座ると輝血の前の壁に黒い線が浮かび上がった。
輝血は目を細め見つめた。
黒い線が太くなっていき、輝血は身構えた。
「おはよう、輝血。」
聞き覚えのある声に体がピクリと反応する。
暗闇の中から現れたのは輝血が今最も憎く、そして謎に思う男だった。
「燈龍……。」
「お前ちゃんと飯食わなかっただろ?駄目だなー、ちゃんと食わないと。」
凱斗はそう言いながら眠りにつく者を一人一人見つめる。
「お前は俺達をどうしたいんだ!」
輝血は立ち上がり叫ぶ。
と同時にフラフラと体が揺れた。
ビュッと風が輝血に当たる。
「ちゃんと食わねえからふらつくんだよ。」
輝血の体は少し離れた場所にいたはずの凱斗に支えられていた。
凱斗は輝血をその場に座らせると冷たい目で見下ろす。
「次はちゃんと食えよ。うちのシェフの飯はこの世で一番美味いからな。」
凱斗はまた眠りにつく者を見ながらゆっくりと部屋の中を歩いて回る。
輝血は凱斗の後ろ姿を睨み付けたが、すぐに睨むのを辞める。
微かに漂う生臭いにおいと服に付着する赤黒い染み。
髪の隙間からチラリと見えた凱斗の目。
優しさに溢れた目。
まるで我が子を見守る親のようなそんな目。
「どうして……。」
輝血がボソリと呟くと凱斗は立ち止まり振り返る。
「輝血とお前の仲間達は殺さない。それだけは約束する。ただここから出すには時間がかかる。」
輝血が凱斗の顔を見るとまた冷たい目をしていた。
「時間がかかるって……?」
「それは言えねえな。言ったところでお前達がどうにか出来る事じゃない。」
「今外で何がおこっているんだ?」
「特に何も変わらねえよ。悪さをする奴をとっ捕まえて罰を与える。それだけだよ。」
「今日も誰かに罰を与えたのか?」
「あ?……あー、臭う?やだね、臭いの。風呂に入るか。」
「服にも……。」
「クリーニングだな。全く困るね、もっと平和な世界が訪れる、そう思っていたのに何も変わらねえ。」
輝血は凱斗が一瞬見せた悲しそうな表情を見逃さなかった。
「その顔───」
「じゃ、今日はもうこれで。お前もちゃんと飯食って寝ろ。早めに出してやれるように俺も頑張ってやるからよ。おやすみ、輝血。」
凱斗は輝血の言葉を遮り暗闇の方へと向かう。
輝血は何も言えないまま凱斗の姿を目で追った。
「あ、そうだ。出入り出来るこの場所、俺とお前の秘密な。他のやつに言うなよ。」
凱斗はそう言うと手をヒラヒラとさせ暗闇の中へと姿を消す。
暗闇は徐々に白く白く染まっていく。
輝血はその場所を見つめたままでいた。
輝血は壁にもたれて座り込む。
仲間の寝息だけが聞こえる。
微かに凱斗と生臭い香りが漂う。
一面真っ白な空間に閉じ込められ、24時間監視され、決まった時間に運ばれる料理しか楽しみが無い。
ストレスが溜まる。
「大切な人を失う辛さ……俺は今まで何人に辛い思いをさせてきた…?」
輝血は目の前で失った父を思い出す。
「俺は……辛いと、憎いと人に対して怒れる立場なのか…?」
目を閉じ眉間に皺を寄せた。
「燈龍は俺達に今まで自分がしてきた事を教えようとしているのか……?だとしても……命を奪う理由に……でも俺は今まで何人もの命を……。」
輝血の脳内に今までの遊び相手の苦痛の表情が浮かぶ。
「俺は……どうしてなんの躊躇いも無くアイツらを痛めつけられた…?俺は……どうして……アイツらの命を奪って笑って過ごせていた…?」
輝血は頭を抱え震える。
「俺は……俺は……。」
輝血の息が荒くなる。
「俺は……ハハッ……俺は……。」
呼吸を荒らげながら輝血は不気味な笑みを浮かべた。
「死ぬべき者は俺だろ……?ハハハッ……ハッハハ……ハハハハハハッ。」
輝血の大きな笑い声で仲間達が目を覚まし、一人目を血走らせ笑う輝血に誰も声を掛けられないでいた。
そして、その姿は凱斗の目にも映っていた。




