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食屍鬼 -蜘蛛糸-  作者: 藤岡
崩壊
35/61

03

輝血は大きく息を吸い込むと凱斗に「会いたいです。」と伝えた。

輝血の言葉を聞いた凱斗は頷き総龍隊員達に告げた。

「水仙を前へ。こいつらは後ろに下がらせろ。」

隊員達は一斉に立ち上がると敬礼し半数が仕切りの方へ、もう半数は輝血達を立ち上がらせ後ろへと下げる。

今まで自分達が居た場所には輝血達の方へ向けて一つの椅子が置かれた。

「かーくん、あの椅子って……。」

懍は輝血の肩に顔を乗せて目を大きくする。

「お父さんがいつも座っていた椅子だ。」

仲間達もそれに気付き、喜んだ。

凱斗は気怠そうに玉座に座り、再び煙草を取り出して火を付けた。

仕切りが次々と片付けられ、桜庭が凱斗の隣へと戻る。

少しして車椅子に座った水仙が運ばれてくる。

車椅子はゆっくりと進み、椅子の前に止まると隊員達が水仙を抱え椅子へと座らせた。

車椅子を押して隊員がその場から捌けると凱斗が口を開く。

「久々の再会だが見ての通り水仙は今体調が万全ではない。今の距離から近付くことは許さないが……話す事は許す。」

輝血達は凱斗に頭を下げる。

「疑ってごめんなさい。」

輝血が小さく呟いた言葉は凱斗の耳に届く。

「いいよ。そんな事より父親に声を掛けてやれよ。」

凱斗は煙を吐き出しながら言う。

輝血が水仙を見ると水仙は優しく微笑んだ。

「お父さん。」

輝血のか弱い声だけが響く。

「みんな元気だったかい?」

水仙の弱々しい声が輝血達の涙腺を揺さぶった。

「げ、元気だよ……お父さん……お父さんは……?」

輝血は声を詰まらせながら必死に話す。

そんな輝血の肩にそっと懍の手が触れた。

「そうか、元気か。よかった。」

水仙はニコリと微笑む。

「輝血、懍、二人に伝えたいことがあるんだ。」

水仙がそう言うと隊員が水仙の隣に立ち抜刀する。

「水仙。余計な事を話したら命は無いぞ。それを踏まえた上でよーく考えてから言葉にしろよ。早まる必要は無いだろ?」

水仙の後ろに座る凱斗が冷たい目で見つめながら話すと、水仙は両手を上げて笑った。

「僕は覚悟を決めて話すんだよ……燈龍凱斗。」

「あ?覚悟だ?」

凱斗が眉間に皺を寄せ立ち上がる。

水仙は輝血の目をジッと見つめ口を動かす。

輝血や懍、その場に居た仲間達は目を大きく見開くと共に水仙は赤い涙を流した。


広がる赤黒い海。

響く輝血達の絶望の叫び。

冷たく見下ろす魔王の瞳。

魔王の周りに群がる黒い兵士。

香る匂いは鉄臭く、嗅ぎ慣れたはずのこの匂いに吐き気を催す。

広がり続ける赤黒い海に手を伸ばすと生暖かく、そこから脳内に映るは優しい父の顔。

その場に座り込み叫び続ける仲間と、魔王に殺意を持って飛び掛る輝血と懍。

そんな二人の視界は魔王に辿り着く前に暗闇と化した。

──────────────

隊員達が片付けを始める。

「会長、この男は?」

「……きちんと弔ってやれ。許せない人間だが……前会長の家族には変わりない。」

隊員は頭を下げ転がる水仙を綺麗な布で包み込み優しく外へと運び出す。

赤く染っていた床は元の綺麗な床へと戻る。

「はぁ……。」

凱斗は玉座に座り手で顔を覆う。

「流石の凱斗さんも参りましたか。」

隣に立つ桜庭が声を掛けると凱斗は顔を覆ったまま話した。

「あいつは元々殺す予定だった。殺り方が変わっただけだ。……ただあいつの言葉が引っ掛かる。」

「糸は張り巡らせた。ですか?何か企んでいることには変わりないでしょう。輝血、でしたか?あの子達はその言葉を聞いて目を大きく見開いていました。」

「糸を張り巡らせるの意味を理解した上で驚いていたんだろうな。聞き出すしかねぇ。」

「ですがそう簡単には話さないでしょうね。特に輝血さん。」

「だろうな。あーあ、折角優しくしてやってたのに全部潰れちゃった。」

「だから会わせる必要は無いと。」

「いや、あったよ。会わせる必要。くくっ、俺に対して殺意剥き出しで立ち向かってきたのが嬉しくてなぁ。見たか?あの表情。完全に俺を殺る気でいた。」

「大人しく従わせていた方がいいでしょう。どうしてわざわざ敵に戻るような事を……。」

「……はぁ、バーカ。」

凱斗は顔を覆う手を退けジトッとした目で桜庭を見るとため息をついて立ち上がり手をヒラヒラとさせて扉へと向かう。

「なっ!馬鹿とはなんですか!」

桜庭は眉をピクリと動かし凱斗の後を追う。

「バカだからバカって言ったんだよバーカ。」

「そんな幼い子みたいな事言って!しっかりしてくださいよ!!」

「しっかり、ねぇ。そのうちな、そのうち。」

凱斗がヘラヘラ笑いながらそう言うと桜庭は大きく息を吐いた。

凱斗は桜庭や他の隊長を各屋敷に返し総龍隊員達に休むように告げた。

凱斗は浴衣に着替えると自室とは別の道をゆっくりと歩く。

暗闇に浮かぶ月。心地よい風。シンとした空間に響く葉の擦れ合う音。

凱斗は真っ直ぐと前を見て地下へと続く階段へと向かい、扉の前に立つ隊員は頭を下げ鍵を開いた。

中に入り数十段下ると鉄格子の扉が映る。

前に立つ隊員が驚いた顔をした後頭を下げて鍵を開くと、凱斗は中へと入る。

そのまま歩き進め、数段の階段を下った先に最後の扉がある。

無線連絡が入ったのであろう、既に扉前の隊員は頭を下げていた。

「ご苦労さん。」

凱斗がそう声を掛けると隊員は背筋を伸ばし「お疲れ様です。」と敬礼する。

「あいつ達はどこにいる?」

「はい。白部屋で休んでいます。」

「誰も起きていないんだな?」

「大橋先生がリラックス出来る匂いを部屋に流し込んでいるのでそれの効果もあり───」

「わかった。」

凱斗は隊員の言葉を遮り中へと入っていった。

白部屋と呼ばれる部屋までを気怠そうに歩いて行く凱斗の後ろ姿に隊員は深く頭を下げて見送った。

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