02
凱斗が部屋を出て暫くすると監視員三人組がやってきて、掃除用具を片付けて部屋に戻るようにと告げる。
総龍会に来てから誰も笑顔なんて見せなかった。
連れてこられたその日から数日は拷問にあった。
体罰による償いが終了した者だけがこの場に残っている。
体罰による償いが終了しなかった者の方が多く、今はもうこの世にはいない。
それを良しとするこの国はやはりおかしいと全員が思っている。
自分達がした事は悪で、同じ事をする龍は善。
一方的な私欲の暴力と加害者への報復では違う。
頭では理解しているがやはりおかしいと思う。
だが今そのおかしいと思っている組織の会長に喜びを与えられた。
会長の言葉一つで自分の中での不信感が薄れ喜びに支配される者が殆どで、なにか裏があるのでは?と勘繰るのは輝血と柏木だけだった。
部屋に戻り輝血と柏木は二人、部屋の隅で話した。
「会長は昔と何も変わっていない。志龍隊長に対する思いが当時から薄まっていない。今もとても大切に思っているんだと思う。」
「確かに柏木に話しかける時だけ目が優しくなった気がしたよ。あの人にとって龍に属する者全てが家族同様なんだろうな。」
「だが気になる所がある。」
柏木が輝血の目を見ると、輝血は頷く。
「会長はお前達のお父さんに会わせてやると言ったが……楽しみにしていろ。ではなく、楽しみにしている。と言った。」
「俺もその一言に引っかかったよ。実は一ヶ月ほど前にお父さんに会えると言われたんだ。でもあの人は俺達のトップであるお父さんに対して一番の罰を与えるだろう。あれから一ヶ月……俺はもうお父さんはこの世に居ないと思っている。」
「会えると思わせておいて他のことを企んでいる……そう思うわけか?」
「まあそんな所。ただあいつらは会えると信じきりこんなにも喜んでいる。あいつらのこんなに嬉しそうな顔を見るのは久しぶりだ。だから伝えるのを躊躇してしまう。」
「だがもし輝血が言った通りだとしたら余計に心を閉ざしてしまうんじゃないか?」
「それがあの人の企みかもしれない。」
二人の話を遮るように懍が輝血の背中に伸し掛る。
「かーくんも柏木も暗いけどどうしたの?」
ニコリと笑う懍を見て二人は眉を下げた。
「え?会長が俺達とお父さんを会わす気がない?」
輝血と柏木は懍に今の二人の考えを話した。
懍は目をパチパチとした後、うーんと考える。
「会長からすれば俺達は悪者だもんね。……そうだね、少し考えれば分かった事だね。」
懍はそう言うと落ち込んだ顔をしたまま仲間たちのもとへ行き輝血や柏木の考えを話し始めた。
ニコニコとし、楽しそうにしていた声は止み全員が肩を落とす。
「でもこうして先に覚悟が出来ていた方が受けるダメージも少なくて済む。」
柏木がそう言うと皆小さく頷いた。
お父さんには会えないだろう。
自分達は総龍会の玩具になったのだろう。
浮かれていた自分が恥ずかしい。
今夜何が行われるのかは分からないが、それなりの覚悟を決めて立ち向かおう。
全員は夜まで静かに過ごした。
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夜8時。
部屋の扉が開かれ隊員達に連れられて広い部屋へと連れて行かれた。
大きな扉が開かれた先には中央にある玉座に座り白い煙を吐き出しながら此方に手を振る凱斗の姿があった。
凱斗の左右隣には各隊長が立っており、総龍隊員達も膝を付き整列していた。
柏木を除き輝血達はその部屋に初めて足を踏み入れる。
凱斗の前に整列させられ、全員が膝を付けるように言われた。
扉は大きな音を立てて閉まる。
全員膝を付け頭を下げる姿を見た凱斗は煙草を灰皿に押し付けた。
「キョロキョロせずにじっとしている。賢いね、お前達。」
凱斗は立ち上がりニヤリと笑いながら言った。
「お父さんに会えるのはそこまで楽しみじゃなかったか?」
凱斗がそう言うと輝血が顔を上げた。
輝血に頭を下げるように隊員が注意しようとするがそれは凱斗に制される。
「お父さんに会えるだなんて嘘なんだろ?」
輝血の声は僅かに震える。
「どうしてそう思う?」
凱斗はにこやかに輝血を見下ろす。
「あれから今日までお父さんは罰を受けていただろう。生きている保証が無い。」
輝血の言葉を聞いた凱斗はキョトンとした表情をした後に笑った。
「くっくく、生きている保証が無い?じゃあ死んでいる保証はあるのか?無いよな?お前達はお父さん、水仙が罰を受けている所を見たか?見ていないよな?はー、折角会わせてやろうと思って時間作ったのに疑われて残念だよ。俺もここにいるヤツら全員も。」
輝血はため息をつく凱斗を見て戸惑った。
嘘をついているようには見えなかった。
本当に残念がっているように見える。
周りの隊員達もガッカリしたような表情を見せる。
凱斗の隣に立つ眼鏡の男もフゥっと息を吐く。
自分が勘繰りすぎたのか…?
「なあ、輝血?」
凱斗の呼び掛けに反応し目を見ると悲しそうな目で自分を見つめる凱斗が映る。
「お前のその言葉は水仙にも聞こえているぞ。」
凱斗の言葉を聞いた柏木や懍、他の仲間たちは一斉に顔を上げた。
「水仙に会いたいか?」
凱斗の問い掛けに反応が出来ない。
「会いたくないか?」
全員が固まったままだ。
「……ああ、俺の事を疑ったままなんだな。仕方ねぇな、桜庭!水仙に挨拶だけさせろ。」
桜庭は一礼したあと部屋の隅に設置された仕切りの裏へと消えた。
輝血達は桜庭を目で追う。
仕切りは三畳程の大きさだった。
暫くすると部屋中にキーーンとマイクの音が響く。
ガサガサと音が鳴った後、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。
「輝血……そこにいるのかい……?」
細々とした弱りきった声だった。
でもその声は確かに自分達が大好きな父の声。
自然と涙が溢れた。
輝血が凱斗の方を見ると目が合った。
「輝血、どうする?会いたいか?会いたくないなら水仙はこのままこの部屋から外に出すが。」
凱斗の問い掛けに答えたいのに声が出ない。
懍や仲間達が後ろから声を掛ける。
「お父さんがそこにいる!」
「俺は会いたい!」
「かーくん、お父さんに会えるよ!」
「会長さんは俺達が思う程悪い人じゃないんだよ!」
全員が会いたがっている。
そこにお父さんがいる。
なのに、輝血は目が会った瞬間の凱斗の目がとても冷たかった事に対して信用しきれないでいた。
そこにいるのは本物のお父さんだろう。
この人の目が冷たくなったのはきっとお父さんの事が許せないからだろう。
今ここで会わない選択をすれば仲間達は悲しむだろう。
輝血は自分に言い聞かせる。
きっと深く考えすぎなんだと。
凱斗を信用しきれていないからそう思ってしまうだけだと。
早くしないと、もう一生会えない。そんな気がした。




