01
あの日から一ヶ月が経った。
輝血は懍や他の仲間とも再会出来、共に総龍会の雑用係として働いていた。
自分達の事を良く思わない総龍会隊員達からは冷たい態度を取られることもあるが、今までの行いを許してもらおうなどとは思っていないのでそれも素直に受け止めた。
その中でも一番厳しくされていたのは柏木だった。
元白龍の一隊員。
それが原因だった。
一般市民に手を出していないと話しても誰も信用しない。
総龍会に集会としてやってくる各隊長達からも冷たい目を向けられ、現白龍隊長の亀八からは見る事すらされなかった。
ここで一番居場所が無いのは輝血や懍では無く柏木。
柏木は日が経つにつれ元気を失っていった。
凱斗とはあの日を最後に顔をあわせていない。
屋敷の中にいるのか、外に出ているのかも分からない。
雑用係には何の情報も与えられず、言われた事以外の動きを封じられていた。
毎朝決まった時間に起床。
決まった時間に食事、仕事、入浴、就寝。
雑用係を監視する隊員達の目は常に光っており、仕事中に少しでも仲間と会話を交わそうものならその場で怒鳴られ、叩きつけられた。
入浴中と就寝前に話す事は許されたが、あまりにも遅くまで話していると部屋から引きずり出されて一晩中外で立たされた。
眠ることを許されないままその日の仕事をさせられる。
ある日仲間の一人がポツリとぼやく。
「こんなのまるで刑務所だ。いや、刑務所より酷い。」
その言葉は監視する隊員の耳へと届いた。
「おい。」
監視役の隊員が一人ぼやいた仲間へと声をかける。
仲間はビクリと身体を震わせゆっくりと隊員の方へと振り返る。
「ここが刑務所より酷い?」
仲間は黙ったまま下を向く。
「ここをどこだと思っている?総龍会だぞ。警察が手に負えない人間擬きのゴミ掃除をしてきた組織だぞ。そりゃあ刑務所より厳しいだろうな?」
仲間はプルプルと震え続け、周りの仲間達はその姿を不安そうに眺めた。
「いいか、勘違いするなよ。お前達が今までしてきた事を俺達は許したわけじゃない。今まで通りならお前達全員一ヶ月前にはこの世から消え去ってたんだよ。生きることを許されただけ有難いと思え。」
「……はい。」
震えながら小さく返事をした仲間を見て鼻で笑う隊員。
その隊員の後ろでは同じ監視員の隊員二人がニヤニヤと笑う。
「今日は反省の為にお前達全員夕飯抜きだ。分かったな?」
隊員がニヤリと笑いながらそう言うと仲間は頷いた。
「仕事の続きをしろ。ちゃんと綺麗に磨けよ。ここは各隊長が訪れた時や会長も使う部屋だ。埃一つあるだけで許されないからな。」
隊員はそういうと二人の隊員の元へと行き談笑を始める。
「みんなごめん……。」と仲間たちに謝り、全員で隅々まで磨き出す。
部屋に響く隊員達の笑い声。
キュッキュッと鳴る床の音。
そして豪快に開かれた扉の音。
「あ?ここ今掃除中?」
「お疲れ様です!!」
豪快に開いた扉の先には着物姿で寝癖がついた男が立ち、その姿を確認した隊員三人が談笑を辞め背筋を伸ばし挨拶をした。
「んー、ここ使いたかったけどいいや。今どこが空いてるか分かる?」
頭をポリポリと掻きふわぁっと大きく欠伸をしながら隊員に問いかける男。
「今すぐこの部屋をあけますのでお使いください!」
隊員の一人がそう言うと急いで掃除用具を片付けるように催促する。
「会長、どうぞお座り下さい。」
一人の隊員が男に向かってそう言うと、もう一人の隊員が椅子を引く。
椅子にドカッと座り、掃除用具を片付ける人をジッと見つめる。
「すみません会長。この部屋を使うと把握出来ていませんでした。」
「いやいいよ。俺が急に決めた事だし。とりあえずさっさと出て行ってくんない?」
隊員三人は敬礼をし、輝血達に向かって早く外へ出るように怒鳴りつけると「いや、お前ら三人だけ出て行って。こいつらは置いといて。」と言葉が遮る。
隊員三人が困惑していると「聞こえなかったか?」と圧掛かった声が響き、隊員三人は顔を青くし頭を下げ部屋を後にする。
扉が閉まると部屋はしんと静まり返った。
「久しぶりだなあ、輝血ぃ~!元気だったか?」
ニコリと笑顔を見せながら凱斗が声を掛けると、輝血は頷いた。
「丁度いいや、他のやつもみんな掃除用具はそこら辺に置いてていいから席について。」
凱斗はニコニコとしながら全員に座るように言う。
輝血や他の仲間たちは凱斗に従いその場に掃除用具を置くと椅子に座り凱斗の方へと視線を向けた。
その様子をニコニコとしたまま見つめる凱斗に輝血は少し不安を抱いた。
「逆らいもせず言われた事をきちんと守り働いている、と報告を受けている。皆よく頑張ってるね。」
凱斗はニコニコとしたまま話を続けた。
「お前達の家族として育てられてきた子供達は、施設で元気に暮らしている。虐待の事実も確認出来て親の元には返していない。ま、急にやってきた俺達に施設に連れて行かれて、大きな家族と引き離された子供達は俺達のことを敵視して最初は目も合わせてくれなかったが、最近は俺達とも挨拶程度だがしてくれるようになった。」
凱斗は帯に手を伸ばし煙草を取り出し火をつける。
「次にお前達が玩具にしていた女性達の元へ出向いたが……あれはそうだな……お前達の中に依存体質の女を探すのが得意な奴がいるな?全員凄かったよ、一人の男の名前しか出さない。それもその男に手を出したら自分の命を絶つとまで言う始末。短期間であそこまで依存させる術を持っているのは恐ろしいな〜?懍。」
凱斗と目が合い無意識にそらす懍。
「後は……ああ、そうだ。」
凱斗はゆっくりと柏木の方へと視線を移すと、柏木は生気のない目で凱斗の目を見る。
「柏木は元白龍ということもあってうちの隊員達だけじゃなく隊長達からも厳しくされているらしいな?大丈夫か?」
柏木はピクリと眉を動かす。
「お前が龍を去ったのは俺のせいだよな?」
柏木の目に映るのは意地悪に笑う凱斗。
一瞬だけ寂しそうな目をした気がした。
「猫八の事に関しては申し訳ないと今も思っているよ。あの時俺にもっと力があれば、と今も夢を見て魘される。猫八の笑顔が、猫八の最期の姿が俺の中から消える事は無い。」
笑みを浮かべている凱斗から溢れ出る当時と同じ悲しみのオーラが柏木には見えた。
「それは……俺もよくわかっています。会長を責めていた俺達の方が力も何も無くて……自分の隊長を守る事すら出来なかった俺達は隊員として失格なんです。」
「失格?その言葉、猫八が聞いたらどんな顔をするだろうな。……ははっ、まぁいいや。この話はまた二人でしよう。」
凱斗はニコリと微笑み視線を全員へと配る。
「お前達が大好きなお父さんと会わせてやる。」
輝血や懍、他の仲間たちは目をキラリと輝かせた。
「急な話で悪いが今夜だ。今夜8時にうちの隊員がお前達を迎えに行く。それまでは部屋でゆっくりと過ごせ。今日はもう働かなくていい。」
凱斗はそう言うと煙草を咥えたままゆっくりと立ち上がる。
「じゃ、あとは隊員に従って。また夜に会おう。楽しみにしてるよ。」
凱斗はそういうと静かに部屋を後にした。
残された仲間達は父との再会に喜び、懍も嬉しそうに輝血の肩を叩く。
輝血は笑顔を浮かべ懍の手を取り優しく握る。
柏木は何か言いたげな表情のまま周りの人達を眺めた。




