02
目が覚めた輝血は天井から吊るされていた。
自分の周りに転がる者達は既にボロボロの姿だった。
輝血が目を覚ました事に気付いた黒スーツの男が小さく口角を上げた。
「会長の下で働く覚悟があるなら耐えろよ。」
黒スーツの男の言葉が輝血の耳に届くと同時に鈍い痛みが腹部に響く。
肉体に与えられる痛み。
滴る血液。
歪み霞む視界。
数十分の間与え続けられた後、数分の休憩が入る。
他の黒スーツの男数人が部屋の中へと入ってくる。
縛るものを解かれ、下に落ちると髪を掴み顔を上げさせられ、雑に口の中へと放り込まれる食事。
部屋の隅にある汚いトイレ。仕切りも何も無い丸見えのシャワー。
自分が食事を済ませ用を足し、身体を洗っている間も聞こえ続ける大勢の悲鳴。
そのまま横になる事は許されず、また天井へと吊るされる。
そして、与えられる痛み。
輝血の視界に映るは黒い悪魔達。
吊るされたまま眠る事にも慣れた。
いや、眠ると言うより気を失うと言った方が正しいだろう。
重力に耐えきれず肩が外れそうになると黒スーツの男が舌打ちをして下におろす。
白い服を着た人が治療をすると、椅子に座らされ縛り付けられた。
される事は日によって違った。
今まで自分が人に与えた罰を受ける。
人の爪を剥がした事がある輝血は爪を剥がされた。
人の身体に切り傷をつけた事がある輝血は切り傷をつけられた。
人の身体に火を付けたことがある輝血は火をつけられた。
人の顔を水の中へと沈めたことがある輝血は何度も沈められた。
「殺してくれ。」
弱々しい声でやっとの思いで発した言葉は鼻で笑われた。
剥がされ、切られ、燃やされた箇所は治療された。
部屋には幾つものカメラが取り付けられており、24時間監視されている。
そして常に黒スーツの男が部屋の中にいる。
逃げる事は許されない。
何人かの仲間達が自分の命を絶とうと試みたが全て阻止された。
そして、別の部屋へと連れて行かれた。
「逃げる事は許さない。お前達が苦しむのは当然だろう。今まで自分達が人にしてきた事を思い出し、よく考えてから行動しろ。お前達が手を出さなければ今も生きていた人達……今までの被害者の気持ちを考えろ。」
黒スーツの男はそう言うと大きな音を立てて椅子に座る。
足を組み部屋の中で転がる者達へ怒りの視線を向けた。
転がる者達は涙を流し、輝血は一点を見つめたままでいた。
白い服を着た人が部屋に入ると転がる者達一人一人の様子を観察した。
最後に輝血の傍に来ると隅々まで観察し黒スーツの男へと報告する。
「もう元に戻しても大丈夫そうだ。」
白い服を着た人はそう言うと部屋を去る。
少し経つと黒スーツの男が数人部屋へと入ってきて、輝血を椅子からおろし腕に縄を結ぶ。
その縄は天井へと繋がっており、引っ張ると少しずつ輝血の身体が浮いていき、つま先が地面につくかつかないかのギリギリの所で固定される。
キツく結ばれた縄は輝血の手首にギリギリとくい込んでいった。
「続きを始めようか。」
黒スーツの男が輝血にそう言うと、鈍い痛みが走った。
どれだけの時間が経ったのか分からない。
閉鎖的空間の中で行われる一方的な暴力。
輝血は自分が遊ぶ部屋を思い出した。
自分の玩具として扱った人間達と今自分の足元に転がる仲間達が重なって見えた。
自分は今黒スーツの男の玩具。
向こう側だったはずの自分が今は玩具側。
これが因果応報というやつなのか?
何度も与えられる痛みに慣れることは無かった。
総龍会のやり方は輝血とは違う。
自分の気が済むまで玩具で遊び続けていた輝血に対し、黒スーツの男はあくまで同じ罰を与えるだけ。
輝血を痛め付けることに喜びも何も無いだろう。
ある程度罰を与えると休憩が入り治療される。
そして新たな罰を与えられ、また休憩が入り治療される。
回復させる事により痛みに慣れないようにしているのだ。
雑に放り込まれる食事も栄養バランスだけはキッチリと管理されている。
体調を崩した者は別の部屋へと連れて行かれる。
最初は全員で牙を向けば流石に総龍会相手だろうとダメージを与えられると思っていた。
だがそれは無理だと確信した。
食屍鬼という存在があった頃に国に名が知られていった総龍会。
でも国民達が知らなかっただけでもっと前から存在していた裏組織。
裏組織といっても国の偉い人達からは知られており、警察を含め共に活動していた謎の組織でもある。
被害者から加害者への復讐代行とも捉えられる事を平然とやってのけるのは、国が仲間として付いているからだろう。
体力や精神力が必要とされるこの組織の現トップに立つあの男は異様なオーラを発している。
どちらかと言えば輝血達と似たオーラを。
地獄のような時間を過ごし、気を失いかけた時に魔王様は現れた。
「終わったか?」
「6割程は終わりました。」
「6割、ね。」
魔王様と悪魔の会話をただ聞くことしか出来ずに、ただ黙って腕に広がる痛みに耐えた。
「下ろしてやれ。」その言葉を聞いた男は雑に縄を切る。
冷たい地面に体を打ち付け顔を上げると、自分を見て口角を上げた魔王様が目に映る。
輝血は言葉を発する事も、動く事すら出来ずにそのまま意識が途絶えた。




