05
「今この場にいるのは俺たちの方が多い。」
「あれ?言わなかったっけ?剣持って行くねって。」
「それでもこの人数相手に───」
「俺を誰だと思ってんだよ?」
凱斗に睨みつけられた輝血は言葉を発することも出来ず、その場に座り込んだ。
龍に睨まれ餌になる以外の選択肢がない弱い生き物だと思い知らされるほどの眼力に立ち向かう勇気は出なかった。
「今お前の仲間達が一斉に俺に牙を向いてきたとしよう。なら俺は自分の身を守るためにお前の仲間を全員殺すだけ。お前は否定しなかったが、本当に食屍鬼を復活させようとしているのならば今よりもっと強い力を身につけないとお前が喰われるぞ。お前は弱いよ。」
輝血は何も言い返せないまま地面を見つめた。
「あの時も食屍鬼という存在を舐めてる奴も少なくなかった。俺達が簡単に首を取る姿を見て、あれ?食屍鬼って実は弱いんじゃないか?ってな。馬鹿だよなー、俺達がどれだけ訓練していたのかも知らないで。その結果調子に乗って喰われた人間もいるし。お前、そいつらと似てるよ。」
輝血は動けないまま凱斗の言葉を聞き、歯を食いしばる。
「それに大橋の事も甘く見すぎ。食屍鬼の復活を手伝ってくれと言えば喜ぶだろう。けど、アイツは俺達をもう裏切らない。いや、裏切れないが正しいか?もし仮に大橋がお前達に協力し食屍鬼を復活させようものならすぐにアイツは命を失う事になる。自分の命を懸けてまで復活させようとは今はもう思っていないと思うよ。」
「命の保証をすれば……?」
「命の保証?お前に出来る?龍の相手が。」
「それは……。」
「俺一人相手に座り込んでる人間が龍を相手に出来るとは思えないけどな。いい加減自分の弱さを認めろよ。認めたくない、認められないというなら俺が認めさせてやってもいいけど。」
輝血は自分の目の前に大きな影が現れ震えた。
「お父さんって呼んでるんだって?子沢山なこった。」
「なっ!なんでお前がお父さんの事を……!」
輝血は思わず見上げてしまった。
そして後悔をした。
自分を見下ろす大きな影に灯る光が今まで見た光とは違い、息をすることさえ恐ろしい程に怒りの炎を灯していたのだ。
「アイツは昔から知っている。まさかこんな事をしているだなんて思ってもみなかったが。人の親?ははっ、てめぇの親の死すら興味が無かったくせに何が人の親だよ。笑わせやがる。」
凱斗はゆっくりとしゃがみこみ、輝血の目を見つめた。
「アイツは総龍会前会長の息子だ。俺達側の人間だったんだよ。俺がガキの時に一回しか会ったことが無いけど……アイツの体調は大丈夫か?」
「お父さんが総龍の会長の……?お父さんの体調……?」
「なんだお前。何も教えられてねぇのかよ。ま、いいや。面倒くせぇしもう……お父さん狩っちまうか。」
「お父さんには指一本触れさせねぇぞ。」
「ふぅん?もう遅いと思うけどな。遠回りしてアイツがいるラメント地区に行く事は容易い。」
「なっ……でもお前は一人で来るって言っただろ!嘘をついたのか?!」
「嘘ってお前、木の影に大人数忍ばせてる奴がよく言うよ。それに俺は森の入口に一人で行くって言った。守ってんだろ、約束。」
「お父さんを捕まえてどうするつもりだよ……。」
輝血は怒りで拳を震わせる。
「あ?連れ帰って罰を与える以外に何かする事あるか?墓参り……は前会長にさせるなって言われてるしなぁ。」
「お父さんには手出しさせねぇぞ!」
輝血は立ち上がり凱斗の胸ぐらを掴むが、
掴んだその手に凱斗の手がそっと触れると、激痛が走る。
「っっ!!」
輝血は痛みに耐えきれず凱斗から手を離した。
「柏木の両手足折ったんでしょ?片手位で大袈裟だなぁ。」
手をプラプラとさせ笑う凱斗の前に一斉に人が並んだ。
「かーくん大丈夫?!」
懍は輝血に駆け寄ると凱斗を睨み付ける。
他のメンバー達も凱斗を睨み付けるが、微かに震えていた。
木の影から見ていた時よりも、目の前で見る方が恐ろしかったからだ。
「あー、多すぎて数が分かんねぇ。でも問題は無いかな。」
凱斗はゆっくりと抜刀し笑みを浮かべた。
凱斗は剣先を輝血に向け周りのメンバーを見渡す。
「どうした?こいよ。」
ニヤリと笑ったままの凱斗に立ち向かいたくとも足が震えて上手く前へ出ることが出来ないメンバー達。
「俺一人相手にそのザマ。それで龍全員を相手にしようとしてたんだよな?笑わせるなよ。」
凱斗の口角は徐々に下がる。
同時に瞳の闇が増し、その場にいる者の恐怖心も増した。
「殺るなら俺だけにしてくれ。」
ボソリとそう言う輝血に視線をやりジッと見つめる凱斗と懍。
「かーくん何言ってるの?!」
「この人には誰も勝てない。実際今のこの状況、人数有利だというのに俺達は誰一人立ち向かえていない。いつまで経ってもこの人が上にいる。勝てないんだよ懍。」
か細い声で話す輝血をジッと見つめたまま凱斗は頭をポリポリと搔いた。
「お前一人殺った所で意味がねぇ。俺達はその組織の首を落とす事が目的。お前じゃなくてお前のお父さんに用があんだよ。それに、お前の命一つにそこまでの価値は無い。分かるか?殺すだけ無駄なんだよ。だから剣を抜きたくなかった。無駄な殺生はしたくねぇ。」
懍がキッと凱斗を睨み付けると、凱斗は冷たい目で懍を見下ろした。
「生かしてやるって言ってんだ。このままってわけにもいかねぇけど……今までの事をちゃんと話して償えばお前達には生きる権利が与えられる。」
「でも龍は加害者に被害者と同様の痛みを与えるんだろ?俺達はその罰で死ぬ。」
「確かにお前達は残酷な事をしてきた。被害者と同様の痛みは必要だろう。そこで命を落としても誰も文句は言えねぇ。だが、お前達が罪を償い龍の犬になるというのならば話は変わる。」
「龍の犬?」
「俺達が国の犬であるように、俺達に従い忠実な犬になるなら命までは取らねぇよ。働いて罪を償うって形式を採用したんだ。前までは死して償うってのが主流でよ、周りもそれに何の反論もせずに従い続けてきた。でも俺は、生きている方が辛いのに何で殺しちゃうんだって思ってたんだよ。……犬になった所で、反抗すればその時に償う気がないと判断し首を落とせばいい。今の龍は昔とは少しずつ違ってきている。」
凱斗は大きく黒い剣を地面に軽く刺し輝血やメンバー達に問い掛けた。
「お前らはどうやって償う?」




