03
「行っても行かなくても地獄だねぇ?……どうする?カブトの人数把握までは出来ていないと思うしこの際狩っちゃう?」
帰りの車中で電話の内容を話した輝血は懍の言葉を聞き考える。
「多分アイツは何人来ようが殺せると確信している。俺は龍の頂点に立つアイツを前に何も出来なかった。そしてアイツは俺がカブトのリーダーだと分かっている。リーダーがその程度ならば下も大したことは無いと思っての発言だろう。」
「そりゃうちにはかーくん以上の人はいない。けれど、人数でゴリ押せない程の力の奴の集まりでもない。」
「仮に……仮に人を集めて行ったとしよう。それで全員アイツに殺されたら?」
「……それは……でもそう簡単に殺られるような奴らじゃないよ?俺だってそう簡単には殺られるつもりは無い。それに相手も人間。何百と一斉に掛かってこられたら流石の会長でもお手上げだと思うんだけどなぁ。」
「懍が言うようにほぼ全ての人数で行けばどうにかなるかもしれない。だが今日一緒にいた奴らは行けると思うか?一緒に居なかった奴らもきっとアイツを目の前にすれば立ち止まってしまう。大きな隙ができてしまうと思うんだ。」
「そんなに…?いやぁ、気になるなぁ。俺も見てみたいよ。」
目を輝かせる懍を見て輝血は大きく息を吐く。
「かーくん。」
「ん?」
「もし仮にかーくん一人が行って、向こうが複数人連れて来ていたとしたらそれこそ勝ち目はないし逃げることも出来ないと思う。」
「……そうだな。」
「だからこうしない?俺達はかーくんについて行く。闇の中から見守る。もし向こうが隊員を連れて来ていたら俺達も姿を現そう。向こうが一人であれば俺達はそのまま見守り続ける。そして、向こうがかーくんに手を出そうとしたら俺達はかーくんを連れ戻す為に戦闘態勢に入る。どう?」
「うーん……。」
「大丈夫だって。闇に溶け込むのは俺達の得意技。殺気さえ出さなければ気付かれないよ。……俺はかーくんが大事だから、かーくんに何かあってからじゃ遅いんだよ。きっと、俺もメンバーもかーくんが連れ去られてしまったら人を選ばずに殺してでも助けに行く。それで俺達の命が絶えようとも。」
「懍……。」
「シシッそう考えればアジトまで来てもらう方がいいのかもしれないけれど。」
「いや、アジトには来させない。あそこには戦えない奴もいる。怪我をしているやつや病気をしている奴もいる。それに、もしそこで戦える俺達が殺られたとしたら、それこそそこからムスカリや雪の雫まで一気に攻められると思うんだ。」
「まあ、確かにね。……じゃあどうする?森まで行く?」
輝血は黙って頷いた。
横目で輝血の頷きを確認した懍は溜息をつき「じゃあ少し急ぐね。」と車のスピードを上げた。
アジトに戻り、懍はメンバーに集まるよう声を掛けた。
今から輝血がザリチュの森で龍の会長と会う事、自分達は闇に潜み見守る事、輝血が危険な目に遭いそうになった時は躊躇なく助けに入ること。
殆どのメンバーは賛成し声を上げたが、黒龍地区に行ったメンバー達は俯いた。
「怖いと思う奴は来なくていいよー!動けないならいる意味が無いし。俺や他の奴らは好奇心も勝って行こうとしている。行けない奴はここで俺たちの帰りを待っていてくれたらいいからね。」
俯いていたメンバー達は懍の言葉に感謝した。
「さて、行く奴らに告ぐ!絶対に勝手な行動はしないように!龍が手を出してこない限り俺達は手を出してはいけない。命の保証は無いし、なによりかーくんが一番危険な目に遭ってしまうからね。」
メンバー達は頷いた。
「じゃあ皆、行くよ!」
懍がニカッと笑い外に出るとそれに続き何十ものメンバーがゾロゾロと外に出る。
黒龍地区に行ったメンバー達は皆の後ろ姿を見送った。
輝血が乗る車に懍が乗り込み、その後ろに何十台もの車やバイクが並ぶ。
「本当に行くのか?アイツら。」
「行くよー!」
「さすがに多すぎるだろ。」
「シシッ大丈夫大丈夫!ライトや音でバレる可能性が高いから、アイツらは森の中央付近で降りて入り口まで向かう。俺はこのままかーくんと乗っていくけれど、入り口から見えないギリギリの所で降りるよ。」
輝血は少し不安げな表情を浮かべながら懍を見ると、ニコニコと楽しそうに笑う懍が首を傾げた。
「ま、見つからないようにしてくれればそれでいいよ。」
輝血は呆れ半分で車を発進させ、その後ろをメンバー達がついて走った。
薄暗いガタガタ道も今日はやけに明るく感じる。
慣れた森の道を走り進めていくうちに、輝血の鼓動は不規則に波を打つ。
再び目の前にして自分は凱斗と話を出来るのか?
本当に凱斗は一人なのか?
凱斗が自分に聞きたい事は大体検討が付くが、その答えによって自分は殺されるのではないか?
そして、凱斗は言った。
次に話す時は俺の屋敷で、と。
森で話す訳ではなく自分はそのまま龍の屋敷へ連れていかれるのではないだろうか?そうなればメンバーは全員姿を現すだろう。
そうなった時、凱斗はメンバーに刃を向けるだろう。
嫌な事ばかりが思い浮かび、何度もブレーキを掛けたくなる。
行かなくてはいけないという気持ちと、行きたくないという気持ちがぶつかり合い答えが出ないまま時間だけが過ぎていった。
気付けば薄暗さを取り戻した森で懍が車から降りようとしていた。
「じゃあかーくん、俺達はいつも見ているから。俺達を信じて。」
懍は相変わらずニコニコとしている。
「……なぁ、懍。」
「ん?」
「もし俺がアイツの車に乗せられたら……それは助けようとしなくていい。」
「え?なんで?車壊しに行くに決まってんじゃん。」
「いや、いい。そうなったら真っ先にメンバーを連れてアジトに戻りお父さんに報告して欲しい。」
「……俺達じゃ力不足って言いたいの?」
懍の顔から笑みが消え不服そうな表情を見せる。
「そうじゃない。俺達カブトは強い。」
「なら俺達が───」
「駄目だ。カブトは強い、そう思ってはいるが龍はそれ以上。むしろ比べる事すら許されない。格が違う。……懍もアイツを見れば分かる。」
今なら柏木があの時何故必死に止めたのか輝血には理解出来ていた。
柏木は気付いていたんだろう、大橋と共にアイツが来ているという事に。
自分達が束になって掛かろうとアイツにとっては害の無い小さな虫が集る程度の事だと。
少し手で払えばその力で息絶えるという事を。
そして、アイツの異常な迄の圧。
禍々しく力強く、圧倒的強者のオーラ。
今の自分達が束になって掛かろうと決して崩れない高い壁。
今はまだ、駄目だ。




