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食屍鬼 -蜘蛛糸-  作者: 藤岡
強者と弱者
26/41

02

「で、輝血。さっきから携帯鳴ってない?ブーブー聞こえるけど。」

「ああ……お父さんの前だからと思って音を切ってた。ちょっと話してから向かうって懍に伝えて。」

「分かったわ。……輝血、あまり一人で抱え込まないようにね。香ちゃんも憎まれ口聞いてても貴方達のこと心配してるんだから。私達、家族でしょ?」

アザミがニコリと笑うと輝血は少し頬を緩ませた。

アザミはまだ騒ぎ立てる香と懍の所へ向かい、輝血はポケットから携帯電話を取り出す。

「……は?」

輝血の携帯電話の液晶に浮かぶのは知らない番号だった。

ムスカリ、カブト、雪の雫以外には教えない携帯電話の番号。

間違い電話か?と画面を見続けるとその着信は切れた。

「たまに番号間違えてかけるやついるからな。」

輝血は、ハァと息を吐き外に出るとまだ二人は騒いでおりアザミが困った顔をしながら宥めていた。

そんな三人を見ながら地面に座り煙草を取りだし火をつける。

白い煙が暗い空に浮かび上がり、輝血は流れる煙を目で追った。

再び煙草を咥えた時、また携帯電話が震だす。

輝血は煙を吐きながら携帯電話を取り出すと先程の番号からの着信だった。

普段なら無視をするが、この時は何故か、この電話に出ないといけない……そう思ったのだ。

輝血は恐る恐る液晶に触れ、耳にあてる。

「……あ?出た出た。よぉ、さっきぶりだな。」

輝血の心臓がドクンと大きく跳ねた。

「どうしてアンタが……。」

輝血は息を大きく吸い、吐き出す。

「あー、桜庭がお前の番号メモっててさ。あ、桜庭ってあれね、眼鏡かけたおっさ……あー、男。おっさんって言ったら怒んだよねー。おっさんなのに何で怒るかな?」

ヘラヘラと笑いながら話すその男の声は今一番聞きたくない声だ。

「で、何の用?」

鼓動は早くなるばかり。

「おー、電話越しなら生意気に話せんだな?ははっ、なんでもいいけど。」

「要件を聞いてるんだけど。」

「ちょっと話出来ねぇかなって。」

手が震え煙草の灰が地面へと落ちる。

「話す事は無い。」

「ははっ、確かに。お前からすりゃ俺と話す事は何も無いか。でも俺はあんだよね、お前と話したい事。」

「俺には無い!」

「そう怒るなって。落ち着けよ。目の前にいねぇんだから怯える必要も無いだろ?」

「怯えてなんか──」

「怯えて無いのか?じゃあ話せるじゃん。俺一人で行くからお前も弱虫じゃないなら一人で来いよ。その方が話もしやすい。」

輝血は煙草を地面へと押し付け、奥歯を噛み締めた。

「罠だろ。」

「罠?……あー、ごめんね。俺そんな卑怯な手使わなくてもお前如きどうとでも出来るからさ。」

輝血の目が見開き、額に血管が浮び上がる。

「じゃあどうしてさっき殺らなかった?!どうして見逃した?!」

「何?殺って欲しかった?っていってもなー、さっきは別にお前何もしてきてないじゃん。流石にそんな奴その場で殺ったら俺が捕まるわ。だから話したいんじゃん?今までの行いを。」

輝血は何も言い返せず、息を荒くする。

電話越しに聞こえる声は楽しそうであのニヤリと笑った顔が思い浮かぶ。

「馬鹿にするな!俺だって……俺だって本気を出せばお前位───」

「……本気を出せば、何?」

輝血は息を飲む。

先程まで楽しげだった声は瞬時に圧がかった声色に変わり、この場にいないのにあの目で捉えられている気持ちになった。

「本気を出せば何?って聞いてるんだけど……もしかしてまた耳が聞こえなくなっちゃったのかな?それとも、声が出ない?」

輝血の耳に届くのはまた楽しげな声。

「まあいいや。今から三時間後ザリチュの森に行く。お前も来い。そうだなー、一時間待って来なかったら──」

一時間待たされたら帰るのか?なら、行かなくても……と甘い考えが思い浮かぶ。

「お前がいるアジトに向かう。」

「は?」

「だから、お前が森に来なかったら俺が森をぬけてお前のアジトに行く。」

「ばっ、何言ってんだよ。来れねぇよ。」

「ふぅん?何で言いきれんの?」

「森は複雑な構成で……詳しくは言わないけど…。」

「俺が迷子になると思ってる?ははっ、残念でした!なんなら最初から車で迎えに行ってやろっか?」

輝血は察した。

凱斗がザリチュの森の正しい道を知っていると。

だが、もしかしたら吹っかけてきているだけかもしれない、そうも考えた。

「ちなみにアジトに行く際俺は誰も傷つけようなんて思っていないけど、お前らは違うだろ?だから護身用に剣を一本持っていく。出来れば抜刀することがないようにお前らも俺にちょっかい掛けないで欲しいんだけど。」

「剣一本って……俺達全員でいけば流石のアンタも──」

「全員殺すよ。剣一本で。」

輝血は身体を震わせた。

またあの圧が掛かった声色に変わった。

奴は本気で自分達全員を殺せる、そう確信しているんだ。

「で、どうする?俺が迎えに行く?それとも待ち合わせする?」

「話さない、という選択肢は……。」

「は?ねぇよ、んなもん。お前は俺と話すしか道はない。分かった?」

輝血が小さな声で「分かった。」と返事をすると「偉いね、いい子。」と、小さな子供を褒めるかのような返事が返ってきた。

結局三時間後に森の入り口で待ち合わせることになり、一時間経って輝血が姿を現さなかった場合はアジトまで車で向かう。仲間の命の保証はしない。と言い残し電話は切られた。

輝血は「俺、今日死ぬかも……。」と天を仰いだ。

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