01
「輝血、だっっっさ!!!」
「香ちゃん、傷心の輝血にそんな事言ったら可哀想よ。」
「でもアザミさぁん、あれだけ俺は強いとか総龍相手でもいけるとか言ってたくせに、会長目の前にしたら声すら発せないってダサくない?」
輝血はムッと膨れ面をしながら下を向く。
「香もアザミもかーくんの事虐めるのやめてよ。」
懍は輝血の背中を擦りながら女二人を睨み付けた。
「虐めるっていうか事実じゃん?」
「香ちゃん、これ以上は輝血が立ち直れないわよ。」
香とアザミがクスクスと笑うと懍が更に睨み付ける。
「まぁまぁみんな落ち着きなさい。輝血達が無事に帰ってきた。それでいいじゃないか。」
「でもお父さん、話を聞いた限りではその場にいたメンバー全員が精神的ダメージを負って戦闘不能、その中の一人新人の柏木って子は熱まで出す始末。ま、リーダーがこんな状態なんだし仕方ないかもしれないけど。」
「それだけ龍には力があるという事だよ。」
「香ちゃんと私、それに懍も龍とは接触した事が無いからどれほどのものか分からないけれど……初見遭遇が会長で良かったじゃない。」
アザミの言葉を聞き輝血は目をカッと見開く。
「良かった……だと?」
「ええ、会長は龍の頂点の存在でしょう?会長は姿を現しただけでその場を凍りつかせるほどのオーラを放ってたのよね?でもその下、黒龍の隊長と総龍隊員からはそれを感じ取ることが出来なかった……つまり、会長より下の隊長までなら輝血は臆する事なく噛み付くことが出来るって事は分かった。」
「それでも俺は何も出来なかった。あの眼鏡の男……黒龍の隊長ですら人数有利という考えしか出なかった。」
「人数有利であれば勝てる確率が上がると捉えられる時点でそこまでの脅威じゃないわよ。」
輝血はうーんと首を傾げる。
そんな二人のやり取りを見ていた水仙がクスリと笑った。
「アザミも会ってみれば分かるよ。」
「何が分かるの?」
「龍の存在がどれだけの物なのか。今回は龍相手、しかも総龍隊員に黒龍隊長……そして会長相手に仲間を連れ去られる事無く逃げきれた輝血や他の子達は凄いんだよ。」
アザミと香は頷く。
「ただ三つの問題があるね。」
「三つの問題…?」
「一つは、会長は輝血達がカブトの人間だということに気付いている。二つ目は大橋を狙っているという事も会長にバレている。三つ目はメンバーが隠したにもかかわらず会長は柏木くんがいる事に気付いていた。これはもう今までのように動くことは許されないし、徹底的にマークされるだろうね。」
「私達、雪の雫なら動けるんじゃないかしら?」
「いや、今は全員大人しくしていよう。幸いな事に龍はザリチュの森を通らないと我々のアジトへは辿り着けない。森に一歩でも侵入すればそれは即座に僕達に伝わる。……もしも龍が此処を狙ってきた時は、僕の可愛い我が子達を守る為に全力で戦うことになるだろう。」
「大丈夫よお父さん。私達雪の雫とカブトがお父さんと幼子を守るわ。」
「そうよ!私とアザミさんで必ず守るから!」
アザミと香が力強く話す中、輝血を心配そうに見つめていた懍が口を挟んだ。
「ちょっと待って。お父さん達を守るのはカブトだからね。雪の雫は戦力外。精々自分の身を守る事に徹しなよ。」
「ちょっと懍?!あんた何偉そうな事を言ってるわけ?私とアザミさん、それに雪の雫メンバーがいればお父さん達を守ることなんて容易いんだからね!」
懍の言葉が気に触ったのか香は眉間に皺を寄せていた。
「懍も香も落ち着きなさい。ありがとう、僕なんかの為に……ああ、年をとるのは嫌だね。涙腺が緩んでしまって…。」
「あ、お父さんが泣いてる!」
「気持ちが嬉しいのよ、ふふ。」
「お父さんが泣いてると俺まで泣きそうだよー、ね?かーくん。」
「………あぁ。」
輝血は、自分はお父さんや幼い子達、カブトのメンバーや雪の雫メンバーを守ることは出来ないし、自分の事すら守れないと思っていた。
水仙と話し終えた四人は各々のアジトへ帰る支度をする。
懍と香はギャアギャアと騒ぎ立てながら車へと向かい、その後ろをアザミと輝血が歩いた。
「輝血。」
「何?」
アザミは横目で輝血を見てため息を着く。
「なんだよ。」
「そんなに怖かったの?」
輝血の脳裏をよぎるのは凱斗の上辺の笑顔。
「認めたくないけど……怖かった。何も出来なかった。正直、隊員達に守られているから近寄れないだけでいざ目の前に現れればどうにでも出来るとなめていた。」
「そう…。私は会長がどんな人なのか分からない。だけど、輝血がそこまで恐怖心を抱くということは……お父さん以上と捉えてもいいのかしら?」
「……悔しいけど……そうだ。本気を出したお父さんですらアイツに勝てるかは分からない。」
「……そう。分かったわ。とりあえずお父さんからの命令が出るまで私達は息を潜めるとしましょう。きっと数ヶ月は動けないわね。」
「俺は……仲間を救えていない。」
「え?」
「総龍の屋敷にいる仲間はきっと俺のせいで尋問にあっているはずだ。俺がカブトだとアイツが分かっているなら……きっと仲間の事も分かっているはず……俺のせいで…。」
アザミは輝血の頭を撫で、顔を覗き込む。
「もしそうなった時は私達全員で会長を同じ目に遭わせればいい。」
輝血の瞳に映るアザミの目は恐怖心と怒りが混ざった色をしていた。




