03
「は?何?逃げる?何言ってんだよ本当に。今日は別に隊員捕まえて玩具にしようって訳じゃないし大丈──」
「大丈夫じゃない、これは龍にいた事があるから分かる。今日は駄目だ。」
輝血は大きく息を吐くと頭をポリポリと搔く。
「全然意味が分からねぇ。懍がいない時に辞めてくれよ。」
「輝血、頼む。今日は逃げよう。今すぐにでも逃げないと……逃げないと誰かが龍に食われる!」
「食われる?なんでそんな事言い切れんだよ,」
輝血は理解が出来ずに少し苛立ちを見せる。
「今日大橋と一緒に来るのは──」
柏木の声を遮り輝血の携帯の音が鳴り響いた。
輝血は柏木の頭の上に手を置くと携帯を耳にあてる。
「お?来た?何人?……ふぅん、隊員が二人か。思ったより少ねぇな。大橋も居るんだな?………いや待て、出来るだけこっち側まで引っ張ろう。うん、俺から懍に連絡入れるからお前達は大橋を追いかけつつメンバー達と合流してくれ。ああ、頼んだぞ。」
携帯を耳から離すとそのまま画面を弄りまた耳へとあてる。
「懍?お客さんはこっちに来た。お前らも来いよ。」
輝血はニヤニヤとしながらそう言うと電話を切りポケットの中へとしまった。
「逃げる時間は無かったな。残念だったな、柏木?」
輝血は柏木を自分の足から離すとダンボールの上から飛び降り身体の骨を鳴らした。
「お前が何をそんなに怯えているのか分からないけど、俺がいるから大丈夫。お前が俺達の仲間の内は俺が守ってやるから安心しろ。」
柏木は輝血の背中を見つめながら薄らと涙を浮かべ、首を横に振った。
「駄目だ輝血、駄目だ。」
「煩いししつこい。もう来てるの。後はとっ捕まえて帰るだけ。これ以上しつこく言うようならお前の事玩具にしちゃうよ?」
輝血はフゥッと息を吐くと街の方へと視線を向ける。
「隊員も二人、メンバーも合流してこっちに向かってる。どうにでもなる。」
「それでも駄目だ、今日は駄目だ。」
「駄目駄目うるせぇ!もうお前は車に戻ってろ!足手まといだ。」
輝血は柏木に手で払う仕草をすると隙間から街の方へと顔を少し覗かせる。
「まだここからは見えねぇな。どこか店に入ったか?」
輝血はポケットから携帯を取り出すと同時に電話が鳴った。
輝血はニヤニヤとしながら携帯を耳にあて、向こう側の音を聞いた瞬間輝血の顔から笑みは消える。
「あ?誰だお前。」
低く圧がかかった輝血の声を聞いて、後ろで涙を浮かべていた柏木は全てを悟った。
「おい、聞いてんのかよ?誰だよお前。」
「貴方に名乗る名は御座いません。」
「は?携帯の持ち主に変われよ。」
「彼は今私達の質問に答えて頂いている最中です。一番新しい発信履歴に貴方の番号があったので掛けてみたら……なるほど、貴方がリーダーですね?」
「……俺の仲間に何してる?」
「先程も申しましたが、質問に答えて頂いているだけです。中々答えてはくれませんがね。ですが手荒い真似はしていません。街中ですしね。」
「俺が答えるからソイツは解放してやってくれ。」
「良いですよ。では此方に来てください。貴方が引き連れている者全員を連れて。」
「は?」
「は?では無く。」
「俺一人でいいだろうが。」
「いやいや、いけません。質問に答えて頂くのは貴方だけで構いませんが、他の者も連れてきて頂かないと。私達に相当な殺気を放つ人達を見過ごす訳にはいきませんからね。」
「……もし、断ったらどうなる?」
「今ここに居る彼達に聞くだけです。貴方達の居場所、目的、人数を。」
「どうやって聞くつもりだよ?あんた総龍の隊員だろ?また屋敷に連れ帰って遊ぶってか?」
「総龍?いいえ、私は総龍の者じゃありませんよ。……いつまでも貴方と無駄話をするつもりも時間も私達にはありません。これが最後です。全員を連れて此方に来ますか?それとも、見捨てますか?」
輝血は目を大きく見開き笑う。
「何を笑っているのです?……はあ、全く。話になりませんね。ではこれで。」
「クックク、行くから待ってろよ。俺が行くまで手ぇ出すなよ?少しでも手出ししてみろ。お前を殺す。」
輝血は携帯をポケットに入れると柏木を見て笑いかけた。
「おい柏木。お前は車に戻れ。俺はアイツらの所に行く。」
「アイツらって……。」
「俺の仲間の所だよ。クックク、奴ら自分達に向けられた殺気に気付いて俺達の仲間を捕まえやがった。俺が行く事でどうにかなる。」
「総龍はそんなに甘くないぞ。」
「総龍……そうだよなぁ、総龍のはずなんだよな。」
柏木はボソボソと呟く輝血を見て首を傾げる。
「総龍じゃないって言われたんだよ。誰だアイツ。変に畏まった話し方しやがって。ま、いいや。俺はとりあえずアイツら連れて戻るからお前は先に車に──」
「俺も行く。」
「は?足手まといだから来なくていいよ。」
「いや、俺も行く。その電話相手が誰なのかも何となくわかっている。」
「顔見知りか?なら尚更来ない方がいいだろ。」
「……元龍の俺が関係してると分かれば龍達はまず俺に目を付けると思う。出来るかは分からないがもし相手に隙が出来たら輝血達は逃げてくれ。」
「……お前何言ってんの?」
「時間が無いだろ?早く行こう、輝血。」
柏木は拳を強く握ると闇から抜け出した。
「待て!お前は車に!」
「俺はもうカブトのメンバーだ。それに、俺の目的に一歩近付ける。」
輝血は、ハァッと大きく息を吐き柏木を睨み付けた。
「お前の情緒どうなってんだよ。」
柏木は口を閉じ少し俯く。
「ま、お前が一緒に来るって言うなら好きにすればいいよもう。ただ事情が変わった。俺はお前含め全員連れて帰る。だからお前が言う囮作戦は無し。分かったな?」
輝血は柏木に「行くぞ。」と声を掛け奥へと向かい進んで行く。
歩きながら待機しているメンバーに電話をかける輝血の後ろをついて歩く柏木は、まっすぐと前を向いていた。




