02
輝血がシャワーを浴び終えると部屋には懍と柏木、そして美味しそうな料理が並んでいた。
「柏木から聞いた?」
「うん、大橋の外出時を狙って拉致するんでしょ?」
「そ。だが総龍地区と黒龍地区で分かれなきゃいけない。」
「俺とかーくんで分かれる?」
「ああ、それでもいいな。そうするか。」
輝血はタオルで雑に頭を拭くとソファーに腰をかけ手を合わせる。
「いただきまーす!」
ニコニコとしながら箸を手に取り料理を口に運ぶその姿は誰が見ても子供であった。
「じゃあ俺が総龍、かーくんが黒龍でいい?」
「いいよ。」
「柏木はかーくんの方ね。」
懍は柏木に向かいニコリと笑う。
「あ、ああ。分かった。」
「俺の方よりかーくんの方が揉んでくれるよ。頑張ってね。」
「揉む……?」
「シシッそう、揉む。かーくんを筆頭に似たり寄ったりな性格の男の集団が輝血グループ。かーくん達ほどまではいかない優しい集まりが懍グループ。かーくんの方は血の気が多いからモタモタしてると同じグループでも食われちゃうよ。」
楽しそうに笑う懍を見て柏木は、ははは…と笑うことしか出来なかった。
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翌日 水曜日 午後一時四十五分。
懍を筆頭に数人の男達が総龍地区へと足を踏み入れた。
見慣れない光景。都会とも田舎とも言えないその場所は懍達にとって居心地はあまり良くはなかった。
「見つけたら即確保して帰るよ。」
懍がそう言うと周りの男達は沸き立つ。
「あまり目立たない方が良い。影に潜むとしよう。」
懍はそう言うと建物と建物の間の薄暗い道へと入り、男達もそれに続き、闇の中から獲物が来るのをジッと待った。
同時刻 黒龍地区。
気怠そうな輝血を筆頭に数人の男達が足を踏み入れる。
やや都会寄りの黒龍地区で輝血は立ち止まり嫌そうに目を細める。
「どうした?」
輝血のすぐ後ろに立つ柏木が声を掛けると、輝血はゆっくりと振り返った。
「金持ちの臭いがする。イライラするなぁ…。」
柏木は愛想笑いを浮かべ輝血の目を見るや否や笑みが消える。
輝血の目は闇よりも暗かった。
暗い中に殺意の光だけがぼんやりと灯るその目を見て、柏木の脳裏に映し出されたのは燈龍凱斗のあの目だった。
「まあいい。大橋を見つけたら捕獲してすぐに帰る。じゃないと俺はまた誰かを玩具にしたくなってしまう。時間まで少しある。人目につかない場所へ移動するぞ。」
輝血はそう言うと前を向き気怠そうに建物と建物の間の闇へと姿を消す。
周りの男達もそれに続き、一歩遅れて柏木が続こうとした時、柏木の足が止まる。
柏木はバッと街の方へと視線を向けるがそこは普段と変わらない人達で溢れ返っていた。
柏木の額から汗が一筋流れ落ちる。
ドクンドクンと大きく波打つ鼓動に飲み込まれそうだった。
「どうした?」
闇の中からひょこっと顔を出した輝血の声に柏木はハッとする。
「いや、何も。」
「ふぅん?さっさと来いよ。お前は帽子を深く被ってるとはいえ龍に顔が割れてるし一番危ないんだからな。」
手招きをして柏木を呼ぶ輝血の暗い瞳に疑いの光が灯る。
午後二時 総龍地区。
「さて、今から三時間俺達は大橋を見つけるまでこの場からは動けない。黒龍地区で見かけたら直ぐに連絡が来るし、こっちで見かけたらすぐに連絡しないといけない。何人いるかは分からないけど一応龍の隊員っていうお荷物抱えて来るからね、見つけたとしてもそう簡単にはいかないと思うんだよねぇ。」
懍は壁にもたれ掛かりながら男達に話すとニコリと笑う。
「一箇所に固まっていても意味が無い。バラけるよ。」
懍の言葉を聞いた男達は少数グループを作り姿を消した。
「俺達はここで待とう。総龍屋敷から一番近い入り口で待機してる子達から連絡が来るまではゆっくり、ね。」
懍はそう言うとジュースが入ったペットボトルを口へと運ぶ。
懍と一緒に待つ男達は、今か今かとニヤニヤしながら街を眺めた。
同時刻 黒龍地区。
「俺達がいるのは最後尾。きっと懍も同じように最後尾で待機してんだろ。という事は、向こうに大橋が現れたとしたらメンバーから懍へ連絡がいって、懍から俺達に連絡がくる。懍から連絡が来たらすぐに総龍地区に向かう。」
輝血と柏木は二人で闇に溶け込んでいた。
「俺が最後尾で良かったのか?」
「は?なんで?俺と二人じゃ不満か?」
「そうじゃなくて。俺が先頭で見た方が確実だろ?」
「総龍隊員は黒スーツ集団だったか?それにどうせ変にオーラ出してんだろ。流石に俺らでも分かる。」
「その場に大橋が居るかどうか……。」
「白衣を着た薄汚いおっさんだろ?見りゃわかるよ。」
「そう、だな。」
柏木はその場に座り込むと膝を抱える。
積み上げられたダンボールの上に座る輝血はそんな柏木を見下ろし口を開いた。
「お前、俺に何隠してる?」
柏木が顔を上げると冷たく鋭い瞳が視界に映る。
「何も隠して──」
「いや、隠してる。さっきから変だぞお前。」
柏木は輝血から目を逸らすと膝を抱える手に力が入る。
「本当は今すぐにでもこの場から離れたい。」
輝血は柏木の言葉を聞き目を丸くする。
「は?何言ってんの?」
「さっきここについた時、嫌な予感がした。きっと総龍隊員と大橋は黒龍地区へ来る。」
「ふぅん?ここに来るならいいじゃん。あ、やっぱり顔がバレてるから怖いか?別にお前一人で車に戻っていてもいいぞ、腰抜け。」
「輝血……。」
「お?何?腰抜けって言われて怒ってる?」
輝血はケラケラっと笑う。
柏木はスクリと立ち上がると輝血の足にしがみつき、輝血の体は大きく揺れバランスを崩したがなんとかバランスを取り戻し崩れ落ちることは無かった。
「ってめ、あぶねぇ!バカ!」
輝血が眉間に皺を寄せ柏木の頭を叩くと、柏木は顔を上げ輝血に言った。
「今からでも遅くない、全員で逃げよう。」




