02
「いやあ、美味かったな。」
会員制の店から出てきた男が満足気に女へと声を掛ける。
女は辺りを見回し、早く帰りたいと告げた。
「何を怯えている?さっきのゴミに怯えているのか?
それなら大丈夫だ。店にいる間に念の為護衛を呼んだ。
仮にまた現れたとしたらゴミ箱に捨ててもらおう。」
男は笑いながら女の腰へと手を回し「あの車が私の車だ。さあ、行こう。」と数歩先に止まる車を指差し歩みを進める。
女はそれでもどこか不安気に辺りを見回しながら歩いた。
男は女を見て少し呆れた表情を見せながら車のドアを開けた。
「さあ、乗って。良いホテルを予約しているんだ。」
男がそう言うと、女は車に乗れば安全だと安堵した表情をする。
後部座席に乗った二人は車の扉を閉めた。
「出せ。」
男がそう言うと、車はゆっくりと発進する。
「おい。先程も電話で伝えたがゴミが現れたんだ。私の金を奪ったゴミクズだ。
また現れた時の為にお前たちを呼んだのに、何を呑気に車内で寛いでいる?」
男は助手席を軽く蹴る。
「店前まで迎えに来て車のドアを開けるのもお前達の仕事だぞ。報酬を下げてもいいんだぞ。」
男はふんぞり返りながら女の髪を撫でる。
「こんなに美しい女性もいるんだ。もしもの時にお前達がいなければ呼んだ意味が無いだろう!」
男は女の胸元へと手を伸ばすが、その手は女に払われた。
「お預けか。ふふ、まあいい。夜は長いからな。」
男はニタニタと笑う。
車は明るい道を走っていたが、暫くすると薄暗いガタガタ道へと差し掛かる。
女にくっつき、鼻息を荒くしていた男は窓の外を見て眉間に皺を寄せた。
「おい。ホテルへ行くのにこんな道は通らないだろう?どこへ向かっているんだこの能無し!」
男が声を荒らげると、助手席に座る男が「クククッ」と笑った。
「何を笑っているんだ!」
男が再び声を荒らげると助手席に座る男が振り返る。
「ホテル?笑わせるなよおっさん。お前とその女が行くのは地獄だ。」
黒く長い前髪の隙間から妖しく光る眼に捉えられた男はゴクリと唾を飲む。
「俺達の可愛い仲間の事をゴミって呼んでくれてありがとう。お返しにいい事してやるよ。」
黒髪の男は「なぁ?」と運転席の男へと声を掛けた。
「俺は女の子と楽しいことするからさぁ、おっさんはかーくん達と遊んでてよ。」
運転をする白髪の男がケタケタと笑う。
二人が楽しげに話す姿を見た女は怯え涙を流した。
「お前達は何を言っているんだ!護衛はどうした?!何が目的だ?!金ならくれてやる!元いた場所へ戻れ!」
男は女の頭を撫で叫ぶと、黒髪の男がまた笑う。
「そんなに一気に話すなよおっさん。護衛なら先に行ってる。
目的は金だった。でもお前の余計な台詞で気が変わった。元いた場所へは帰してやるよ、安心しな。」
黒髪の男はそう言うと後部座席の方へと身を乗り出し男の頭を殴り付けた。
男は白目を向き女の方へと倒れ込む。
女は涙を零しながら悲鳴を上げた。
黒髪の男は女を見てそっと手を伸ばすと、女はその手を払いのける。
「へえ、抵抗する度胸はあるんだ?」
黒髪の男は再び女の顔へ手を伸ばし指で涙を拭うと優しく笑いかけた。
「大丈夫、俺が用があるのはこのおっさんだけ。お前は大人しくしてりゃそれでいい。」
黒髪の男はそう言うと助手席に座り直し煙草を手に取り火を付ける。
四人を乗せた車は薄気味悪い森の中へと姿を消した。
車内には黒髪の男が吐き出す煙が充満し、女は咳き込み白髪の男はニタニタと笑いながら車を走らせていた。
「それにしても口が達者なおっさんだねぇ。臭いし汚いし本当に金だけって感じ。」
白髪の男はミラー越しに倒れ込む男を見て吐く真似をする。
「金がなきゃ何も出来ないただのおっさん。
一緒にいる女もどうせ金目当てだろ。なぁ?違うか?」
黒髪の男は窓を開け煙を外に流しながら女へと問い掛けた。
女はケホケホと咳き込み涙目で黒髪の男を見つめる。
「聞いてんだけど。口無いの?それとも耳が無い?次答えなかったら本当に無くしちゃうよ?口と耳。」
黒髪の男は女を見ると悪戯に笑う。
「お金に、困ってて……そんな時社長に会って……それで……。」
女がか細い声でそう言うと黒髪の男は前を向く。
「それで全身ブランドで固めたダッサイ格好してるのか。
金に困っている割には贅沢してるように見えるけど…
…見栄を張るのは悪くないけど、ダセェよお前。」
黒髪の男は笑いながらそう言うと「言い過ぎじゃない?」と白髪の男も笑った。
女は俯き小さく震える。
黒髪と白髪の男は女に構う事を辞め、腹が減っただ眠たいだとくだらない話を続けた。
暫くすると森を抜け荒んだ街が顔を出す。
「つーいた。」
黒髪の男が後ろを向きそう言うと、女は顔を上げ窓から外を眺めた。
ボロボロの家が建ち並び、その前では酒を浴びるように飲み騒ぐ者や殴り合いの喧嘩をする者。
窓が割れた店では男が騒ぎ立てている。
女は自分が住む街との違いに驚き言葉を詰まらせた。
四人を乗せた車が通る道に座り込んでいた者達は車を見ると素早く立ち上がり道をあけ頭を下げた。
騒ぐ者は口を閉じ、喧嘩をする者は争いをやめ、皆次々と車へ頭を下げる。
それを見た白髪の男は笑顔でクラクションを鳴らすとそのまま奥へ奥へと向かって行った。
車が通り過ぎるとまた騒ぎ、喧嘩を始める住人達に女は目を丸くさせる。
暫くして車が止まる。
黒髪の男は車から降りると後部座席のドアを開け女に出るように言う。
女は従おうとするが倒れかかってきている男が重くて動けなかった。
「何してんの?ああ、コイツが邪魔なのか。」
黒髪の男が「ちょっと来て。」と叫ぶとゾロゾロと男達が姿を現し、黒髪の男と話終えると女にもたれ掛かる男の足を掴んで車から引きずり下ろした。
男は顔や体をぶつけながら地面へと叩きつけられ、足を掴まれたまま連れて行かれた。
「はい、降りて。」
黒髪の男は車の中を覗き込み女に声を掛ける。
女がゆっくりと車から降りると、黒髪の男は車の前に立ち笑顔で此方を見る白髪の男を指差し「じゃあ懍について行って。」と告げ、そのまま男が連れて行かれた方へと歩いていった。
女は恐る恐る白髪の男に近寄ると、白髪の男は女の手を優しく掴み「疲れたでしょう?ゆっくりしなよ。すぐに帰すからさ。」とボロボロの建物の中へと向かう。
女は抵抗をすること無くついて歩いた。
白髪の男、懍はニタリと笑い建物二階にある部屋の扉へと手を伸ばした。




