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「お前、カブトに入る気ないか?お互いに良いことしかないと思うんだけど。」
輝血が柏木の前に立ち見下ろしながら聞くと、柏木は顔を上げ口を開いた。
「俺は元とはいえ龍にいた者だぞ……。そんな奴を信用出来るのか…?」
輝血は眉をピクリと動かし、ニタリと笑う。
「信用出来るかどうかはこれからのお前次第。それ相応の働きを見せてくれれば自然と信用はされるさ。それにお前は俺達を信用しなくてもいい。」
「信用しなくていい…?」
「ああ、カブトでは俺と懍が絶対。信用してようがしてなかろうが俺と懍の命令には従ってもらう。従えないならその時点でうちには要らない。お前は家族じゃないからすぐにでも追い出すよ。」
「追い出すだけ、か?」
「ははっ、それは従えないって言ってるのか?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないが……全てに従えるとも言いきれない。」
輝血は体を前へと屈め柏木の目を覗き込む。
「入りたくないなら別に今追い出すだけだけど。」
「入りたくないわけじゃないんだ。ただきっと龍相手にする時俺は躊躇してしまう。一般市民相手でもそうだ……俺は躊躇してしまうんだ。」
「躊躇、ね。そんな事言ってる間はお前は罰を与えられる対象にもならなけりゃ飯も食っていけねぇ。最初のうちは飯の面倒くらいは見てやるがいつまでもってわけにもいかない。飢えに飢えを重ねていくうちに躊躇なんてしなくなる。」
輝血は懍の方へ視線をやり「ま、どうにかするから任せてよ。」と言うと背を向け手をヒラヒラとさせ部屋を出ていった。
「どうにかって……結局柏木は俺達といる事になったって事?」
懍は柏木の方を見て「どうするの?」と聞いた。
「カブトに入れば俺の目的は果たせる……かもしれない。どちらにせよ入らないと言えば俺はここを出たあと君達に殺されるんだろう?それは俺が望むことじゃない。」
「完全に同意ってわけじゃなさそうだね。ただ、かーくんにとってそんな事はどうでもいい。何を考えているのかは俺にも分からないけれど、きっと柏木を入れたい理由があるはずなんだ。」
懍がその理由はなにか?と考え込んでいると、優しい声が降り掛かる。
「輝血はきっと捕らえられた子の代わりにしようとしているんだよ。勿論捕らえられた子の救出はするつもりはしているんだろうけれど、それまで空いた枠に柏木くんを入れよう、そう考えているはずだ。」
懍は水仙の方を向き「なるほどね~」と納得する。
「でも柏木は今両手足が使えない。枠に入れるにも時間がかかるよ?」
「それは輝血がやったんだろう?治るまでは輝血も無理はさせるつもりは無いだろう。治るまでは、ね。」
「そうだね。それにかーくんは元白龍っていうのが気に入ったんだろうね。」
「ああ、力ある者を好むからね。良かったね、柏木くん。君が元白龍隊員じゃなければきっとここに来る前に殺されていたと思うよ。」
水仙は、ふふっと笑いながら言う。
柏木は二人を交互に見た後、おずおずと話し始めた。
「俺は役に立てるかは分からない。でも君達に殺されるわけにもいかない。アビスで集めた奴らとだけなら俺はきっと龍との接触を恐れ続けてしまっていたと思う。でも…君達となら俺は龍と接触する事をそこまで恐れずにいられるかもしれない。それに……。」
柏木は言葉を詰まらせ下を向く。
「それに、何?」
懍は柏木の隣に立ち不思議そうに眺める。
「それに、輝血というあの男は……俺の中で燈龍会長と被る所がある。」
「かーくんと燈龍が被る?」
「あぁ、仕草や言動が少し似ている気がする。彼に逆らってはいけないと俺の頭の中で赤信号が出る。……アビスで俺に攻撃をしてきた時から思っていた。」
「じゃあとりあえずカブトにいればいいんじゃない?うちは全員家族で成り立つ。その中に部外者が入る事を喜ぶ者は少ないと思うけれど、かーくんが決めたって知れば家族達も文句は言わない。」
柏木は小さく首を縦に振った。
「柏木くん。正式にカブトに入った、となればまた僕の所に来ることになるだろう。その時は娘達にも会わせよう。」
水仙の言葉を聞いた懍は「じゃあまたね、お父さん。」と柏木の車椅子を押し部屋を後にした。
水仙は笑顔で手を振り見送る。
懍が手を振り返し、二人が部屋を出て扉が閉まると水仙の顔から笑顔は消えた。




