09
柏木を乗せた車椅子は輝血と懍の間で止まると、白衣を着た男は一歩後ろに下がり頭を下げ、部屋を後にした。
柏木は前に座る男を見てタラリと汗を垂らす。
自分を見つめる男は頬笑みを浮かべてはいるものの、目が笑っていないのだ。
「初めまして、柏木くん。私はムスカリの鬼灯 水仙と申します。」
笑みを浮かべたまま自己紹介を済ませた水仙はそのまま続けた。
「輝血と懍からお話は伺いました。僕からも君に聞きたいことがある。良いかな?」
柏木が首を縦に振ると、輝血と懍は水仙から柏木へと視線を移す。
「口があるならちゃんと声出して返事しろよ。それとも何か?アイツに声帯取られたか?」
笑いながらそう言う輝血につられて懍も笑う。
「輝血、懍。いいんだよ。きっと彼は緊張しているんだ。緊張が解れればきっと普通に話すさ。」
水仙の言葉を聞き輝血と懍は笑うのを辞める。
「すまないね。では今から僕が聞くことに答えてもらえるかな?首を振るだけでも構わないからね。」
水仙は少し前屈みになるとジッと柏木の目を覗き込む。
水仙と目が合った柏木は動けずにいた。
「柏木くんは元白龍隊員なんだよね?」
柏木は水仙から目を逸らす事無く首を縦に振った。
水仙はニコニコとしたまま頷く。
「元総龍会会長、龍崎 良昌は今どこに居るか知っているかい?」
柏木は首を縦に振った。
「そうか。知っているんだね。では、彼は今どこにいる?」
柏木は薄く口を開く。
「元会長は……総龍会屋敷にある墓地にいます。」
水仙は眉をピクリと動かす。
「墓地?まさか龍崎は死んだのか?」
「はい。三年前に。元会長が亡くなられた後に今の会長が就任しました。」
水仙は上を向き手で顔を覆うと大きな声をあげて笑った。
「はっはっは!年老いた爺だから会長を引退してのんびりと過ごしているのかと思っていたが死んだのか!ははっ、はっ……はは……そうか、そうか。」
水仙はそのまま暫く上を向いたままでいた。
そんな水仙を見た輝血と懍は心配そうな表情を浮かべ、柏木は困惑の表情を浮かべる。
水仙は大きくため息をつくと三人へと視線を戻しまたニコリと微笑む。
「いやあ、取り乱してしまってすまない。龍崎とは昔関わりがあってね。」
水仙は顔の前で手を合わせると「では気を取り直して。」と続けた。
「柏木くん、君の目から見て現会長の燈龍凱斗は恐ろしいか?」
柏木は少し俯き小さく頷いた。
「そうかそうか。恐ろしいか。だから、彼は会長になれたんだね。」
水仙は手を伸ばし柏木の頭を撫でる。
「で、龍の中でムスカリの話はされていたかな?」
柏木は頭を撫でられたまま答える。
「何年も前から捕らえることが困難な極悪集団だと聞いた事があります。」
「そうかい。彼達は僕達を見つけ次第殺す、そう考えているだろうね。」
「今までムスカリの仕業だと思われる事件は目を瞑りたくなる程のものばかりだと聞いているのできっと……。」
「ははは、それで?今回連れ去られた私の可愛い子は今頃龍に食われていると思うかい?」
柏木の頭を撫でる水仙の手に少し力が入る。
「……ムスカリだと分かれば情報収集の為に手段は選ばないと思われます。」
「手段は選ばない、という事は食われている可能性も高いね。連れ去られた可愛い子も過去には人を殺めている。情報を話した所で因果応報といわんばかりに痛めつけるだろう。」
水仙は柏木の頭から手を退ける。
「総龍屋敷までの道程で構える隊員の数はそこまで多くはないだろう。だがそこを乗り越えた所で屋敷内には数百もの隊員がいる。と、なればやはり……。」
水仙は顎に手を当て不敵に笑う。
「屋敷ごと飛ばすしかない、か。」
水仙が「ククク」と笑いながら言うと、輝血と懍の目が輝き、柏木の目には恐怖が映った。
「でもお父さん、屋敷ごと飛ばすにしても先に仲間の救出が先だ。」
「分かってるよ、輝血。私の可愛い子供はちゃんと助け出す。」
水仙は柏木の目を見てニコリと笑う。
「君には感謝するよ。総龍の情報は中々入手することが出来ない。隊員を捕まえて聞くにもリスクが大きい。」
柏木は額から汗を流し、ゴクリと喉を鳴らす。
「そんなに怯えることは無い。今すぐ君を殺そう、だなんて思っていないよ。……輝血次第だけどね。」
「お父さん、その事についてだけど。」
輝血は立ち上がり柏木が乗る車椅子の後ろに立つ。
「俺、こいつをカブトに入れようと思う。」
輝血の言葉を聞いた水仙は不思議そうに輝血を見つめた。
「カブトに?」
「ああ、元白龍隊員という事は腕は確かなはずだ。それにこいつは、自分は総龍会から罰を与えられるべきだと言っていた。俺達と動けば罰を与えられる対象にもなるはずだ。俺達はこいつから情報を得つつこいつ自身も目的を果たせる。」
「ふふ、なるほど。……輝血に任せるよ。ただ、彼は僕の子じゃない…裏切り行為やムスカリを危険な目に晒すような事をすればその時は。」
「その時は俺がコイツを殺すよ。お父さんの手を煩わせるような事はしない。」
水仙は頷くと背もたれに身体を預ける。
「では柏木くん。君は今日から輝血と懍が率いるカブトのメンバーだ。詳しい事は二人に聞くといい。……先程輝血にも言ったけれど、裏切り行為や仲間を裏切るような事があれば僕は君を許さないよ。」
柏木は再び喉を鳴らし下を向いた。
「かーくん、お父さん、柏木の気持ちは聞かなくていいの?」
座り3人のやり取りを見ていた懍が首を傾げる。
「こいつの気持ち?」
「うん。俺達が入れるって言っても柏木自身にその気が無ければいつ何をしでかすか分からない。それに俺達に怯えたままの状態で入ったとしても力を発揮出来ないかもしれないよ?」
懍の言葉を聞いた輝血は、うーんと考える。




