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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
闇と光
121/123

05

「レイの方に行った方がいいんじゃないかい?」

「えっ!?」

眠たげな眼で見つめ気怠げに話しかけてきたキョウに思わず驚いてしまった懍。

「楽しそうだなァとか思ってんだろ?生憎ウチはああいうやり取りは無い。それに輝血も居る。今お前がいるべき場所はレイの方じゃないかい?」

「……そう、なんですかね……?」

「輝血の事は心配しなくていい。まずは自分をしっかり持て。じゃなきゃお前も生きてはいけ無ェよ。」

「自分をしっかり持つ……。」

懍は再び腕を組み考え始める。


輝血と出会ってからずっと輝血にくっついて生きてきた。

カブト時代も輝血が居たから乗り越えられることもあった。

龍での生活も、輝血がいてくれたから我慢出来た。

喜びも苦しみも何もかもを輝血と共有し合ってきた。そう思っていた。

だがある日、輝血はキョウと出会い心を揺らしていた。

自分から離れていくのではないだろうか?そう思うと少し息苦しかった。

だから、自分も一緒について行こうと思った。

輝血がついて行きたいと思った人なら、と。

だが今、輝血の中に龍での生活の記憶が無い。

自分一人だけが知る、喜びと苦しみ。

苦しい部分は忘れていてもいい。

だけど、喜びまで失ったというのは少し悲しく思える。

あの時こんな事をして楽しかったね。

あの時のこの発言が面白かったね。

そんな思い出を二人で振り返ることはもうできない。

どこからどこまでを話してもいいのか分からない。

もし、自分が話した言葉をきっかけに全てを思い出してしまったら、目の前で悲しみ苦しむ輝血を自分は支えられるのだろうか?

支えたいと思う気持ちはあるが、支えられるとは言いきれない。

それは、俺が弱い人間だからだ。

輝血を支えられる人間になりたい。

その想いが強まる。

「答えは出たかい?」

キョウの問い掛けに懍は頷く。

「ほー?どうすんの?」

颯の耳から手を離し、懍を見るレイ。

耳を擦りながら答えを待つ颯。

「俺、強くなりたいです。喧嘩がとかじゃなくて、気持ち的に。だから、一回かーくんと離れてみようと思います。」

懍の言葉を聞いたキョウは黙って椅子に腰をかけ、レイはニコニコと笑った。

「おー、ほんならウチこいや。嫌でも強なるわ。」

「はい。お世話になります。よろしくお願いします。」

懍が深々と頭を下げると、レイは満更でも無い表情をして颯の肩を強めに叩いた。

「あいよー、んなら颯。お前が面倒みたってや。」

「俺ですか?」

肩を叩かれ痛みに顔を歪める颯。

「他に颯って名前のやつがここにおるんか?」

「居ないですけど。……え、面倒見るんですか?」

「せや。あとなんか一緒についてきたアイツらもお前が面倒見ろ。」

レイは龍の屋敷から一緒に出てきた輝血と懍の仲間を指さす。

「流石に多すぎますよ。一人では見きれないですよ。」

青ざめた顔をしながら颯がレイに分けてくれと頼むと、レイは楽しそうに笑った。

「分かった分かった。ほんならお前は懍だけでええわ。その代わりしっかり教え込めよ。」

「了解です、有難うございます。」

「おー。」

レイはキョウの隣へ移動すると、これからのことを話し始める。

キョウとレイが集客方法や移動手段を話している中、懍や颯、そして仲間達は用意された料理を味わっていた。

懍の中で輝血を思う気持ちは誰よりも強く、輝血の為なら何でもやってきた。

いつも一緒についてまわり、一緒にいることが当たり前になっていた。

そんな懍が初めて輝血から離れて生活をすると決めたその理由もまた、輝血が関係している事に気付いた懍は、思わず笑ってしまった。

──────────────

その土地へ移り一ヶ月が経った頃、輝血は赤城の隣に立ち、キョウが仕事をする様子を見ていた。

初めて来たと言う客は女性で、キョウを前にして緊張しているようだった。

そんな女性客にキョウは優しく微笑み話し掛ける。

緊張しながらも自分の頼みたい事を話す女性。

ニコニコとしながら黙って聞くキョウ。

「あァ、そういう内容なら西側へ行ってくれるかい?」

女性の話を聞き終わったキョウは変わらず優しい声で話す。

どうやら女性は金銭苦で生活が出来ない為、生活費の足しを借りたかったらしい。

「に、西側……ですか?」

「そう。おい赤城ィ。」

「はい。」

「レイの所に案内してやりなァ。」

「承知しました。」

赤城は扉を開き女性が来るのを待つ。

「アイツと一緒に行けば大丈夫、ついて行きなァ。」

女性はキョウに頭を下げると、赤城と共に部屋を出る。

扉が閉まるとキョウはソファに寝転ぶ。

「輝血ィ」

「はい。」

「ウチはなんでも屋だが、俺は金貸しはしねェ。覚えたかい?」

「はい。でもレイさんはするんですね?」

「そう。だからレイの所の仲間の数が多い。」

「……どうしてですか?」

「そりゃァお前、取り立てに行かせる為だよ。」

「返しに来るんじゃないんですか?」

輝血の質問を聞いたキョウは驚いたように目を大きくしたかと思えば、すぐにふにゃりと目を閉じ声を上げて笑った。

「はっはは。まだまだ純粋だねェ。そりゃァ借りる時は返すって言うだろうよ。でも返済期日を守るやつなんてのは2割にも満たない。そういう人間だからウチみたいな所でしか借りる事が出来ねェ。」

「なるほど……でも、返しに来ないって分かっていて貸すのはリスクが高いんじゃ?」

輝血はキョウから聞いた言葉をメモしながら再び質問をした。

「普通の闇金ならそうだねェ。警察や弁護士に逃げられりゃ困るからねェ。でもウチで借りたヤツは警察や弁護士に守られねェ。」

「接近禁止令がある分、警察たちからの対応は厳しいのかと思っていたけど……。」

「接近禁止令があるのはウチだけじゃねェ。向こう側もだ。それに向こう側はなるべくこっちと関わりを持ちたがらない。……一人の人間を守る為に警察が保護をしたとしよう。取り立てが出来なくなった俺達は何処で何をする?」

キョウからの問い掛けに輝血は頭をフルに回転させ考えた。

「え?えーと……ソイツの家に行って金目の物を手当り次第持ち帰る……とか?」

「うーん。それじゃァ全然元が取れない可能性が高いねェ。」

「えっと、じゃあ保護期間が終わるのを大人しく待つ…?」

「はっはは、そんなに気が長い奴らの集まりに見えるかい?」

「うーーん?」

頭を抱える輝血を見たキョウは、ヘラっと笑いかける。

「ソイツにも家族がいる。家族がいなけりゃァ恋人や友人。それに職場ってのもあるだろうなァ。そこから回収するんだよ。まァ、闇金と同じようなもんだわなァ。」

「え、でもそれって向こう側に行った時点で目をつけられるんじゃ?」

輝血はこれもメモを取りながら質問をした。

「さっきも言ったが、警察達も俺達とはなるべく関わり合いたくないんだよ。そりゃァ通報されれば渋々来なけりゃならなくなるけど、大体俺達に手を出さずに厳重注意程度で帰って行く。」

「警察なのに?」

「そう。それが何故だか分かるかい?」

「関わりたくないから…?」

輝血が自信なさげに答えると、キョウは妖しく笑い頷いた。

「そう。それと、奴らの中にもウチの客がいる。はっはは、俺らが捕まって困るのも警察。終わってんだろォ?この国。」

「え!警察の客がいるんですか?」

「そうだよ。だから俺らは比較的向こう側でも自由にやってきた。そりゃァ客じゃない警察の方が多いけど、警察も上からの命令には逆らえないからなァ。厳重注意だけって言われりゃァそれ以上の事はよっぽどの事が無い限り出来ない。」

「よっぽどの事って?」

「そうだなァ。例えば警察相手に俺らが暴れたり、警察が来たのにも関わらずソイツの周りの人間を脅し続けたり。引き際が肝心。そもそも通報される事の方が特殊だけどねェ。」

「そうなんですか?」

「そうだよ。自分の家族が金を借りてトラブルをおこしている、しかもその相手は向こう側の人間。だなんて周りにバレたくない人が殆どだ。恋人や友人はソイツとの関係を経つ奴も多い。」

「なるほど……。」

気付けば輝血の手は止まり、真剣にキョウの話を聞いていた。

「まァ、これをやるのはレイの方だけどねェ。これを覚えなきゃいけねェのは輝血じゃなくて懍だなァ。」

「俺も一応覚えておきます!メモもしたし!」

「あ?あァ、いつか自分がやる側になるかもしれねェからなァ。覚えておきなァ。」

キョウと輝血が話し終えると赤城が一人の男を連れ戻ってきた。

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