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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
闇と光
119/123

03

そして、季節が巡りあの時から一年が経とうとしていた。

「おはよう。」

早朝、まだ薄暗く少し肌寒い時間に一人の男が一つの墓の前に座り込む。

「あれから一年が経とうとしている。早いなぁ。」

その場にはその男しかいない。

「俺の決断は甘いよなあ。……それに、手が届かない場所に行かれてしまった。あの時こうしておけば、そんな後悔はもうしたくないと思うのに、俺はまたこうやって後悔をし続ける。」

誰かに語りかけるように話し続ける。

「幸いあの場で失った隊員はいなかった。それでも、俺の知らない二人の命があの場で消えた。……守らなきゃいけなかった人達も守れなかった。」

墓の前に座り込み、下を向く。

「俺はどうして今も会長のままなんだろう。何も出来ないのに、どうしてだろう。なぁ、会長。俺はどうすればいいんだ?」


燈龍 凱斗。

彼は幼い頃に家族を失い総龍会へとやってきた。

頼れる父もいなくなり、彼が頼れる大人は龍の人間だけとなった。

誰よりも早くから、とある目標を達成する為に訓練に励んできた。

誰よりも強く誰よりも恐ろしいと言われていた。

だが彼は、誰よりも脆く弱かった。

誰かを失う。

それは彼に、想像を絶する程の苦しみを与える。

そして、彼はどうすれば失わなかったのか?と答えが出せないまま苦しみ続ける。

昔からずっと、彼は変わらない。

良い意味でも、悪い意味でも。

「俺がやってきた事は、アイツ達と変わらないのか?」

凱斗はキョウの言葉がずっと引っかかっていた。

食屍鬼討伐後、罪を犯した者を罰するのが自分の仕事だった。

見回りをし、警察の手伝いに行き、任せられた人間に相応の罰を与える。

恨まれる存在なのは承知の上だ。

報復に来る人間は今まで何人もいた。

加害者家族が来る事もあったが、それよりも多かったのは加害者の仲間だった。

加害者家族は涙ながらに訴えてきた。

ここまでする必要はあったのか?と。

その言葉を聞く度に、その言葉は貴方の家族に言ってください。そう思っていた。

仲間達は強い殺意を抱き、刃物を向けてくる。

その攻撃により怪我をする事もあったし、失った仲間もいた。

自分勝手な動機で人の命を奪った人間を罰する自分と、金を積まれて復讐をするアイツ達が同じ?

未だに納得は出来ない。が、やっている内容が同じなのは否定はしない。

「あぁ、きっとアイツは理由なんてどうでもいいんだろうな。」

凱斗は立ち上がり、大きく伸びをする。


「会長、おはようございます。」

後ろから声をかけられ振り返ると、数名の隊員が立っていた。

「おはよう。」

凱斗は隊員達を横切り屋敷へと向かって歩き始める。

その後を隊員達がついて歩く。

あの事故の後、落ち着いてからは毎朝この場所へやってくる。

「無いとは思いますが、思い詰め自死をしないよう見ていてください。」

桜庭から隊員達に告げられたその言葉は、事の重大さを物語っていた。

あの事故は総龍会だけではなく、国にとっても大きなダメージを与えられる事となった。

あの地区とは関与しない事を国から告げられたが、それを破りあの地区へ足を踏み入れることは出来た。

が、向こう側の人間を捕らえるにあたり想定される被害者数は今の総龍にとっては痛かった。

そして、国は恐れていた。

向こう側の人間からの報復を。

隠れているだけで、向こう側を支持する者がいる事を知っていた。

暴力を恐れるこちら側の人間と、恐れない向こう側の人間、どちらの力が強いのかはそう考えなくてもすぐに答えが出た。

国民を守る為にこの先も関与はし合わない。

その決断が下され、総龍からは数十の隊員が屋敷を後にした。

輝血達が逃亡し、それを手伝ったのは龍に潜入していた向こう側の人間だった。

国に隠し通そうと思っていたが、あの地区へ行くには全てを包み隠さず話す必要があった。

国からは酷く非難された。

会長としての自覚が足りない。

全ての責任は会長にある。

その言葉を凱斗は黙って聞いていた。

そして、今まで通り関与はせず、国民には詳しい内容は話さないと告げられる。

国が保身に走るのは想定内だった。

だからこそ、あの時足を止めてしまった自分を恨んだ。

だからこそ、あの時自信過剰すぎた自分が憎かった。


忘れることは無いだろう。

あの時、あの瞬間、自分が守りたいと思った彼達の事を。

光ある道を歩みなおしてほしい、その思いに嘘はなかった。

やり方は下手くそだったかもしれない。

上手くは伝わらなかったかもしれない。

だけど、心の底から彼等のこれからの未来を共に笑顔で迎えたいと思っていた。

それが此方からの片思いだったとしても、いつかは分かってくれるのではないか?そう思っていた。

エゴだと言われればそうかもしれない。

彼等は加害者であり被害者だ。

被害者は数知れず、処罰が甘いと叩かれもした。

だが、総龍は決して甘かったとは思ってはいない。

罰に耐えきれなかった者もいた。

許せない気持ちが強い隊員も多かった。

それでも、共に過ごしていく中で隊員達の目に映るその姿は、ただの極悪犯から無邪気な子供へと変わっていった。

最初こそは険悪な雰囲気だったが、食屍鬼復活事件からは彼等も気持ちを入れ替えようとしていた。

そう思えたのだ。

積極的に仕事に取り組もうとしていた。

自分たちに出来ることは無いか?と隊員達に聞き、伝えられた仕事を嫌な顔せずやり遂げた。

前向きな気持ちが隊員達にも伝わっていた。

そんな報告を受け、嬉しく思っていた。

だが、彼等は再び裏切った。

隊員達の心を踏み躙った。

許せなかった。

酷く傷付き涙を流す隊員がいた。

ショックを受け心を閉ざす隊員もいた。

怒りを露わにする隊員もいた。

その中でも上級層は潜入されていた事に対し他の隊員たちよりもショックを受けていた。

仲良くしていた隊員が裏切り者だった。

すぐには理解が出来ず、そして理解した後も受け止め難いものだった。

一緒に罰を与え、一緒に見回りをし、一緒に国民の平和を願う仲間。

そのうちの数人は自分達が罰する対象者だったのだ。

人を信用する心は粉々に砕け散った。

その砕け散ってしまった破片を掻き集め修復するのには時間がかかる。

それに、完全に元通り。とはならない。

彼等は総龍の隊員達に確実に大きなダメージを与えたのだ。

これが水仙の狙いだったのか、また違った形でたまたまそうなってしまったのかは分からない。

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