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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
弱さが生むもの
116/123

04

「お前達も加害者の命を奪ってきたはずだよなァ?」

気怠そうに話すキョウの目は凱斗を見ているが、周りへの警戒も怠ってはいない。

「……どうしても俺達と自分達は同じだと言い張る気か?」

凱斗は自分がキョウに対して少しの恐怖心を感じていることを悟られぬよう平然を装い話したが、見抜かれていないとは言いきれない。

「光ある場所にいる国民を救う龍と、暗闇に閉じ込められた国民の話を聞く俺達は同じじゃないかい?」

「俺達は高額な金銭のやり取りの上で執行しているわけじゃない。……キョウ達は救いを求めた人達が請求額を払えないと言っても同じように救うのか?」

「あァ?払えない?そんな奴は一人もいなかったからなァ。わからねェなァ。」

ニタニタと笑うキョウを凱斗は睨み付けた。

払えなかった人はいなかった。

それは、少額で取引をしたとも捉えられるが、無理矢理に用意をさせたとも捉えられるからだ。

「少額でリスクがある仕事を引き受けるとは考え難い。……なぁ、この国の年間失踪者数を知っているか?」

「さァ?そんなものに興味が無いからねェ。」

キョウはヘラヘラと笑っている。

「子供を合わせて約八万人。その内の何人があんた達を頼って姿を消したんだ?」

「はっはは、人聞きが悪いねェ。……俺達はただ頼まれた事をしたまで。その後の事は知らねェよ。」

キョウに悪びれた様子は無い。

「……こんな話を聞いてしまった以上、尚更総龍屋敷に来てもらわないといけなくなった。そっちがそのつもりならこっちもそれなりの対応をさせてもらう。」

凱斗は自分が今やるべきことを整理した。

裏の王と呼ばれる人物に恐怖するのは後だ。

今は、この者を捕える事を優先すべきだ。

それが今後のこの国の平和に繋がるのは間違いないのだから。

「はっはは、いいねェ。それが総龍会長の目、ね。」

怒りに満ちた目をする凱斗を見てキョウは嬉しそうな顔を向けた。

「……俺も凱斗と殺り合いたいのは山々だが、そろそろ時間のようだなァ。無駄話をし過ぎた。」

「時間?」

キョウはニコリと笑ったまま続けた。

「最後に一つ。輝血達がどうして俺についてきたか分かったか?」

「それは……。」

話を戻され一瞬困惑した顔をする凱斗をキョウは見逃さなかった。

「ははっ、輝血達も俺と同じように考えているから、どれだけ優しくされようと諭されようと全部綺麗事に聞こえるんだよ。はっはは、助けるならそうだなァ、水仙に連れて行かれた時だったなァ。遅かったんだよ、ただそれだけだ。」

「どういう事だ……?」

「輝血達から見てもお前がやっている事は自分達と変わらないんだろォ。それに、水仙と出会い暗闇に慣れちゃったんだろォなァ。……まァ明るい場所に居続ける龍には到底理解し難いと思うが。」

キョウはフッと鼻で笑うと凱斗に背を向けた。

「待て!」

凱斗が叫ぶもキョウは振り向きもしなかった。

キョウを追おうとした時、凱斗は自分の目を疑った。

キョウは倒れ込む隊員の上に跨り拳を振り下ろすレイの肩をポンと叩く。

レイはキョウを見上げニコリと笑うと立ち上がり、拳に付着した血液を振り払う。

輝血と懍の相手をしていた隊員も倒れ込み、輝血と懍は赤城に支えられながら車へと向かっていた。

食屍鬼討伐に参戦していた隊員達もいる。

武器が無くとも敗ける事は無かった。

いや、敗れてはいけないのだ。

その為に日々特訓をしていた。

人数有利だった。

そして今日は、全員が怒りと悲しみを背負い普段以上に息を巻いていた。

負けるはずが無い。

全員を屋敷に連れて帰る。

……はずだった。

今自分の目に映るのは、苦しそうに倒れ込む隊員に、足に力が入らなく立ち上がれない隊員、フラフラと覚束無い足取りでキョウ達を追おうとする隊員。

キョウ達は各自の車に乗り込んでいく。

キョウは周りを警戒していた。

凱斗は視界の端に映る者を見る程度でキョウのことばかりを気にしていた。

隊員達なら大丈夫だと思い込んでいたからだ。

上に立つ者として、この過剰な思い込みは危険だと分かっていたはずだ。

目の前にいるのが食屍鬼ではなく人間であり、その人間達は王に仕える者達だということも理解していた。

人間が相手となると怯んでしまう隊員がいることも分かっていた。

それなのに、目の前に立つ大きな脅威から目を離せず、そして無駄話をして相手に時間を与えてしまった。

輝血達のことを見切り、気持ちを切り替え、キョウを捕らえてさえいればこんな事にはならなかった。

全ては自分の弱さと判断ミスのせい。

……心のどこかで、話し合えばわかるのではないか?とも思っていたのだ。

きっと、自分に見せたあの悲しみに染まった瞳は偽りではなかったから。

芯から悪に染まった人間には出来ない瞳をしていたから。

だけど、それは思い違いだった。

凱斗とは違いキョウは切り替えが早かったのだ。

悲しみを引き摺りそれが時に弱さとして現れてしまう凱斗に対し、キョウはそれを大きな怒りへと切り替え強みにする。

まとまりの付かない脳内に悲鳴を上げそうな凱斗の元へ数人の隊員が駆け寄る。

「会長!」

「奴らが逃げます!この先に行かれると俺達はどうしようもありません!」

今もまた、弱さが出てしまっていた。

今は反省点を考えるべき時ではない。

「分かっている。……キョウだけでも連れて帰──」

凱斗が話す途中、キョウが凱斗に向けて手を振ると、キョウ達が乗る車が左右にわかれて発進する。

「奴らきっと左右からこの先を目指すつもりですよ!」

「会長、動ける隊員達だけですぐに二手に分かれて追いましょう!」

凱斗と隊員が慌てて車に乗り込もうとしたその時。

凱斗と総龍会隊員達は眩い光に包み込まれ、真っ暗な闇の中へと放り込まれた。

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