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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
弱さが生むもの
115/123

03

「……だってよ、会長さん。」

キョウが凱斗に向けてそう言うと、凱斗はニコリと笑う。

「龍の敵なら俺達はただ自分のやるべき事をやるだけだ。」

「強がっちゃって可愛いねェ。……自分が可愛がってた子に殺られて終わる人生もいいかもしれねェなァ?」

キョウは輝血と懍に手で合図をする。

「行け。」

その一言で立ち止まり合図を待っていた赤城と、レイの仲間達が一斉に龍に向かって走り出す。

龍の隊員達も、自分達に向かってくる悪を滅するべく怒りを込めて走り出した。

食屍鬼が相手では無いので龍も武器は使えない。

拳と拳がぶつかり合い、下から上へと蹴り上げられ、馬乗りで一方的に痛みを与える。

龍の隊員の方が人数有利だった。

それでも負ける事を考えていないキョウは、ニコニコとしながら、未だ立ち止まりその光景を眺める輝血と懍の元へと向かう。

レイはソワソワした様子でキョウについて歩いた。

「お前達はそこに突っ立って何をしているんだい?早く行ってこい。」

二人の顔を覗き込みそう言うキョウの瞳はやはり鋭く冷たいものだった。

「もしも、奴らに申し訳ないだとか思っているならそういう自分に不利な情は捨てなァ。奴らはもう過去の人。今のお前達には不要な存在。……行け。」

輝血と懍は小さく頷くと、龍の隊員に向かい走り出した。


「俺は?なぁ、俺は?」

レイは二人が向かって行ったのを見てキョウに聞く。

「レイは自分の好きにしたらいいだろ。俺が指示するのは俺の下の人間だけで、レイにまで指示を出す必要はねェだろォが。」

「なんや、行ってよかったんかい。でもまぁ……流石にキョウの手伝いしよか。思ったよりやるやんコイツら。……って事はその一番上ゆーたら……なぁ?」

レイは目をキラキラと輝かせている。

「流石にあの化け物の相手をしてきただけあるなァ。」

「俺はいつでも行けんで!」

「ははっ、まァ待ちなァ。ウチの子達の活躍を見てからなァ。」

「……活躍するんか?見る限り早々に限界が近そうやけど。」

レイは総龍の隊員達に向かい走って行った輝血と懍を見て呆れた顔をする。

殴りかかっても避けられそのまま倒れ込む懍と、懍を助けようとし隊員に後ろから羽交い締めをされる輝血。

「この程度で負けを認める奴なんていらねェんだよ。」

そんな二人を見ていたキョウは、二人の後ろに立つ凱斗と目が合った。

「ははっ」

キョウは楽しそうに笑うと駆け出す。

「ちょっ、行くなら行くって言ってや!」

少し気を抜いていたレイが慌ててキョウを追うが、隊員がキョウとレイの間に割り込む。

「邪魔すんなや。」

レイは立ち止まると隊員に向かい低い声でボソリと呟いた。

「大人しくするなら俺達は手を出さない。」

隊員の言葉にレイの瞳が鋭く光った。

「はっはっはっ、じゃあそのまま死んどけや。」

ニコニコとしていたレイからスッと笑顔が消えると、目がカッと見開かれそのまま隊員達へ重い拳を振り下ろす。

隊員はそれを避けきれずに腕に鈍い痛みを感じる。

そして、この場にいる裏世界の王は一人では無く二人なんだと悟るとその場で踏ん張り戦闘態勢に入る。

駆け出したキョウの目は凱斗だけを捉え離さない。

自分に対して殺意を剥き出しにしたキョウを見て凱斗もそれに応える。

キョウは隊員達を避け、足に力を込めると高く飛んだ。

キョウの足が凱斗の頭に当たる寸前でそれは凱斗の腕に防がれる。

キョウは着地すると同時に、楽しそうにまた凱斗へ向かい次は拳を振り上げた。

凱斗は少しよろけたが体制を整え直し、キョウの腕を掴む。

「俺に手を出せば本当に後戻りはできないぞ。」

「なんだい?脅しかい?」

「脅しなんか通用しないだろ?」

「よく分かってるねェ。」

二人は一度離れるが、すぐに拳と拳がぶつかり合った。

ジンジンと響く痛みに、キョウはヘラヘラと笑い凱斗は表情を変えなかった。

「……どうするつもりなんだ?」

「なにがだい?」

次の攻撃をしようとしていたキョウは弱々しく発された言葉に反応をする。

「輝血達をどうするつもりなんだよ。」

キョウは目をぱちぱちとさせると攻撃の手を止める。

「どうするもなにも、それはアイツらが決める事じゃないのかい?俺はその手伝いをするだけ。」

「……どうしてお前達は人を苦しめて平気な顔をしていられるんだ?どうして一度抜け出したのにまた戻ってしまうんだ?何を考えているんだよ……。」

キョウの目に映るのは、殺気を放つ弱々しい犬。

自分を守る為に威嚇をしているだけの、弱い犬。

そんなふうに映るほどに凱斗の瞳の奥は哀しみでぐちゃぐちゃになっていたのだ。

「……誰しもが平等に誰かを傷付けながら生きてんだろォが。総龍も全員かは分からないが、加害者家族の事を傷付けながらも、俺達は正義の味方であって悪を罰しただけですって顔をして生きてんじゃねェか。」

凱斗はキョウの言葉を聞き何も言い返せなかった。

「加害者家族は自分の家族が犯した罪をまるで連帯責任かのように周りから責め立てられる。親の教育がだの、家庭環境がだの知ってか知らずか噂話で盛り上がり大勢で小石を投げ続ける。……正義の味方はどうして小石を投げ続けられて血だらけの加害者家族は助けないんだい?」

完全に戦意喪失したキョウは周りを警戒しながらも呆れた顔をして凱斗に問いかけた。

「それは……被害者家族が良くは思わないし、助けを求められる事が無ければ俺達も気付けない。ただ、そうやって周りの人達が騒ぐのは制止しているつもりだ。」

弱々しい声で答える凱斗を見てキョウは手を叩き笑った。

「はっはは、笑わせるねェ。被害者家族が良くは思わない?加害者家族も被害者だろォが。助けを求めない?そりゃァそうだろ。自分の家族を罰した相手に誰が助けを求めんだァ?……制止しているつもり、ね。つもりじゃ駄目だろォ?ちゃんと守ってやんなきゃなァ。あんたらの仕事は国民を守る事だよなァ?」

「そうだけど全員をというのはどうしても難しい。だからそっちは警察が見ているはずだ。」

凱斗は呼吸を整えキョウの目を睨み付けた。

今こんな会話をしている場合じゃないだろう。と、自分に呆れながら。

「いやァ、違う違う。警察は見ちゃいねェ。みていたとしてもそうだなァ、事件発覚から数日、長くても周りが騒ぎ立て無くなるまでだろうなァ。……国からも警察からもその犬からも助けてもらえなかった加害者家族が最後に悩んで悩んで助けを求めに来るのは何処か分かるかァ?」

「……最後に助けを求める?」

凱斗はキョウの目を見て察した。

「俺達の所だよ。はっはは、正義と悪は真逆なんかじゃ無ェ。同じ立ち位置にいる。あんたらが被害者家族を救うように、俺らも加害者家族を救っている。同じなんだよ、やっている事が。……そういう認識をしているから俺達側の人間に龍の言葉は一切響いてこねェ。」

「被害者と加害者は違うだろ。」

落ち着きを取り戻した凱斗は怒りを滲ませた声で返すが、キョウは変わらず呆れ顔で淡々と返事をした。

「会長さん、冷静に考えてみなァ?当事者はそりゃァ違うだろうよ。でもその家族はどうだい?被害者家族はプライバシーを護られるのに、どうして加害者家族は名前や住んでいる場所まで特定されて嫌がらせをされるんだい?しかも、別に関わりがある訳でも無ェ奴らが寄ってたかって正義のヒーローごっこのつもりで、テメェのケツも拭けねェくせに一丁前に無責任な言葉で傷付け、しまいにゃ飽きたら何事も無かったかのように知らねェふり。画面越しにそんな事をしていると、家族や恋人、友人に話せるやつは何人いるんだろうなァ?……なァ、こいつらは加害者じゃねェのか?どうして同じように罰さねェ?……おかしいとは思わないかい?」

凱斗はキョウの言葉を聞き一瞬戸惑った。

失礼な話ではあるが、キョウがそこまで考えているとは思っていなかったのだ。

「それはそうだな。あってはならない。……だからと言ってキョウ達が代わりに報復するのはおかしいだろ。被害者家族は大切な家族を失っている。加害者家族は家族の誰かが人の命を奪っている。一緒に謝罪をするならまだしも、報復しようと考えるのがそもそもおかしいだろう。」

凱斗が真っ直ぐキョウの目を見つめると、キョウはゆっくり頷いた。

「そりゃァそう。ただウチに頼んでくるのは被害者家族への報復じゃなくて、国や警察に対してが多いねェ。後は石を投げてきた顔も知らねェ奴らとか。弱っている時に、周りと同じように冷めきった目で見られたと泣いている人もいたねェ。自分を責めて自死を決意した人もいれば、報復じゃなくモノに頼る人もいる。俺達は全てを暴力で解決はしねェよ。」

「それでもお前たちは多くの人の命を奪ってきたんじゃないのか?人から頼まれたからって……奪ってきたんだろ。」

凱斗の声は微かに震えていた。

今目の前にいるのは、今まで相手をしてきたどんな凶悪犯さえも頭を下げる裏の王。

全てを暴力で解決しないと言っても、凱斗の想像を上回る数の命を奪ってきたとされる男。

食屍鬼に特化した凱斗と、人間に特化したキョウだと考えれば、今この場での力の差は明らかである。

いくら会長だとはいえ、流石に情が邪魔をする時もあるのだ。

それをただ隠しているだけで。

だが、目の前にいるこの男はそんなものに邪魔などされないのだろう。

あくまでも凱斗の想像でしかないが、そうであるならば、再びゴングがなると同時にキョウは迷わず命を奪いに来るのだろう。

怒りの中に恐怖が混ざるのはいつぶりだろうか。

人に対して恐怖を感じた時点でその方の負けが確定している。

凱斗の脳裏には最悪な最後が過ぎった。

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