08
「次から次へと……。」
1から100まで知る限りの事を話し終えた五人はグッタリとしていた。
「それでこれからはどうするおつもりなんですか?」
桜庭が質問をすると、グッタリと背もたれに身を預けていた凱斗が上体を起こし、冷たい目で画面を見る。
「あー……探しに行くよ。全員。」
「全員が見つかったとしてどうするおつもりなんです?また連れ帰るのですか?」
眉間に皺を寄せた桜庭が聞くと、凱斗は目を伏せ話始めた。
「まだ甘さが残っているなら、輝血達は上級層に連れ去られたと考えていたかもしれない。だが、よくよく思い返してみればアイツらは自分の意思で残っていたわけでもなけりゃ俺に心を開いていた訳でもない。上級層の奴らは水仙絡みだろう。そうなれば俺よりアイツらとの方が距離が近いんだよ。自分達の意思で付いて行ったと考えられる。」
凱斗は画面を見つめたまま続けた。
「見つけ次第、上級層の奴らは全員龍に潜り込み何を企んでいたのか吐いてもらう。輝血達は……そうだな……更正する気が無いと言うならもう龍に入れるような事は無い。」
「では輝血さん達は見逃す…?いやでもそうすればまた同じことを繰り返す可能性もありますし……。」
桜庭は頭を抱え、他の隊長達は悲しそうな顔をしたまま黙って二人の会話を聞いていた。
「過去の償いは終わっている。だからこれ以上俺達が過去について罰する事は出来ない。が、もし仮に逃亡してから俺たちに見つかるまでの間に罪を重ねていたとしよう。そうなればその時はもう俺も甘やかすことは出来ない。」
「という事は…」
「そう、輝血達の命はそこで終わる。折角生き延びれたのに自分からそれを捨てたんだ。それなりの覚悟は持っているだろう。それに、きっとあの人も絡んでいる……いや、これからか?どちらにせよいつかは関わることになるだろう。」
凱斗は頭を掻きながら大きなため息をついた。
「あの人って……キョウさんですか?」
「ああ。輝血が頼るとすればあの人だろう。俺かあの人かで揺れていたのは知っていた。そしてアイツが選んだのはあの人。あの人……キョウも自分達の力で龍から抜け出したと知れば輝血を受け入れるだろう。」
「じゃあ、二人が会う前に見つけ出さなければ本当に輝血さん達は完全に元の道に戻ってしまうじゃないですか。」
桜庭は最も悪い方向へと向かっている現実から目を背けたかったが、立ち向かおうとする凱斗を一人には出来ないとまた頭を抱えていた。
「そうだな。いや、元よりもっと酷い道を歩むことになるだろうな。それに慣れてしまえばアイツはもう完全にこっち側には戻っては来られない。そんな事輝血自身もよくわかっているはずだ。」
凱斗の声は今までにないほどに暗く、この声を聞くだけでどれほどのダメージを負っているかは容易く想像できてしまう。
「あの……一ついいですか?」
凱斗と桜庭が話している間に亀八が申し訳なさそうな顔をして割って入った。
「ん?」
凱斗が亀八の方を見ると、亀八は俯き静かに話し始めた。
「うちにいる柏木は残っています。輝血達の逃亡を知り酷くショックを受けており、今は口がきけない状態です。」
「……水仙の子供にしか声を掛けなかったのかもしれないな。柏木は仮にも元白龍隊員。輝血達は別として、他の上級層に忍び込んでいた奴らからの信用は得られなかったのだろう。それに、柏木と輝血達が顔を合わせれば龍に戻されるかもしれないと思ったのかもしれない。」
「そうですね……奴らの目的は一体なんなのでしょう?」
その場の空気は重苦しく、息が詰まりそうである。
「食屍鬼の復活だろ。だが今となっちゃそれももう絶望的。復活させるにあたって最重要人物である大橋はいないし、指揮をとっていたであろう親の水仙もいない。奴等からすりゃここはもう用無しになったから俺や桜庭が不在の時を狙い逃亡。隊員同士で連絡を取って日程調整でもしたんだろう。」
「食屍鬼の復活……それをして大橋は喜びを……でも水仙やその子供達は何を得るのでしょうか?ただの遊び感覚だったのでしょうか?」
亀八は逃亡した隊員たちの考えが何一つ理解出来ないでいた。
しかしそれは、裏切り者とされる輝血達以外の龍の隊員全てに当てはまることであり、勿論凱斗でさえその目的や理由を理解出来ないのである。
「俺もそこまでは分からない。が、水仙は恐らく俺に対する復讐や嫌がらせ目的。子供達は水仙の駒だろう。それなりの報酬をチラつかせていた可能性はあるな。」
「……彼達は龍に来て心を改めることは無かったんですね。」
亀八はキュッと唇を噛み締めた。
最初こそは、受け入れをする事に対して良くは思ってはいなかったが、顔を合わせる度に輝血達のことを嬉しそうに話す凱斗を見て、もしかすると改心するのではないか?と思っていたからである。
まさかこんな形で裏切られるとは思いもしなかったのだ。
「悲しいが、無いだろうな。成人済みの大人なんてそんな簡単に変わりはしない。輝血達の年齢でも難しいんだ。それに、それぞれの性格も関わってくる。だから俺は輝血に少しだけでも希望を抱いた。アイツは変われる、そう思ったんだ。」
凱斗は腕を組みため息をついた。
「とにかく、逃亡した奴らは全員探す。そのつもりでいてくれ。」
「ですが探すといってもあまりにも範囲が広すぎます。仮にこの辺りにまだいるならまだしも、区域外に行かれていたら……我々は何も出来ないのではないですか?」
心配そうな顔をする桜庭を見た凱斗は優しく微笑みかけた。
「それは大丈夫。龍からの逃亡とは告げずに、ただ単に逃亡犯を追っていると言えば向こうの警察も捜査許可を出してくれるだろう。」
「では私が連絡を入れておきましょう。」
「ああ、頼むよ桜庭。……ただ一つ問題があるんだよ。」
うーんと悩む凱斗を、各龍の隊長は黙って見つめ、次の言葉を待った。
「キョウが関わっているとすれば、どんな手を使っているのかは知らないが警察が俺達側に協力してくれるのかが分からない。」
「賄賂……ってやつですかね?」
亀八がそう聞くと、桜庭と百音と彩葉が頷き、凱斗は下を向く。
「そうかもな。それが金なのか何なのかは分からないが、キョウが仕切っていたあの街は完全に警察が機能していなかった。……だからこそ捜しやすいかもしれない。」
「積極的に協力をしようとしない警察がいる区域に潜んでいる可能性がある、という事ですか?」
桜庭は凱斗の方を真っ直ぐ見つめる。
「そう思う。が、俺がそう考えると分かっていたらその裏を取るだろうし正直もうお手上げ状態ではあるよ。俺は完全に奴らの玩具にされている。」
凱斗は顔を上げ隊長全員の顔を見てヘラリと笑った。
「それでも俺は行かなきゃいけないし、ちゃんとケリを付けないとお前達含めた全ての龍の隊員に示しがつかない。また面倒な事に付き合わせて申し訳ないが、もう少し俺に力を貸してくれ。」
凱斗がそのまま頭を下げると、隊長四人は立ち上がる。
シンとした空間で凱斗が顔を上げると、隊長四人が膝を地につけ頭を下げていた。
「私達は貴方が会長になった時に、最期の時まで付いていくと誓いました。こんな事くらいで頭を下げないでください。それに今回の事に関しては、我々にも問題があります。これは龍全体が引き締まり新たに出発する良い機会。」
隊長四人は顔を上げる
「一人で自分を責めるのは辞めて、もっと私達に頼り共に進みましょう。私達は皆貴方の味方ですよ凱斗さん。」
桜庭の言葉に三人は同意し、凱斗に向かいもう一度頭を下げた。
そんな四人を見た凱斗は、ははっと小さな声を漏らす。
「甘いのは俺だけじゃなくて龍全体が、か。」




