05
「面白い人って言ったのに!嘘つき!凄く怖そうな人だったじゃん!!」
外に出ると懍が颯に文句を言う。
「お前らに怖がられすぎて拗ねてるんだよ。あと話し方が少しキツく感じるのかもしれないけど、アレがあの人の普通。なんなら少し優しいくらいだったよ。」
「んー、でも怖かったんだもん。キョウさんと同じような匂いがする。」
「そりゃそう。レイさんはキョウを知らない奴はいないとか言っていたけど、それはレイさんも同じなんだよ。」
颯はレイがいる方を眺めていた。
「颯さんはレイさんの下につくの?」
「ん?ああ、ずっとそのつもりでいたからな。俺はあの人がいいんだよ。」
「キョウさんより?」
「そう。俺はレイさんの方が合ってんの。」
颯は懍の方へと視線を戻すと、ニカッと笑ってみせる。
「どう違うのか分からないけど、俺とかーくん、それにアザミ達はキョウさんの方に行くことになるの?」
レイはともかくキョウの事もよく知らない懍からすれば、二人とも同じ匂いを放つ危険人物である。
颯がどうしてレイの方が良いとするのか、懍はまだ理解が出来なかった。
「レイさんの所にいたいって言えばあの人は受け入れてくれると思うよ。キョウは知らない。あの人の事は俺もそんなに詳しくないからな。」
「って言われてもかーくんはキョウさんと関わりがあるけど俺は正直無いしキョウさんもレイさんも知らないからなあ。」
「別にどっちにも付かずに自分で好きに生きるって選択肢もある。」
「うーん。出てからの事は何も考えてなかったや。」
「ま、これから時間はあるし答えが出るまでレイさんにお世話になるってのもいいんじゃないか?キョウが受け入れてくれるならキョウでもいいし。」
颯は、自由を取り戻しのびのびと過ごす仲間たちを見つめながら柔らかな声で話した。
「ねえ、どうして颯さんはキョウさんだけ呼び捨てなの?」
懍がずっと疑問に思っていたことを颯にぶつけてみると、颯は少し気まずそうな顔をした。
「あー、本人と会った時は流石にさん付けするけど、俺はどっちかって言うとあの人が苦手だからなあ。嫌いとかではなくて……怖いんだよな。じゃあ尚更呼び捨てにするなって話なんだけど、なんでだろう。影の反抗心ってやつかな?俺もよく分からないけど、特別な意味は無いよ。」
「苦手なの?」
懍の純粋な瞳に見つめられた颯はふいっと目を逸らし、小刻みに震える手が懍にバレないように話し始めた。
「なんでも屋のキョウは本当になんでもやる人だから、容赦ないんだよ。会えば会うほど、話を聞けば聞くほど、人を人として見ていないんだなって思うよ。
昔……龍に潜入する前に、レイさんと一緒にキョウの所に行ったことがあるんだ。
ちょうどその時、運悪くキョウの所の人間がヘマをしたとかで罰を受けてる最中で。
俺はあの時初めて生きた人間が火達磨になって苦しんでいる姿を見た。
俺が目を背けようとした時、人をというより、生ゴミを燃やしているだけなのに情けをかける必要があるのか?と聞きたそうな顔をしてこっちを見てきたキョウと目が合って以来、俺はあの人が苦手なんだよ。」
颯は当時のことを思い出したのか、顔は青ざめ、腕にぶわっと鳥肌を立てていた。
「生きたまま燃やす……流石に俺たちというか、かーくんですらやらないね。そっか、キョウさんはそれをする事に抵抗が無いんだね。
……颯さんも結構人の心踏み躙ったりしてきてそうだけどね。心酔していた老人とか。」
「痛いとこつくね。でも、もう分かったと思うけど、そんなの甘いと思える程にキョウは別格だよ。」
颯たちが話していると遠くの方でこちらを照らす小さな光が見え、その光はどんどん大きくなっていく。
その光の正体は車だとすぐに気付き、颯や他の人達は身構える。
「誰だ?龍か?」
颯は輝血と懍を自分の後ろへと隠す形で立ち、輝血の仲間達も颯の仲間達に守られる形になっていた。
車が近付くにつれて輝血と懍の心臓は大きく跳ねていた。
「お前ら何してんねん?」
緊張感が走る空気を壊したのはボロ屋から出てきたレイの一言だった。
「レイさん、誰かがこちらに向かって───」
颯が慌てて説明すると、レイはキョトンとした顔をする。
「あ?言ってなかったっけ?アレはキョウと赤城や。構えんでええ。」
「え?キョウ……さん?」
颯が間抜けな声で返事をすると、レイは口をぽかんと開けて首を傾げた。
「だから、キョウの所に行くんか?ってそいつらに聞いてたんやんけ。言わんかったっけ?ははっ、すまんすまん。」
レイはケタケタ笑うと車に向かって手をブンブンと振る。
車は輝血達が乗っていた車の近くに止まり、運転席から赤城が降りて来るとそのまま後部座席のドアを開け、中からキョウが顔を出す。
「キョウ~!」
レイは子供のようにキョウに向かって走り出すとそのまま飛び付いた。
「あぶねェなァ。」
キョウは少し鬱陶しそうにレイを引き剥がすとボロ屋に向かって歩き始める。
その後ろをピョンピョンとレイが付いていき、またその後ろを赤城がついて歩いた。
「お?」
キョウは輝血を見つけると立ち止まりニィと笑う。
「久しぶりだなァ?」
キョウの声を聞いた輝血の心臓は今日一番大きく跳ね上がった。
「お、お久しぶりです。」
「まさかお前らがあそこから出てくるとは思わなかったなァ。レイから話を聞いた時はビックリしたよ。」
「俺も出るとは思ってなかったです。」
「はっは、人生何があるか分かんねェなァ?俺はちょっと中で用事があるからよォ、終わったら少し話すかァ?」
輝血が目をキラキラとさせ「はい!」と大きな声で返事をすると、キョウはにこりと微笑みレイとそのままボロ屋の中へと入って行った。
「やっぱり輝血はキョウ……さんの所にいくのか?」
キョウとレイと赤城がボロ屋に入ったのを確認して颯が尋ねた。
「キョウさんが良いって言うならそうしたい。」
「会長は?もういいのか?」
「……分からない。でも今はキョウさんと話したいという気持ちがある。」
「かーくんがキョウさんの方に行くなら俺もそうしようかな!」
懍が輝血にくっつきながら言う。
「懍も一緒で、アザミと香もほかの皆も一緒なら俺は嬉しい。」
「私達はどっちにもつかないわよ。」
輝血がニコニコと話しているとアザミと香が間に割って入ってきた。
「私と香ちゃんは二人で雪の雫を復活させるの。これから人を増やすつもり。私達は雪の雫を手放すつもりは無いの。」
「そう。輝血達もカブトを続けるのかと思っていたけれど違うんだね?」
アザミと香は呆れたような、どこか寂しそうな目をして輝血を見つめた。
「カブトを続ける……全然考えてなかった。」
輝血が目をぱちぱちとさせながら言うとアザミと香はポカンと口を開いた。
「会長に連れて行かれて、仲間も失って、自分の中ではもうカブトは死んだと思ってしまっていた。……そうか、カブトをまたやるという選択肢もあるのか。」
「かーくんがカブトを復活させるって言うなら俺もそれは賛成だし、他の皆も賛成してくれると思うよ。ね?」
懍が仲間達に問い掛けると、仲間達は大きく頷く。
「カブトの復活……かあ。」
輝血が少し考え始めたその時、ボロ屋の中から怒鳴り声が聞こえ、外にいた者達は一斉にボロ屋の方へと意識が持っていかれた。




