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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
協力者
103/123

07

翌日から輝血と懍は行動に移そうと思ったが、それどころでは無いらしい。

朝から屋敷内が騒がしく、隊員達の顔は青ざめていた。

輝血と懍は隊員達が集まる広場へと向かい中を覗き込んだ。

そこには、疲れきった顔をした桜庭とその横で椅子に座り天井を見上げる凱斗の姿があった。

隊員達は下を向き静かに凱斗の言葉を待つ。

輝血と懍も広場内へ入り列に並んだ。

異様な空気が漂う室内は地獄のように感じた。

少し時間が経ち、凱斗の口からリーヴ地区での出来事を説明された。

そして、この中にカラフルなキャンディを食べた者はいないか?と問われ全員が首を横に振る。

それを見て安堵の表情を浮かべる凱斗。

念の為隊員全員が検査を受ける事となった。

そして、夜は記者会見が行われる事を伝えられた。

検査を受けた者から順に仕事へと戻る。

輝血と懍も検査を受け終え広場を出ると、出入口には昨日の隊員が立っていた。

「大丈夫だったか?」

隊員にそう聞かれた二人は「大丈夫。」と声を揃えた。

「そうか。なら良かった。」

隊員は周りを気にしつつゆっくりと歩き始め、輝血と懍はそれについて歩きだす。

「ねえ、今日の夜はどうかな?」

懍がそう聞くと、隊員は首を横に振った。

「え、どうして?」

「今日は俺も一緒に会見場まで行かなければならない。誰が何の気を起こすか分からないから会場全体を囲むんだとよ。」

あからさまに嫌そうな顔をする隊員を見て二人は苦笑いをした。

「それに昨日の今日だ。お前達の仲間がどうするのかまだ答えが出ていないやつもいるかもしれないだろう。」

「そうだね。」

「ま、早めに実行出来りゃそれが一番良いんだけどな。」

隊員と懍がヘラヘラと笑って話す姿を見ていた輝血は一人別のことを考えていた。

「上の空だな?どうした?やっぱりやめておきたいか?」

隊員が振り返りそう言うと、輝血は首を横に振る。

「じゃあどうしたんだよ?体調でも悪いか?」

「いや違う。……さっき会長が言っていたカラフルなキャンディ……キョウさんの所で見た事がある。」

輝血の声から伝わる不安。

「……そうか。で、それがどうしたんだよ?」

「もしかするとキョウさんも巻き込まれているんじゃないかと……。」

輝血が不安そうな顔でそう言うと、隊員は不思議そうな顔をした。

「どうしてそこまであの人を気にするのかは分からないが、大丈夫だよ。そもそもあの人は自分ではそういう物には手を出さない。与えるだけの人だよ。」

「与えるだけ……じゃあキョウさんがソレを人に与えていたって事?」

「それも無いなきっと。」

「どうして?」

隊員は、うーんと少し考える素振りを見せると、あまり自信はないような顔をして話し始めた。

「俺もそこまであの人について詳しいわけじゃないけど、そう簡単に信用していない人間から与えられた物をキョウが人に与えるわけないだろう。」

隊員は自信が無いようではあったが、輝血は隊員の言葉を聞いて納得した様子だ。

「それに、仮にキョウがそれを食って食屍鬼化したとしたら、キョウの周りの人間が大人しくしているはずがない。龍と違ってあの人達はキョウが絶対的存在で、全員が忠誠を誓っている。自分の命を懸けて龍に噛み付いてくるよ。」

隊員はそこまで話すと、立ち止まった。

「覚悟のある奴しか生き残れないし、覚悟のある奴しか人を守るなんて出来ないんだよ。あの人の所に集まるのは全員がキョウの為なら何でもする覚悟がある人間の集まり。それが死を意味するとしてもな。……裏では有名な話だ。」

隊員は二人にニコリと微笑む。

輝血と懍が微笑まれて驚いていると、二人は隊員に肩を叩かれた。

「という事で、お前達は大人しく屋敷で待ってるんだ。そんなに駄々を捏ねられても俺は連れて行けない。」

隊員の声色が明るくなり二人が困惑した顔をしていると、二人の後ろから声がした。

「いつからその二人と仲良くなったんだよ?」

スッと二人の視界に映りこんだのは総龍の隊員だった。

「いや別に仲良くなったとかじゃないよ。会見場の見張りに付いて行きたいって言うから、危険だから駄目だって話をしていただけ。」

裏の世界の人間だと思わせる目は瞬時に正義の味方とでも言わんばかりに輝いた瞳へと変貌し、明るく気さくなお兄さんの姿になった隊員に二人は呆気にとられた。

「へえ。……そんな話を持ちかけられるほどなら仲が良いと捉えられそうだけどな?」

怪しむ隊員に対して嫌悪感を抱いたような、二人を軽蔑しているかのような顔を向ける。

「やめろよ。俺はまだコイツらを完全に許したわけじゃない。」

「ま、(ソウ)は話しかけやすい雰囲気しているもんな。」

「だろ?」

「だろ?じゃねえよ。さっさと準備しに行くぞ。」

ケラケラと笑う颯と呆れた顔をする隊員。

「はいよ。じゃあな。ちゃんと屋敷内にいろよ。」

二人は輝血と懍に背を向けると楽しげに話しながら姿を消した。

「急に人格が変わったのかと思ったよ。」

懍がそう言うと輝血は笑った。

「こんな場所で話すことじゃなかったな。」

「そうだね。……今日は俺達が出来そうなことは無いね、かーくん。」

「ああ。部屋でどうするか考えよう。」

二人はすれ違う隊員達に怪しまれないようにたわいもない会話をしながら部屋へと向かった。

──────────────

夜、総龍の食堂のテレビでは会見の様子が流れていた。

隊員達は手を止め会長達の話を聞いていた。

頭を下げる会長や隊長達を見て、悔しそうな顔をする隊員も少なくはなかった。

輝血と懍と仲間達はそんな隊員達を見て、また申し訳ないという気持ちが増す。

だが、最初の頃に比べると、輝血達に冷たい言葉を放つ者や、嫌がらせをしてくる隊員はだいぶ減っていた。

それは、ここを出ると決めた輝血達にとっては少し心が傷む。

罵倒され、嫌がらせをされている方が此処から出やすいからだ。

自分勝手なのは分かっているが、今はその優しさが鋭く痛い。

会見中継が終わると、隊員達は静かに食堂を後にする。

輝血達も部屋に戻る準備をする。

各々思う事があるのだろう。

誰一人と無駄話をしようとはしなかった。

部屋に戻る途中、風や葉が擦れる音が耳に届く。

輝血は凱斗に呼び出されたあの日の事を思い出す。


総龍の会長を必ず殺してやる。

そう思っていたのが遠い昔のように感じた。

今はどうだろう?当時程の殺意があるのだろうか?

分からない。

酷く痛めつけられた。

だが、あの痛みももう思い出せない。

それ以上に、凱斗の優しい声や笑顔を思い出す。

今の自分に凱斗を殺すことが出来るのか?

きっと、出来ない。

でも、凱斗はいざとなれば自分の首を確実に斬りに来るだろう。

いざという時に実行出来るか出来ないか、この差は大きい。

実行出来る人間じゃなければ上にも登れず、人も守れないだろう。

自分も、いざという時に実行出来る人間にならなければならない。

どちらに付くにせよ。


輝血が色々と考え込んでいる間に部屋へと辿り着く。

今日は会長も颯も不在。

仲間達の中には悩んでいるような人はいなさそうだったが、今日実行することは出来ない。

輝血は一人布団を敷き横になる。

「かーくんもう寝るの?」

隣に座り仲間達と話していた懍にそう聞かれると、輝血は黙って頷く。

「疲れちゃったのかな。ゆっくり寝てね。おやすみ。」

懍はそう言うと少し声のボリュームを落として仲間達と再び話し始める。

輝血は目を瞑り、これからの事を少し考えた。

そして、気付けば夢の世界へと旅立っていた。

──────────────

数日後。

総龍屋敷には各龍の隊長が集められ緊急会議が行われていた。

輝血と懍は自分たちが出来る仕事をしながら凱斗の動きを探った。

「さすがに会議室の中までは見れないね。」

「そうだな。それに今日は桜庭さんもいる。会長に気付かれなくても桜庭さんに気付かれそうだ。」

二人は会議室付近で清掃をしているふりをしながらコソコソと話す。

すれ違う隊員達は二人に清掃お疲れ様と声をかけてくれ、特に不審に思われてはいなさそうだった。

今か今かと二人が凱斗達がいる部屋を気にしていると、その扉は開かれ中から凱斗と桜庭を除いた三人が出てきた。

二人は三人に向けて頭を下げたが、三人は少し青ざめた顔をしたままその場を通り過ぎて行った。

輝血と懍は三人が見えなくなり周りに人がいないことを確認して、凱斗と桜庭が残る部屋へと静かに近付いた。

扉が少し開いていたので輝血が耳を近付けると、中から話し声が聞こえた。

二人がキョウがいたあの街へ行く事を知った輝血は更に耳に集中させる。

「いつ行くのですか?今から向かいますか?」

桜庭はこちらに気が付いていないようだ。

「そうだな。早めがいいが今日と明日は予定が立て込んでいる。合間にというのも難しそうだ。」

「ならば明後日にしましょうか。私が朝お迎えにあがります。ちゃんと起きてくださいよ。」

「分かってるよ、大丈夫。もし寝ていたら起こしてくれ。」

「大丈夫じゃないじゃないですか。本当に貴方って人は……。」

輝血には眉間を抑える桜庭の姿が容易く想像できた。

そして、輝血は見張っていた懍の肩を静かに叩き二人は目を合わすとそっとその場を後にした。

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