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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
協力者
101/123

05

「で、どうだったよ?」

輝血と懍は背後からかけられた言葉に反応した。

「どうって?」

懍がツンとした態度で応えると隊員は笑った。

「お前達が知りたかった事は知れたのか?」

「……まあ、大体は知れたと思うよ。」

「そうか。じゃあこれからはどうするんだよ?」

「それはまだ分からない。とりあえずかーくんと話して先の事を決めようかなとは思っているけれど……。」

「その話し合い、俺も混ぜろよ。」

「え?」

輝血と懍は目を合わせる。

「はは、とにかく後で裏庭に来いよ。そうだな……30分後位にしようか。もうすぐ代わりが来るから早く上に行け。」

隊員は椅子に腰をかけると手を振った。

輝血と懍は言葉を返すことも出来ないままそれに従うしかなかった。

外に出て部屋に向かっている途中で一人の隊員とすれ違った。

あの隊員が交代する隊員なのだろう。

輝血と懍は一度部屋へと戻り壁に寄り掛かり座り込んだ。

「かーくん、裏庭に行くの?」

「そうだな。行った方がいいのかもな。」

「そうだよね。」

「第三者がいた方が話がまとまるかもしれないし、正直今は混乱状態だから、事情を知った人がいてくれると助かる。」

「同感。」

二人はそれ以上言葉を交わすことなくただ黙って時が経つのを待った。

そして、約束の時間となり二人は裏庭へと向かった。

──────────────

「よお。」

裏庭へ行くとベンチに座る隊員がこちらに向かい手をあげた。

「この時間帯のこの場所は人通りも少ないから安心しろよ。こっちに来て座れ。」

隊員は自分の向かいにあるベンチを指差しニコリと笑い、輝血と懍はそれに従い腰を下ろす。

「で、これからお前達はどうするか……についてだが、その前に一つ聞いてもいいか?」

隊員は輝血を見つめた。

「ああ、いいよ。」

輝血がそう応えると隊員は少し前のめりになり小声で話す。

「お前は会長の元に残りたいのか、逃げたいのかどっちだ?」

「……分からない。」

輝血の答えに隊員はハァと大きくため息をついた。

「そうか、その程度か。」

隊員は大きく伸びをして飲みかけの缶ジュースを手に取りグイッと飲み干した。

「その程度って……かーくんは会長に助けられたしそんな簡単には決められるわけないでしょ。」

懍の声からは怒りが伝わる。

だが、隊員はそれにさえ呆れた表情を見せた。

「最初は殺すつもりだったんだろ?何染められてんだよ。」

「染められているってどういう意味?」

「そのままの意味だよ。俺達は会長とは真逆の立ち位置にいる。ちょっとやそっとの事じゃ恨みも消えないし、ましてやついて行こうなんて思わねえよ。」

隊員の声や表情からは呆れしか伝わらない。

「でもかーくんは…」

「かーくんかーくんってうるさいな。輝血無しで考えるならお前はどうしたいんだ?」

「俺は……。」

懍は下を向いた。

輝血抜きでの先の事なんて考えもしなかったし、そんな事を考える必要はないと思っていたからだ。

「仮にお前が元いた世界に戻りたい、輝血は残るという選択をしても誰も怒りはしないし、別にそれでいいだろ。この先敵になろうが自分が選んだ道なら後悔も無いし……それにお前達はただ同じグループに居たってだけの仮の家族だろ。」

「それは違う!俺はかーくんの事を本当の家族だと思って───」

懍は食い気味に隊員に返すが、隊員は冷静であり、そして自分達が元いた世界でよく見たあの目で睨み付けられ思わず言葉を詰まらせた。

「本当の家族なら、大切に思うならそれこそ自分の気持ち位は自分で話をさせろよ。で、お前も自分の気持ちを素直に話せ。」

隊員は首を傾げて固まる懍をジッと見つめた。

「で、お前の気持ちはどうなの?」

懍は一呼吸置いて恐る恐る口を開いた。

「俺は……帰りたい。」

懍の声は震えていた。隊員も勿論それに気付いているが、それでも冷たく、裏の世界の人間だと実感させる瞳で見続けた。

「輝血が残るって言ったら?」

隊員の質問に懍はまた言葉を詰まらせたが、早くしろと言わんばかりの隊員の瞳に耐え切れず素直に自分の気持ちを話した。

「一緒に帰りたいけど、かーくんが望むならここに残ってもいい。」

懸命に話す懍に対してまた呆れた顔をする隊員。

「輝血が一緒じゃなきゃ嫌だって?依存するにも程があるだろ。」

「依存なんかじゃ──」

依存という言葉に反応した懍が隊員を睨み付けるが、隊員が怯む様子はなかった。

「依存だよ。お前は、誰かに依存しなきゃ生きていけない寂しがり屋。それに自分を求めてもらいたい。だからお前は女専門でやってたんじゃないのか?落とせば一生お前に依存してくれるもんな?」

「……。」

懍が下を向くと隊員は全てを知っているかのような顔をして笑った。

「俺も一応お前達の兄弟。それなりに情報は仕入れている。……輝血の事も知っているし、アザミや香の事も知っている。ちなみにアイツらは一足先に俺達に気付いてもう動き始めているよ。」

「アザミ達が?」

隊員は輝血に向けて頷いた。

「そりゃ味方は赤龍と青龍にもいるからな。俺達は龍同士ならすぐに連絡も取り合えるし、周りも特に変だとは思わない。」

「変に思われないのか?男と女で分かれているのに?」

「だからだよ。総龍、黒龍、白龍はほぼ男で、赤龍と青龍は女。龍の仲間内で出会いを求めるやつも少なくないし、龍同士で結婚なんてのもあるんだよ。会長の両親も元龍の隊員だしな。」

「そう……なのか。じゃああんた経由でアザミ達と連絡を取り合えるのか?」

「頻繁には無理だけど出来るよ。ただし、女二人はここから抜け出す気でいる。説得には応じないと思うぞ。」

輝血が黙っていると隊員は「あ!」と声を上げベンチの上に置いている缶ジュース二つを指さした。

「お前らの分も買ってたんだった。遠慮せず飲めよ。」

先程まで見せていた期待外れとでも言いたげな呆れた表情は瞬時ににこやかになり、輝血と懍は戸惑いつつも缶ジュースを手に取り隊員にお礼を言った。

「で、輝血。お前がどうするか決めないとコイツまで何も決められなくなるぞ?」

輝血はジュースを飲むのをやめて隊員を真っ直ぐ見る。

「大橋には会長についた方がいいと言われた。キョウさんは良くないらしい。」

「あー……で?会長の所に残ろうと思ったのか?」

「それでも俺は分からない。最初は恨んでいたし今も水仙の最期のあの光景が目に焼き付いて離れない。でも俺を助けてくれたし、俺が慕っていた人とも会長は知り合いで……。」

徐々に声が小さくなっていく輝血に対して隊員はにこりと優しく微笑み、小さな子を諭すかのような声で話しかける。

「でもキョウさんの事も頭から離れないから決められない?」

「そう。何故なのかは分からない。」

隊員は「なるほど……」と小さく呟き少しの間何かを考え込んでいた。

輝血が自分の中でまとまりが付かず、あちらこちらへ動き回る様々な考えと感情に苦しみ目を閉じていると、ポンと肩を叩かれた。

「その時点でお前の心はキョウさんに向いているんじゃないか?それにお前は会長が大事……と言うよりは、お前が慕っていた人が大事だからもう裏切りたくないとかそういう思いがあるだけで、実際会長の事は言い訳に使っているように思えたけどな。」

「言い訳…?」

輝血の頭上に浮かぶクエスチョンマークが一つ増えた。

「そう。ここに残る為の言い訳。……会長が恐ろしい人間だと知らない時のお前は会長を殺る気だった。だが、会長の恐ろしさを知った途端戦意喪失。お前は強い人間に刃向かえない。自分より弱い人間にしか吠えられない野良犬。」

「ちょっと!言い過ぎでしょ!」

俯いていた懍が顔を上げ声を荒らげると、輝血がそれを制止する。

「懍。」

隊員に今にも飛びかかろうとする懍を制する輝血を見て隊員は笑う。

「会長が自分より弱かったら、そもそもお前は助けられてないしここに残る選択肢も無かっただろ?恐怖心で支配されてるだけだよ。DVと同じ。最初は恐怖で後から優しさ。それにまんまとハマったお前は抜け出せずにもがいている最中。……俺が引っ張りあげてやろうか?」

ニヤリと笑う隊員のその顔は、昔よく見た悪巧みをする人間の顔つきと同じだった。

「引っ張りあげるって?」

「俺がここから脱出させてやる。ま、輝血が本気で残りたいって言うなら置いて行くけど。懍はどうする?」

隊員が懍の方へと視線をやると、落ち着きを取り戻した懍が不安そうな顔を向けた。

「そんな簡単に脱出なんて……出来るわけないよ。」

「出来るぞ。俺は仮にも龍の隊員。見回りとか言って車で外に出る事は容易い。特に会長が不在の時ならな。」

「でも俺やかーくんを連れてなんて」

「だから、会長が不在の時なら出来るよ。会長が不在という事は隊員達の気も多少は緩む。そういう時の監視の目は甘いからな。」

「他の仲間達も…?」

懍が不安そうな顔のまま問いかけると、隊員は輝血に向けた時と同じように懍に優しく微笑みかけた。

「望むなら一緒に行けるよ。その為には早めに日時を決めておきたいんだよ。」

「……どうする?かーくん。」

輝血は考えがまとまらないままでいた。

そんな輝血を見て隊員は大きく息を吐きだした。

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