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食屍鬼 -蜘蛛の糸-  作者: 藤岡
協力者
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04

「白龍隊員の皆さんは前隊長への思いが強すぎたせいで間違えた判断をした。そして憎むべき相手の私に協力するように頼んできた。そこに龍に潜んでいた水仙の子供達も合流し、龍の中では私や白龍隊員達が、外では水仙と外にいる子供達が食屍鬼を復活させるべく動いていたのです。と言っても私はここに連れてこられた時は監視が厳しくて中々動けなかったんですけどね。」

大橋はヘラッと笑った。

「どうやってここまで進めたんだ?」

輝血の問い掛けに大橋は時折咳き込みながら話し始めた。

「まずは凱斗くん、そして他の龍の方達に信用してもらえるように大人しくしました。総龍屋敷にいるので、総龍の人間からの信用を取り戻せばそれで良いかと思いましたが、甘かったですねえ。凱斗くんが会長になり各龍の隊長、特に黒龍の桜庭さんが頻繁にここへ顔を出しにくるものですから、桜庭さんからも怪しまれないようにしていましたねえ。」

大橋は長い苦労を思い出し、しみじみとした表情をしていたが、二人からすればそんな事はどうでもよかった。

ただ、糸がどう張り巡らさせているのかさえ知ることが出来れば。

「あの人はそんなに簡単に信用なんてしてくれなさそうだけど……二年もあれば信用はしてもらえるのか。」

輝血は鬼の血相で叱り付ける桜庭の顔を思い出していた。

「いえ。桜庭さんは今も私の事なんて信用していませんよ。ちゃんと言えば凱斗くんだって完全に信用している訳では無い。ただ、信用しようと努力してくれているだけです。それを裏切ってしまったのですが。」

ヘラヘラと笑う大橋に対して二人は呆れ、そして苛立ちを感じていた。

「あんた本当に最低だな。」

輝血と懍は一歩後ろに下がり大橋から距離を取った。

「へっへへ、そうですね。でも本当に凱斗くんに忠誠を誓ったんですよ。彼の為に頑張ろうと……そう思ったのは嘘では無いです。でもその気持ち以上に食屍鬼への愛が大きかった。」

輝血は大橋をまっすぐ見つめ口を開いた。

「あんたに食屍鬼復活を頼んだ白龍の隊員は今もまだ龍にいるのか?」

「ええ、いますよ。ここに案内してくれたあの人と同様に今も龍の一員として白龍の屋敷にいます。」

「柏木みたいに抜けたりはしないのか。……俺達の兄弟になる水仙の子供だという彼達はどうやって龍の隊員になったんだ?」

龍の屋敷に入り込むことが簡単では無いと分かった今、輝血は先程知り合った隊員同様他の隊員がどのようにして潜入したのか疑問でしかなかったのだ。

「龍の隊員になるのはそこまで難しいことでは無いんですよ。隊員が多ければ多いほど各隊員の負担も減り、悪者を捕まえやすいですからね。少しばかり演技をすれば入れちゃうんです。ただし、入ってからすぐに辞める人も多い。龍の仕事は国民が想像しているよりも過酷ですからね。」

「演技って?」

「食屍鬼が存在した時は、家族が食屍鬼に殺られたから自分の手で食屍鬼を倒したいだとか、復讐目的で来る方が多かったそうで。食屍鬼が居なくなってからも、正義感の強い方や龍に憧れを持つ方がよく来るそうです。そういう方たちになりきって入隊試験に受かれば龍の隊員になれます。」

「入隊試験があるのか。」

ぼそりと呟く輝血を見て大橋はまたヘラヘラとした表情を見せる。

「そりゃそうですよ。誰でも入れていたら秩序も何も守られない不法地帯になってしまいますし、それなりの体力や身体能力が無いといざという時に犯人を取り逃す恐れがありますからねえ。」

「そう……だよな。」

「輝血くん達は体力も身体能力もクリアしたという事ですよ。

他に聞きたいことはありますか?そろそろ時間だと思いますが……。」

大橋は壁にかけられた汚れた時計を見る。

「これから先、食屍鬼が復活する可能性はあるのか?」

輝血の問い掛けに大橋は一度目を見開いたかと思えばすぐにその目はしおらしく伏せ、絞り出した声はあまりにも力無く、この世に絶望し全てを放棄した人間のように思えるほどに大橋の顔からは生気が失われていった。

「それはほぼ無いに等しいでしょう。凱斗くんがまた私を生かすという判断をすれば可能性は高くなりますが、その判断は取らないでしょうからね。他の研究者たちは抑制剤の作り方等は把握していても復活させる術は知らないと思いますし、そう簡単には復活させることが出来ません。だから、私と同じように研究している者が現れない限りはもう……。」

大橋は目から涙を流す。

「向こうの世界では会いたいですねえ……。」

涙を流し鼻をすする大橋を見て懍は少し引いていた。

「……どうして俺達を食屍鬼にしようと思った?水仙が頼んだのか?」

輝血は最後に一番知りたくて、一番知りたくない疑問をぶつけた。

大凡の答えは検討がついている。

だけど、どこか期待もしているのだ。

自分が考える答えとは全く別の答えが返ってくることを。

「……そうですね。貴方達の体力や身体能力は会長には及ばないし、各龍の隊長にも及ばない。ですが下級中級位なら殺れるという見込みでした。水仙は貴方達に総龍の隊員を殺らせようと考えていました。私はそれに従ったまで。」

輝血は自分の心が粉々になったのを理解した。

淡い期待は儚く散り、寄せた愛は一方的であったのだと、もう目を背けることすら出来ないほどに輝血の心に押し付けられたのだ。

その力には到底敵わなく、顔を思い出そうとも霧に包まれ曖昧な形でしか判断がつかないほどに輝血の中から水仙という名の父の存在が薄れていった。

「……そうか。その為に育てられていたのか。」

諦めがついたような声で話す輝血に気付いた懍はそっと輝血の背に触れると、微かに伝わる震えが懍の心を揺さぶった。

「そうかもしれませんねえ。」

「じゃあ、協力者は何人いてどこにいるんだ?」

輝血の弱々しい声を気に止める様子もなく大橋はまた淡々と返答をする。

「それは分かりません。人数も居場所も知らされていません。私が関わる方の事しか。それに名前も知らないです。」

「……何も分からないのか?」

「ええ。でも今は食屍鬼復活を望む者は少ないはずです。彼らは自分の都合の良い事にしか賛同しないらしく、自分に大金が入ると知って動いていただけです。父が死に復活も見込めないとなれば彼らに大金が入る可能性もほぼ無くなりました。彼らの目的はそこなので、今はもう他の事でもしているでしょう。」

「じゃあここに案内してくれた人は?」

「あの方ももう復活は望んでいないんじゃないでしょうか?本人に聞くのが早いかと思いますよ。」

顔も名前も知らぬ血の繋がりのない家族は、自分達が父に対して抱いていた愛情は持ち合わせてはおらず、まるで単なる仕事仲間のような関係性であることを知った輝血は更なるショックを受けた。

自分達と同じように父の死を心から悲しみ、そして奪った相手を憎しんでいると……そう勝手に思っていた。

だけど現実はそうではなかった。

金だけの関係であり、それは家族と呼ぶには相応しくはないだろう。

この家族達は自分達とは少し違う。

自分達に足りない物を持っている。

自分達に足りないもの、それは……徹底した冷徹さと割り切る心。

自分達……いや、少なくとも自分だけは持ち合わせていない心。

すぐに揺らいでしまう弱い心。

だから……自分は父からこんな育て方をされたのだろうか。

輝血は息が詰まりそうだった。

「そ、うだな…。」

輝血の目から失われていく光に大橋は気付いた。

「他にはもうないですか?」

「キョウさんは本当に関係ないのか?」

大橋は眉をピクリと動かし、変わらずヘラヘラとした表情を向ける。

「へっへへ、キョウさんが関わっていたら今私はここにいませんよ。もっとしっかり守ってくれたはずです。関係ないですよ。」

「そうか。」

どこか安心したような顔をする輝血。

そんな輝血を見た大橋はニタリと笑みを浮かべ、目を光らせた。

「輝血くん。」

輝血が「ん?」と大橋を見つめると大橋は妖しくニコリと笑った。

「キョウさんは君が思うより恐ろしい人だ。そして、凱斗くんも恐ろしい人だ。……どちらを選んだとしてもきっと過酷な未来しか待っていない。が、その過酷の種類は全く違う。」

突然話題が変わったことに輝血は戸惑い、懍は不思議そうに大橋の顔を見ていた。

「なんだよ?どういう意味だ?」

「凱斗くん、この龍を選べばこの先もキミの過去の事をとやかく言う者にチクチクと刺されるだろう。キョウさんを選べばまた昔と同じ世界へ戻ることになる。それもキミがいた所よりももっと恐ろしい世界へ。どちらかと言えば凱斗くんを選ぶ事を私はオススメしますねえ。」

「急になんだよ……。」

輝血は大橋に見透かされているような気がして不快感を覚えた。

「へっへへ、迷っていそうな顔をしていたのでね。結局は自分で決める事なのでおじさんの戯言だと思ってもらって良いですが。」

「……。」

輝血が少し考え始めた時ドアが開く音がした。

「時間だ。外に出て急いで上に戻れ。」

輝血と懍は大橋に軽く頭を下げ慌てて部屋を出た。

「……全てを話したつもりです。」

扉が閉まる寸前、大橋が隊員に言葉を投げかける。

「そうか。もう俺の知ったこっちゃない。お前ももう終わりだよ。お疲れ様。」

隊員は扉を閉めると輝血と懍の後を追う。

大橋は暗い部屋の中地面を見つめた。

「食屍鬼がいない平和な世界。それを望む凱斗くんの夢は叶ったも同然。……それで?次は彼達を救う事がキミが望む事ですか?……へっへへ、凱斗くん、私はもう未来が見えました。キミは全てを叶えることは出来ませんよ。へっへへ……。」

椅子をカタカタと揺らし不気味に笑う。

「貴方が理想とする彼は、貴方が望む幼き頃の彼は、もういないのですからね、へっへへ、へへへ。」

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