04
「総龍屋敷へ行くのは不可能だ。」
ボソリと呟く柏木の言葉は輝血と懍の耳へと届く。
輝血は眉間に皺を寄せ柏木の隣にしゃがみこみ顔を覗き込む。
「不可能だと?どうしてお前がそんな事分かんだよ?」
柏木は輝血から目を逸らさずに答えた。
「龍は変わった。食屍鬼の事が終わったあと、何人もの隊員達が調子に乗り、会長に首を落とされている。」
「は?何それ。」
「食屍鬼と俺達人間では力の差がある。勿論、食屍鬼の方が上だ。それを相手にした一部の隊員は人間に対してなめてかかるようになった。それで命を落とした隊員もいる。」
「ははっ、馬鹿じゃん。自業自得じゃん。」
「でも、そんな隊員に命を落とされた人間も少なくは無い。食屍鬼と比べると本当に俺達は弱いんだよ。剣術を身に付け、訓練をし続けた隊員達の動きは中途半端な人間では太刀打ちできない。だから龍に目を付けられたら終わり。誰も立ち向かおうともしない。」
「ふーん。でもさー、どうして会長が隊員の首を落とすわけ?意味わかんねーよ。」
「隊員の首を使って他の隊員への注意喚起だよ。」
「は?頭おかしいんじゃないのか。」
「会長は優しくも恐ろしい人。そもそも調子に乗って人間相手に好き勝手していた奴らは会長の事を認めたくない奴らだった。だが会長本人に逆らえば自分の命が無いこともわかっていた。八つ当たりで人を殺したんだ。」
輝血は頭を抱えながら煙草を取り出し咥えた。
「総龍の内情は知らねぇけど、それでなんで屋敷に行く事が不可能なわけ?」
輝血はその場に胡座をかき煙草に火をつけた。
「屋敷周辺の見回りが強化されたからだ。……首を落とされたのは白龍の隊員だ。白龍の隊員は会長を良く思わない奴が多くいる。白龍隊員が八つ当たりで人間狩りをしている事は直ぐに会長へ伝わった。自分を憎み弱き者を虐める奴は龍には要らない。憎いなら会長の前に来て剣を抜け。相手をしてやる。最初はそう言っていたんだが、それでも自分ではなく俺達みたいな奴ばかりに八つ当たりを繰り返す隊員達に会長も黙ってはいられなくなった。」
輝血は煙を吐き出しながら柏木の言葉を聞いた。
「そしてある日の夜、総龍屋敷にて罰が下された。許しを乞う隊員達に聞く耳を持たず会長は隊員達へ剣を向けた。黒く輝くその剣は一瞬にして赤く染まり、銀色の髪から覗くその眼は暗い闇に覆われ光を映さない。」
「剣を使って仲間を…?そいつ本当に龍の人間か?俺達側じゃねーの。」
柏木は寂しそうな表情を浮かべた。
「会長は食屍鬼討伐において先頭に立つ人だった。誰よりも苦しみ、誰よりも心を破壊された人。この件に関しては、隊員に殺された人間がその場で悪事を働いたわけでもなく、ただただ隊員の視界に入って狙われ殺された事から警察は悪事を働いた者への罰として承認し、会長は罪に問われなかった。」
「俺はその警察と龍の関係も気に入らねぇんだよ。」
「俺達は皆気に入らない。だが、龍は警察や国からすれば特別な存在。龍が居なけりゃこの国は今以上に荒んでいただろう。龍という存在はこの国において最悪最強の盾なんだよ」
輝血は煙を吐き出しながら空を見上げる。
「で?今俺の仲間はその頭がイカれた会長がいる屋敷に居るんだろ?尚更行かなきゃならねぇ。」
「辿り着けないんだよ。各龍の屋敷は全て龍が所有する山の上に構える。もちろん総龍屋敷も所有する山の上にある。ただ屋敷までの道中に関門がある。そこを突破することが先ず不可能だ。」
輝血は煙草を投げ捨てるとジトリと柏木を見る。
「なぁ。」
「な、なんだ?」
柏木は輝血の目に怯え目を逸らす。
「お前はどうして龍についてそこまで詳しいんだ?会長が隊員の首を、とかどうせ世間に公表されていないだろ。なんでお前が知ってるんだよ?」
輝血の問い掛けを聞いた柏木はゆっくりと視線を輝血に戻す。
「俺、元白龍隊員なんだ。」
柏木の言葉を聞いた輝血と懍はキョトンとした表情を見せた。
柏木は気まずそうな表情を浮かべながら輝血を見ると、輝血はニタリと笑う。
「だから内情に詳しいのか。じゃあ尚更お父さんの所に連れて行かないといけない。なぁ?懍。」
「シシッそうだね。お父さんも喜ぶよ。」
二人はそう言うと柏木の前へと座り直す。
「お前が知っている龍の情報を全部俺達に話すならここにいる弱虫達の事は今回だけは見逃してやる。今回だけ、な。」
「俺達は情報収集する為に来たから、もし拒否をしても無理矢理にでも吐かせるんだけどね。」
二人は柏木の目をジッと覗き込む。
「返事は?」
柏木は輝血と懍の顔を交互に見ると、首を縦に振った
。
「いい子だ。じゃ、車に乗ろっか?お父さんの所に行こう。」
輝血はそう言うと立ち上がり車へと向かい歩き出し、それに続いて懍が立ち上がり輝血の後を追う。
「あ、あの!!」
柏木が大きな声で叫ぶと二人は足を止め振り返る。
「ん?何してんだお前……あっ。」
「かーくんが足折っちゃったんだった。」
「体這わせてこればいいだろ。」
「腕も折ってたよね。」
輝血は雑に頭を掻き柏木の元へと向かう。
「拠点に着いたらまず医者の所に連れて行ってやるからそれまで多少痛くても我慢しろ。喚くなよ。」
輝血はしゃがみこみ柏木の腹へ自分の肩をあて腰に手を回すと立ち上がる。
「重てぇなお前。」
輝血は柏木を担ぎ立ち尽くす男達に笑顔を見せた。
「お前らアンフェイスフルだっけ?それは今日で解散。弱虫同士身を寄せ合って頑張って生きな。次俺達と会った時はもう少しマシな姿を見せてくれよな。」
輝血はそう言うと男達に背を向け空いている方の手をヒラヒラとさせた。




