退職後も鬼電してくるブラック企業の元上司の倒し方
――境界線は、冷たさじゃなくて誠実さだった――
今日は、怒鳴りたくなるほどの出来事が起きたわけじゃない。
でも、静かに胸に引っかかる、嫌な違和感があった。
いや、静かにというのは言葉を選びすぎている。
少し前なら吐き気を催すくらいの胸と胃の針レベルだ。
ウインターアーク開始前、俺はブラック企業にいた。
年俸制=成果主義という大義名分のブラック企業は、
社長が求める根拠の無い目標を押し付けられる。
根拠がない、というのは簡単に言うと
“5億円の売り上げが欲しいから、
7億円を今年の目標にしよう”
こんなとんでもない理論を社長が言う物だから、
当然、中間管理職もめちゃくちゃだ。
例えばある部長は
“自分と社長が納得出来る年間計画書を作れ”と言い、
またある別の部長は
“この計画を必ず実行出来るように考えろ”と、
自分が作った明らかに無理な計画書を部下におしつける。
さらに私は最悪な上司にぶつかった。
自分の考えが絶対正しく、部下の考えはまず否定から
入るという、何かのコンプレックスの塊のような人。
さらに、退職直前には「リード育成」をしようと
していたのか、常に「俺の頭の中にある答えに辿り着け。この考えにたどり着かないのはお前が本気で考えてないからだ」というヤバい状態になっていた。
自分の意見を相手に正しいと思い込ませ、
相手の意見は全て否定する。
そして部下に無理難題を押し付け、押し付けられた
部下は必死に働く。成果が出たら勿論上司が
もしくは、それらと戦わずに自分のスキルが
通用する仕事だけを上手に
これが、ブラック企業の体質を
メンタルウインターアーク
36日目
前の会社の同僚から、一本の留守電。
「〇〇商事さんの件で聞きたいことがあるから、電話くれ」
それだけ。
……いや、待て。
俺はもう、その会社の人間じゃない。
給料ももらっていないし、上下関係も終わっている。
それなのに、「電話くれ」。
その言葉が、やけに腹に刺さった。
正直に言えば、頭の中には荒れた言葉が渦巻いた。
「誰の立場で言ってんだ」
「頼む側だろ」
「こっちは協力“してやる”義務なんてない」
でも、今回はそこで止まった。
怒りを吐き出す代わりに、構造を考えた。
俺が本当に大事にしたいのは誰だ?
前の会社じゃない。
コーウン流通さんだ。
そして、今の業務委託先――□□さんとの信頼関係だ。
だったら、やるべきことは一つしかない。
感情で断るんじゃない。
下手に出て主導権を渡すんでもない。
正しいルートを示すこと。
俺は、短い文章を打った。
> 現在の業務委託の関係上、
直接のご相談は□□経由でお願いしています。
中島さん経由で内容を共有いただければ、
必要に応じて協力できるか確認しますので、
まずはメールでご連絡いただけると助かります。
送信ボタンを押した瞬間、
胸の奥が、すっと軽くなった。
これだ。
誰かを突き放したわけじゃない。
でも、勝手に踏み込ませもしない。
「嫌だからやらない」ではなく、
「この形なら、ちゃんとやる」。
境界線って、冷たい拒絶だと思っていた。
でも違った。
これは、誠実さだった。
もし中島さんから正式に話が来たら、
その時は全力で動けばいい。
それは義理でも我慢でもなく、
自分が選んだ協力になる。
そう思えた時、
ようやく分かった。
大人の対応って、
我慢でも、迎合でも、戦いでもない。
自分の立ち位置を、静かに決めること。
今日、俺はそれを一つ覚えた。
ウインターアークは、まだ続く。
でももう、闇雲に自分を削る旅じゃない。
ちゃんと、道を選びながら進めている。
――これは、確かな前進だ。




