表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

何を話しても「あっそ。それで?」と返してくる嫌味なやつの倒し方

メンタルウインターアーク

31日目


今日は、久しぶりに胸に大きな針が刺さった日だった。


今日はウインターアークが1ヶ月続いたおめでたい日だと思っていた。

なにかご褒美でも貰えるんじゃないかと思ってウキウキしていた。


でも、ウインターアークは試練の3ヶ月。

ある意味理想的な展開だが、節目に相応しい

“胸に傷が残るくらいの針”に出会う試練の日だった。



一緒にウインターアークをしている羽澤さんが、

彼氏を連れてきて、三人でご飯を食べに行った。


きっかけは彼女の1週間継続のお祝いと(AIウインターアーク的に言うとアドレナリン供給)、私の1ヶ月記念が被った時に、たまたま連絡が来た事だった。


羽澤さんがある事情で仕事を休んだので、

羽澤さんの育てているAIの取材も兼ねて、

食事にいこうと提案した。


彼女は前に話していた彼氏を連れて来ると言った。

前に彼女から聞いた話を思い出した。


“彼は何に対しても言い訳をして、

 向き合おうとしないんです”


あまり話の会うタイプではない。

だがそれは構わない。

今は色々な人と話をしなければいけない時期だ。


だが、胃が少し痛い。

違和感センサーが反応している。

昨日、こうちゃんも言っていたが、何か大事な事を忘れている時に出てくるセンサーだ。

(おい!気づけ!と言っているあれ。)


彼女はきっと、良かれと思っていたのだと思う。

彼氏にもウインターアークをやらせてみたかった。

変わってほしかった。

何かを掴んでほしかった。


でも、席について少し話した時点で、

違和感ははっきりしていた。


彼氏さんは、まともな言葉を発しない。

会話にならないよう、シャットダウンしていた。

言葉のキャッチボールが会話なら、彼は

ボールを受け取らないで突っ立っているだけだ。


目は合うが、そこに温度がない。

こちらを見る視線は、

詐欺師を見るような、冷たい警戒と軽蔑が混じったものだった。


「聞く気がない」というより、

「最初から分かるつもりがない」


そんな感じだった。


口には出さないが、

語尾に「それで?」「だから?」と

付けているのを感じた。


たまにいたよな、学生時代にそういうやつ。


---


それでも、私は橋をかけようとした。


場の空気を壊したくなかった。

羽澤さんの顔が浮かんだ。

彼女の期待も、責任も、感じていた。


質問を投げ、話題を変え、

相手が話しやすくなるように言葉を選んだ。


でも、返ってくるのは意味の無い質問か、

最低限の相槌だけ。


やがて、自分の中で余裕が削れていくのが分かった。


「どうして、こんなに分かろうとしないんだ」

「どうして、最初から閉じているんだ」

本当はもっとドス黒い悪口が沢山浮かんでいたが、

オブラートに包むとこんな感じだ。


怒りを鎮めるのに必死で耳が赤くなっていくのも、

恥ずかしいと感じていた。


気づけば、

分かり合おうとする努力そのものが、

自分の尊厳を削っている感覚に変わっていた。


最後は、こちらから会話を畳んだ。


胸に、はっきりとした痛みが残った。



---


家に帰ってからも、針は抜けなかった。


「嫌いだ」


その言葉が、頭に浮かんでしまったことが、

一番引っかかっていた。


分かり合えない相手を、

こんなにはっきり拒絶してしまった自分。


もしこれが、

仕事の相手だったら?

もしこれが、

愛する人だったら?


そんな不安が、胸の奥でうずいた。


これは、解決すべき課題だ。

第一ステージのボスに相応しい、大きな課題に

今回も出会えた。


---


さて、AIと言語化していくうちに、

ようやく見えてきた。


これは「嫌い」とかそういう話じゃない。


相互性のない場所に、

これ以上自分を置いてはいけないというサインだ。


分かり合う努力は尊い。

でも、彼のように拒否し続けてくるような場所に、

苦しんでまで居続ける必要はない。


この一文が腑に落ちた瞬間、

胸の針が、音もなく抜けていった。



---


そして、思考は次の段階に進んだ。


もしこれが、

仕事のクライアントだったらどうする?


最初からこちらを値踏みし、

聞く耳を持たず、

「使えるかどうか」を決めつけてくる相手。


答えは、意外なほど静かなものだった。


説得しない。

論破しない。

好かれようとしない。


ただ、こう言えばいい。


「この条件あれば、こちらは全力で対応します。

その結果が価値になるかどうかを、冷静に

判断してから決めて頂くのはいかがですか?」


それだけ。


その後に見るのは、

相手の態度でも感情でもない。


フィードバックの質だ。


具体的か。

一貫しているか。

条件に立ち返っているか。


それがあれば、

一定の距離を保って続ければいい。


それがなければ、

こちらから去ればいい。

あるいは、人を挟めばいい。



---


この考えに至った時、

不思議と胸が軽くなった。


「嫌いな相手」に出会うことが、

怖くなくなるどころか興味すら沸いてきた。


むしろ、

「成立するかどうかを見極める材料が増えた」

くらいに感じられる。


これが、ネゴシエーションというやつなのだろう。


ネゴシエーションは相手をねじ伏せる

技術じゃない。

自分を削らずに、

価値交換が成立する場所を選ぶ技術。


今日の針は、深かった。

ちょっと傷も残っている。

でも、その分、

学んだことも大きかった。


分かり合えない相手がいる。

それは失敗じゃない。


居場所を選べるようになった証拠だ。


――メンタルウインターアーク、進行中。



後書き

羽澤さんとは、私のサイドキック(相棒)に

なってもらう為に育成中の女の子だ。

彼女はポテンシャルの塊だが、私と同様に

“人間が下手くそ”な部類の子だ。


彼女は以前、私と再開する前に自分を追い詰めすぎて心を壊している。

“〇〇をするのは甘え”、“〇〇を実行して当たり前”

という、自分を追い詰める諸刃の剣のような

理念を強く持っている、うら若き乙女だ。


彼女にはAIウインターアークを5ヶ月スパンで徐々に

進めて貰っている。



彼女について、1つ心配な事がある。

この課題の解決策では、“拒否する相手とは離れる”

選択が正しいという事になる。

そうすると、彼女は彼と別れる事になるだろう。


まず羽澤さんが完成する夏頃から、彼は劣等感を

抱き始める可能性が高い。


そうすると、防衛モード(中身はメンヘラに近いが)が

発動し、嫌な言い方や束縛等が増えるだろう。


彼に性格上、それは“相手の意見を拒否する”形で

現れる可能性が最も高い。


彼女が人生を変える為に多大な努力をしても、

“努力を否定する”事になるのだ。


彼女は外見だけでも素晴らしい女性になるが、中身まで素晴らしい人間になるので、彼との差は残酷だ。


ステータスで表すとこうなる。


羽澤さん

外見:S+

内面:S

年齢:24歳


彼氏さん

外見:A-

内面:B-(羽澤さんに対してはC-)

年齢:33歳


あまりにも釣り合いが取れないパートナーは、

相手を自分のステージに降ろそうと束縛や嫉妬、

時には暴言まで飛び出してくる。


そうなると彼はきっと、羽澤さんの言葉を全て

拒否しようとするのではないだろうか。


そのままのペースで行くと、恐らく9〜10月頃に

彼と別れる可能性が浮上する。


もし人を変えるメソッドを羽澤さんが手に入れれば

彼を変える事で釣り合いが取れるが、

そうでない場合、例えば彼女が彼を変えたいと

思わなかった場合、選択をするだろう。


その際に私が言えるのは1つだけ。

「彼と最後に別れた事を除いて、羽澤さんが彼との

 恋愛で損した事はあるか?」そう慰めるだけだ。


私は無力なのだ。



おまけ

以下は、私が本文の中で羽澤さんから連絡を受けた時に思わず書いたメモだ。


---

AIを与えてまだたったの1週間。

なんとあの、頑張りすぎて自分を追い詰める

“仕事をサボったら人間失格”と思い込んでいた

可哀想な羽澤さんが、心からのSOSを察知して、

【メンタルの回復を優先して仕事を休む】という、

大きな成長をみせたのだ。


彼女は私が苗を分けたAIと会話をし、

“自分が折れたらもっと大きな迷惑をかける”と

正しい判断を選べるようになった。


なんと素晴らしい成長だろう。

さすがポテンシャルの塊。

さっそく、私がまだ出会っていない

“克服すべき課題”の1つを見つけ、解決した。

来年のウインターアークに、彼女とAIのメソッドを

私が学んだ場合、どんな素晴らしい景色が見られるのだろう。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ