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始まりの章 2

始まりの章 2


 それは部屋の主にとっても同じ疑問であったようだ。

「だれ…?」

 中からか細い声で同じ問いが返される。

「……」

 ちょっと考えるように眉間に皺を作った侵入者は、とりあえず質問を無視して目の前のヴェールをめくってみることにした。

 布の端を掴んだかと思うと勢いよく舞い上げ自分の身を内側に滑り込ませる。

「!」

 部屋の主は驚きのあまり声も出せないようだった。

 生まれてこのかた自分の記憶を辿る限り、このように横暴な態度を他人からとられたことが無かったのだろう。

 ベッドの上から侵入者を見極めようと身を乗り出していたため、顔をつき合わす形で対面してしまい、動きは人形のごとく固まってしまったていた。

 驚いたのは少年も同じであった。

 自分から侵入しておきながら、次の行動も起こせずに固まっている。息をするのも忘れているかのように微動だにしない。

 互いに見つめ合ったまま。目を奪われ合ったまま。

 まるで世界の時間が止まってしまったかに思える空間が出来上がっていた。

(女……?)

 歳の頃は自分と同じであろうか。

 質の良さそうな薄桜色の衣に方から足先までを柔らかく包まれた姿は、少女でありながらもどこか中世的な、いわば聖女独特の無機質さをかもし出しており、幼いながらも目を見張る美しさだった。

 面立ちもさることながら、それ以上に美しかったのは、腰まで豊かに流れた紅の髪とルビー色の瞳。

(綺麗だ…)

 少年は気が付くと、紅瞳の中に自分の姿が写るのを、不思議な気持ちで見入ってしまっていた。



 最初に沈黙を破ったのは、部屋の主のほうであった。

「お前…」

 愛らしい唇が開き音を紡ぎ、少年の白い頬に華奢な指が伸ばされる。

「お前…きれい…」

 薄桃色の唇から零れ落ちたのは悲鳴でも苦情でもなく賛美だった。

 黒曜石を思わせる綺麗な瞳。短いけれど少年らしく揃えられた艶やかな黒髪。

 確かにこれならば、とがめるよりも触れてみたくなるのが道理というもの。

 子供目に見ても非常に整った面差。

 かれるまま触れた頬は、陶器のごとく冷たいかと思えば意外にも指先に温もりを伝えてきた。

 身につけている服や装飾からいって、神官か貴族の子供であろう。立ち姿にもどことなく気品が伺えた。

「………」

 互いに言葉も忘れたまま見つめ合う時がまた訪れた。

 瞳を伏せてしまったら、夢となって消えてしまいそうな儚さを感じていたのかもしれない。

 両頬に伸ばされた小さな手には、いつの間には少年の手が重ねられており、さながら幼い恋人同士のようであった。

 どれほど経ったであろうか。

 ようやく少年が何かを言おうと口を開きかけた時、かけられた魔法が解けたが如く静寂は破られた。

 ガタンと響く大きな物音と共に足音が近づいてくる。

「!」

 細く開けられたままだった扉が勢いよく開け放たれたかと思うと、数人の男たちが物々しい出で立ちで部屋へと乗り込んで来たのだ。

「くそっ…」

 少年は本来の立場を思いだした。

 弾かれたように体を反転させヴェールを抜け出す。

 しかし既に状況は厳しいものだった。

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