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始まりの章 1

始まりの章 1





 タン、タン、タン、タン……

 小さな素足が冷たい床を蹴り、少しばかりの音を刻んでゆく。つまづきそうになるのか時折リズムが狂うこともあったが、廊下をひた走る足音は止む気配なく続いた。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 半円アーチの丸い天井が続く回廊に荒く吐き出された息が、響きを残し流れてゆく。足元を照らす光は、壁や大柱にある明り取りだけなので心もとなかったが、そうも言っていられないとばかりに少年は幾度も後を気にし、振り返りながら走ってゆく。

 だんだん部屋数がすくなくなってきたなと思っていた矢先だった。

 突き当たった廊下を曲がると、すぐ先に大きな扉が現れた。子供ではあけるのに手にあまる立派な扉だ。

(あの扉は……)

 不意に少年の顔がしかめ められた。

 あってはならぬことを想像して。

 迷っている暇はなかった。

 道はこの扉の前で途切れている。

 彼は重厚な取っ手を意外にも手馴れた様子で「えいっ」と気合のうちに引き下げ、小さな体を扉に押し付けた。

 ギギッという音とともに開かれる奥部屋。

「うっ…」

 突然に沸き起こった光の洪水が、一瞬だけ視界を奪う。

 暗い所から明るい場所へと転進させられた少年は、光の元が何であるのか理解するのに少しの間を必要とせねばならなかった。


 落ち着いてきた瞳に映し出されたものは、高い天井と磨き上げられた大理石の床。黄金と真紅で揃えられた豪華な装飾品の数々。ほの かに品の良い香がかれており、壁には季節の花である桜の木が見事な枝ぶりのままに持ち込まれ飾り立て掛けられてあった。

 少年は荘厳そうごん に整えられた部屋を見回しながら、感嘆とともに安堵の息を漏らした。

 扉の感じが似ていたので、あちらこちらと逃げ回っているうちに、自分の部屋に舞い戻ってしまったのかと、肝を冷やしていたからである。

 確かに広さや間取りは似ているようだが、青を基調としたモノトーンに整えられている彼の部屋とは色調が正反対と言えるほど違っていた。

 少しだけうれ いの晴れた彼は、臆することなく美しい空間の奥へと歩みを進める。

 窓枠と同じ龍のレリーフで縁どられた仕切りか花瓶を乗せたキャビネットの横に見えた。

 自分の部屋と同じ造りなら、そこが寝室の入口になっている筈である。

(誰の部屋なんだろう……)

 今さっきまで必死に逃げていたというのに、子供らしい好奇心が初心を薄れさせてゆく。

 壁を潜ると奥の間は予想通りに寝室であった。

 中央には二重三重の薄いヴェールで囲われた大きな天蓋ベッドが、部屋の主であるかのように鎮座している。

 シャララ…と、不意に滑るような軽い衣擦れの音がした。

「?」

 誘われるように、ゆっくりと彼は寝台へと歩み寄る。

 すると、ヴェールの中からヒュッと小さく息を呑む音が聞こえてきた。

 一瞬、逃げなければという想いにも駆られたが、何故だか好奇心に勝てなかった。

「誰か居るのか…?」

 気付いた時には誰何すいかを問うていた。

 

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