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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
4章

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75/80

75:露払いは混乱を極めています2

ディンケラ子爵(宰相の子飼い/ユスの付き添い)

フレデリク・エクヴァル(アストリッドに惚れてる先輩)

グスタフ・アールステット(宰相/ユスの父)

 それが契機だった。

「撃て撃て魔獣を倒せ!」

「撃つな! 仲間に当たる、よせ!!」

 攻撃を促す声と制止の声が交錯する。一気にパニックになった騎士たちの指示とも悲鳴ともつかない声と、銃声が入り交じる。その声の中には、にゃーちゃんかわいい!! とかいう、若干毛色の違う悲鳴も混じっていた。




 一つだけやけに場違いな黄色い声の主をチラリと見やり、黒猫は自慢げに尻尾を大きくゆらす。それから黒猫はベルトルドを一瞥した。

 ベルトルドは必死に目でダメを伝える。だが金色の目は冷ややかだった。すぐにつんと顎をそらすと、頭を低くする。狙いを定め、二度三度と尻を振ると、一気に次の獲物へと跳びかかった。捕まえて押し倒し、また次の獲物へと跳びかかる。

 ここのところ、我慢させていた自覚はあった。にゃーが不満をためていたのも知っていた。たぶんアストリッドを想うベルトルドの憤りも伝わっていたのもあったと思う。




 でも……だからって、この状況は……いやもう絶対。

「お祖父さまに怒られる……」

 ベルトルドは卒倒しそうになった。嬉々として騎士たちに襲いかかる巨猫は、踏みつけて足で転がす程度だから手加減はしてくれているようだ。が、祖父がそれを考慮に入れて許してくれるわけもなく……。

 ルードヴィクは果たして、これについても一緒に謝ってくれるだろうか。いやそのまえにそのルードヴィクだって怒るに違いないし、アイナには泣かれるに違いない。

 ベルトルドはただただ呆然と、暴れ回る黒猫と蹂躙される騎士を見つめた。

「アレがおまえの猫か?」




 ベルトルドがおそるおそる顔をあげると、シグヴァルドは猫の動きを目で追っていた。

「制御の石は?」

 問われて、はっとしたベルトルドはポケットを探る。

 ディンケラ子爵が隷属の首輪を外部から発動させる指輪を持っているように、従魔にもそれはある。もちろんベルトルドだってわざわざ自作したご自慢のものを持っている。最初から電撃とかはカワイソウだと思ったので、マタタビの粉末が噴射できるようになっているのだ。

 そしてまたまたはっとした。馬車の中で、アストリッドと服を取り替えたのだ。それを思いだしてベルトルドは血の気が引くのを感じた。




 固まったベルトルドを見て首を傾げると、シグヴァルドは猫に目を戻す。

「まあ……手加減はしているようだし、正気は失っていないようだから、平気だろう」

「閣下! なにをのんきに話しておられるのですか、魔獣ですよ! 早く退治してください!!」

「ああ、そうだったな」

 小さくなったベルトルドの背後で、ディンケラ子爵が抗議の声をあげる。シグヴァルドはそれに頷いて手をあげた。それを合図に彼の背後に整列したのは、同じ御者の格好をした十数人ほどの兵士だ。




「騎士と官吏を確保しろ」

 は、と短い応答と共に、兵士が怒声と悲鳴が錯綜する中へと飛び込んでいく。

 魔獣に魔力を帯びない武器など通用するわけもなく、騎士たちは早々に戦意を喪失した。戦闘を放棄して散り散りに逃げていく。漆黒の魔獣は嬉々として、騎士たちを追いかけては押し倒す。そしてまた別の騎士へと飛びかかるのを楽しんでいた。兵士たちは猫に転がされた騎士を捕まえて、一カ所に集めていく。

 それを混乱した様子で見ていたディンケラ子爵は、シグヴァルドに向かってはくはくと口を開閉させた。なにを言いたいか察したシグヴァルドは笑って、抱いたままのベルトルドの肩を叩いて見せた。

「あれは従魔だ。()()の危機だと思って守ろうとしたらしい。驚かせたな」




「従……? は?」

 シグヴァルドと魔獣をせわしなく見比べて、ディンケラ子爵はあんぐりと口を開けている。そのうしろに控えていた騎士が、シグヴァルドへと向き直った。一人だけ剣を佩いていた騎士は、アロルドとそう変わらない年に見えた。斜に構えた感じの、癖のある雰囲気の男だった。

 彼はシグヴァルドに向けた目を、剣呑に細める。

「肉食獣の従魔ですか? 聞いたことがありませんな」

「まあ、シーデーン公爵家の従魔だからな、多少規格外だろうと、驚くにはあたらん。さて、アルーン副隊長、おまえたちも武器を捨てて投降しろ」

 おろおろとしているディンケラ子爵と、未だ座り込んだままのフレデリク、そしてアルーン副隊長と呼んだ男を、シグヴァルドはぐるりと見回した。




 アルーン副隊長は視線を受けて、慇懃無礼に笑う。

「はは、ご冗談を」

「この戦力差ではなんともなりようがないぞ」

 手が空いて戻ってきた兵士二人が、シグヴァルドの後ろに控える。

 それを見てさえ、アルーン副隊長に追い詰められた様子はない。だがディンケラ子爵の方には、アルーン副隊長ほどの余裕はなかった。

「わ、私に手をだしたら宰しょ……う…………かっ」




 言いかけた言葉を途切れさせる。ディンケラ子爵は指輪のたくさんついた手で、自分の胸元を鷲掴んだ。目を見開き、半開きの口からカハッと咳とも空気ともつかない息をもらして、その場に崩れ落ちる。

「……子爵?」

 様子のおかしいディンケラ子爵に、いぶかしくシグヴァルドが声をかける。座り込んだままだったフレデリクも、子爵の方へと身を乗りだした。

 だがベルトルドが気になったのは、胸をつかんだ子爵の手だった。




 いくつもはめられたの指輪の、その中の一つに目が吸い寄せられる。

 金の平打ちの指輪。

 他の指輪がすべて、宝石が着いた豪華なものだけに、そのシンプルな指輪は却って目を引いた。

 それは白昼夢の中で、処刑される前のアストリッドが唯一身につけていた……。




「トピアス、やれ!」

 誰もの意識がディンケラ子爵へと集中した瞬間、アルーン副隊長が大声を放った。

 幾つものことが同時に起きて、ベルトルドはなにもできなかった。

 馬車の方から幾つもの小火球が飛来する。同時に、アルーン隊長の手元からは銀の閃光が放たれた。

 兵士の一人は前に出て銀光を短剣ではじき返し、シグヴァルドはベルトルドを背後に押しやると、火球を氷塊で迎撃する。幾つもの爆発音と、悲鳴が立て続けに響く。氷塊で相殺されなかった火球は兵士たちが叩き落とした。




 そしてその中の一つの火球に、巨猫がじゃれついた。

「あ」

 ベルトルドは呆然と声をもらす。

 漆黒の魔獣の猫パンチを食らった火球が、あらぬ方向へと飛んで行く。その方向がまずかった。

 火球はまっすぐに湖へと向かって飛んで行く。湖面に落ちて水蒸気をあげて大爆発した。




 直後、聖木で魔鳥が咆哮した。

あともうちょっとだからと、自分を励ましながら書いてます(笑)

読みに来てくれてありがとうございます。

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