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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
4章

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73/80

73:露払い中に動き出しました3

ディンケラ子爵(宰相の子飼い/ユスの付き添い)

フレデリク・エクヴァル(アストリッドに惚れてる先輩)

ユスティーナ(現国王妃)

イングヴァル・フォーセル(双子の祖父/シーデーン公爵)

センナーシュタット伯爵(ベルの儀礼称号)

 彼らがろくでもないことを考えているだろうことはわかっていた。それにアストリッドを使おうとしていたこともだ。わかっていてなお、肝が冷えるような思いがした。

 だって一歩違っていたら、この状況に気づけていないことだって十分にあり得た。

 アストリッドが()()()、ベルトルドを巻き込もうとしなければ、疎遠なままここに自分がいなかった可能性だって十分にあった。

 そしてそれはもしかすると、あの白昼夢へと続いていったのかもしれない。




「それは……お話しが違います!」

 フレデリクが青ざめた顔で、ディンケラ子爵の腕をつかんだ。不快そうに顔をしかめ、彼はさげすむような目でフレデリクを見る。だが構わずフレデリクは叫んだ。

「そんなことをしたら、アストリッドは犯罪者になってしまいます!」

 フレデリクに向けていた目が胡乱になってしまい、ベルトルドは視線をそらす。いや、普通わかってしかるべきではないのだろうか。だって、敵派閥の惣領の孫娘にあんなものを装着(つけ)させるのである。並大抵の犯罪程度では、明らかにリスクとリターンがつりあってない。




 馬車の中でアストリッドが言っていたセリフが、頭の中でぐるぐると回る。同じことを考えているのか、チラリと見たユスティーナも呆れ顔だ。

 でもここでアストリッドを助けようとしてくれているのだから、悪い人ではないのかもしれない。ただ味方として心強いかと問われれば微妙だが。

「黙れ!」

 ディンケラ子爵の後ろにいた壮年の騎士が間に割って入って、フレデリクを引き剥がした。他の騎士が拳銃を手にしている中、一人だけ腰に剣を()いていた。がたいがよく、他の騎士たちとは雰囲気が違う。剣を持っているということは、そっちの方が自信があるということだ。たぶん身体強化の使い手だ。




「ただ少し脅すだけだと、そう……」

「あんな目立つものを、女性につけさせる意味がないことくらい、考えればわかるでしょう」

 ディンケラ子爵が言うとおり、たぶん女性は誰も首輪つけられていない。派閥の全体でトゥーラで問題行動を起こせぐらいの指示が出ているかもしれないが、首輪をつけているのはたぶん男性だけだ。何故なら貴族家の女性は、いずれかのタイミングでドレスを着なければならないからだ。

 あんな首輪、外したが最後、他の誰に告発されるかもわからないのだから、つけたが最後というやつだろう。ドレス事情にベルトルドは明るくないので、首元を隠す方法もあるかもしれないが、少なくとも隠し続けるのは難しい。

 そんなものを公爵家のアストリッドにつける以上、短期間で使い潰すつもりだったということだ。




 心底馬鹿にした様にディンケラ子爵が吐き捨てる。フレデリクの顔色は真っ青だった。

「彼女にアレを着けたのは、我々に変わって罪をかぶってもらうためですよ。大事な妃を殺したのがシーデーン公の愛娘だと知れば、陛下もシーデーン公の言葉など聞かなくなるだろうし、シーデーン公爵家は没落する。跡継ぎのセンナーシュタット伯爵には助け船を出して差しあげれば、感謝して私たちの言うことならなんでも聞くようになるでしょう」




「まあ、そんなにうまくいくものかしら? さすがに怒ると思うのだけれど……」

「伯爵にはお会いしましたが、そんな気概もなさそうな子どもでしたよ。シーデーン公に疎まれているとは聞いておりましたが、アレではね。跡継ぎに恵まれなかったシーデーン公には同情いたしますよ」

 あらまあ……とユスティーナが振り返る。ユスティーナの同情するような視線が痛かった。確かにごもっともな意見ではあるのだが、あの一瞬の出会いでそこまで思われていたのかと思うと、ベルトルドもさすがにへこんだ。




「アストリッド嬢、さっさと始めなさい。お友だちまで痛い目にあわせるつもりですか?」

 ディンケラ子爵がこちらに目を向け、命じた。ギリッと歯がみがする音がした。

 フレデリクが振り返る。怖いか顔をしたフレデリクが近づいてくると、ベルトルドの手首をつかんだ。驚く間もなくフレデリクが走りだし、ベルトルドは引きずらるように従った。

「止まれ!」

「止まらなければ撃つぞ!」

 制止と警告の声が騎士からあがる。フレデリクは進行方向に魔力を放った。衝撃波が騎士たちを弾き飛ばし、人壁に開いた穴を一気に駆け抜ける。




 遅れてパンと破裂音がして、足下に土煙があがった。ベルトルドはびくっと竦んだ。だがフレデリクはつかんだ手を強く引き、足を速めた。

「走れ! 動いてればそうそう当たらない!」

 フレデリクは馬の方へと向かって駆ける。

 続けざまの警告と制止の声と発砲。あがった絹を裂く悲鳴は侍女たちのものだ。馬車から解放された馬は、侍女や御者たちが集められている幕屋の向こうにいた。




 走りながらベルトルドはを振り返った。ニーナの驚いた顔と、ユスティーナの何故か笑っている顔が目に入る。

 逃げたところでどうしようもない。ユスティーナとニーナを残してきては、彼女たちが殺されれば結局のところはアストリッドのせいにされるのだ。

 そして逃避行はいくらも行かずに終了した。

 目の前に立ち塞がったのは、騎士ではなく一人の御者だった。




 黒い髪に白く透ける肌の、濃いグラスをかけた男だ。馬車を降りたときにいた、扉を開けてくれた御者。

 驚いたフレデリクが再び魔力を放とうと腕を振りかぶる。だがいち早く、御者はその腕をつかむとひねりあげた。

「おまえも大概しつこいな。()()に触るなと言ったはずだが」

 体勢を崩したフレデリクを地面へと転がす。そして、呆然としているベルトルドを引き寄せた。

 だってこの声……。

 ベルトルドは声もなく驚いて、男の顔を見あげる。

 グラスを外すと現れたのは、形のよい灰青の目だ。




 ベルトルド驚きに目を瞠る。その耳元にシグヴァルドが口を近づけ、ぼそりとささやいた。

「……俺はカワイソウだったか?」

「ぅえ?」

 シグヴァルドがいつものようにくつくつと笑いながら、機嫌のよさそうな声を聞かせる。

「馬車でそんな話をしてただろう?」

「き……聞こ……え?」




「途切れ途切れにな。昔も俺をカワイソウだと言ってたな。おまえにとって俺は、よっぽどカワイソウに見えるらしい」

 一瞬、なにを言われているのかわからなかった。シグヴァルドを見あげたままぽかんとする。

 そういえば馬車の中で、アストリッドが御者台の方を気にしてた。ってことは、あのとき馬車の手綱を握っていたのはシグヴァルドだったということなのだろうか。

 だが、子どもの頃? なんだっけと首をひねったベルトルドは、ようやく理解が追いついてきたとき、大きく目を見開いた。

 子どものときの出会いで、トモダチがいないと言ったシグヴァルドに、確かにベルトルドはカワイソウと返したのだ。




「あう……ぅえ……?」

 言葉にならない声がただ漏れる。え、どうして、だって……と、混乱する。

 え、待って、と自分に言いながら、何度も何度も息を吸っては吐いた。

 だって、待って、それってあのときのこと? だったら気がついてたってことなの? 子どもの頃に会ったのが、アストリッドじゃなくて僕だって? だってだってだってそんなの、いつから……?

 ――……トモダチだからな。

 つい最近、トモダチだからって、そうシグヴァルドが言ってて、あれはいつの話だったろうか。

「どうした?」

 耳元でシグヴァルドがまたささやいて、急にカーッと頬に血がのぼる。




 ()()()()のシグヴァルドの声と息づかいとか、触れられたときの感触とかがよみがえって、わぁっと叫んでベルトルドは耳を塞ぐ。

 いやいや待って。だってあのとき、どうして心配してくれるんですか聞いたら、トモダチだからなってシグヴァルドは答えたのだ。

 あのときは頭が変になっててなにも考えられなかったし、思いだすと動悸はするし、なんだか変な気分になるし、恥ずかしいしで、思い出さないようにしてて……。




 言われたときだっておかしいなとは思ってたけど、でも、だって……。

 またわぁっと叫びたくなって、ベルトルドは目の前の肩にぐりぐりと額をこすりつける。

 もしかしたらシグヴァルドの言ったあのトモダチって、まさか子どものころの約束にかかってるの? だって、なら、もしかして、全部――全部わかってたの?

「い……いつ、いつから……?」

 あの前に会ったのは湖で、その前に会ったのはユスティーナのお茶会の時だ。ユスティーナがしてくれた話をすると急に笑いだした。その前は第三連隊の食堂前で、計算が合わないと不思議がってて。

 その前はもう、アストリッドの格好で会いにいって氷漬けにされかけたときだ。




 ――……それって本当に私に対して怒ったのかなあ。

 アストリッドは最初から疑っていた。

 シグヴァルドは確かに、会いにきたのかと聞いた。そして、どうして会いにこなかったのかと言って怒りだした。

 ()()()()にはもう、シグヴァルドはわかっていたというのだろうか。でもシグヴァルドは目が悪いんだなんて、ベルトルドはばかなことを考えていて……。

 ――……おまえのこの頭には砂糖しか詰まってないのか。

 ルードヴィクのいやそうな表情が返って、ベルトルドは自分のばかさ加減に絶望的な気分になる。




「……もちろん」

 耳を塞ぐ手の甲に唇を押しつけるようにして、シグヴァルドがまたささやく。おそるおそるベルトルドは顔をあげた。のぞき込んできた灰青の目が、いつもようにやわらかく細められる。

 ()()()初めて目をあわせたときみたいに、甘くとろけて、ベルトルドの頬にますます熱が集中した。

「俺がカワイソウじゃなくなるように、一緒にいてくれるんだろうな?」

ここまで書いてきて非常になんですが、きゅんが足りなかったような気がしてなりません……恋愛ものなのにorz


もしかしたら土日は更新が飛ぶかもです。このあともうワンシーンとエピローグで終了なんで、お待たせすることになるかもですが、最後までお付き合いいただけるとうれしいです

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