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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
4章

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72/80

72:露払い中に動き出しました2

アロルド・セーデルルンド(第一師団副司令官)

ディンケラ子爵(宰相の子飼い/ユスの付き添い)

フレデリク・エクヴァル(アストリッドに惚れてる先輩)

ユスティーナ(現国王妃)

ヴェイセル・ウルマン(第3連隊長)

ヘンリク・アベニウス(聖女殿付官吏長官)

 促されてベルトルドは、ユスティーナをエスコートしたまま幕屋へと向かう。

「どうかして?」

「二妃さま」

 ユスティーナが声をかけると、置かれた椅子とサイドテーブルの間を縫って、ディンケラ子爵が飛んできた。後ろからフレデリクもついてきていて、ベルトルドはユスティーナの陰に隠れるように立ち位置を調整する。




「どうも訓練兵たちが揉めているようなのですよ」

 高台になっているこの場から、第二連隊の演習場を見下ろす。確かに訓練兵が一ヶ所に集まって、押しあいへしあいしているようだ。第一第二連隊はもう戦いを始めている。魔鳥を何羽かを誘導し、倒させるのが訓練兵の最後の演習である。今はもう武器を持ってスタンバイしていなくてはならない。

 ベルトルドは先日殴られた時のことを思い返して、もしかしてと考える。




「ここからでは理由を知る由もありませんが、戦場でもめているなんて一大事です。大事な将来の兵士たちが危険に晒される前に、助けに行った方がいい。そう、副司令官閣下にご提案していたところなのですよ」

 ディンケラ子爵に示され、彼のあとからやってきたアロルドへとユスティーは目を向ける。彼はいつも通りの地顔が笑顔で、内面を覗かせない。ユスティーナは小首を傾げてみせた。

「でも演習場にはヴェイセル連隊長がいらっしゃるのでしょう?」




「ええ、その通りです、二妃さま」

「でしたら副司令官閣下まで行く必要はないのではなくて?」

 ねえ、とユスティーナが同意を求めると、アロルドがごもっともですと笑顔のまま頷く。ですが、とディンケラ子爵が強い口調で割って入った。

「二妃さま、怪我人が出てからでは遅いのですよ」




 バサバサと羽音がした。見上げると一羽の巨大なカラスが急降下してくる。着地するかしないかの瞬間に飛び降りた騎乗者が走ってきて、敬礼するとアロルドに耳打ちした。

「街でも暴動が起こっているようです」

 困ったようにアロルドが告げる。また貴族の訓練兵の横暴から、もめ事に発展したのだろう。ベルトルドはわずかに顔をしかめる。ユスティーナは驚いたようにまあ……と声をあげ、ディンケラ子爵それ見たことかと顎をそらす。

「火種は小さいうちに消しておくにこしたことはないのですよ。でないと次から次へと騒ぎが起きて、ボヤではすまなくなってしまいますからね」




「一度見てこようと思います。御者を残しますので、なにかあればすぐに待避願います」

「二妃さま、騎士がおりますので大丈夫です。いざとなればこの私めが二妃さまの盾となりましょう」

「まあ、ディンケラ子爵、頼もしいのね」

「大船に乗ったおつもりでお任せくださ――がほごほがほっ」

 どんと自分の胸を叩いてむせてしまったディンケラ子爵に、傍にいたフレデリクが背をさすっている。それを横目に、今にも沈みそうねぇなんてユスティーナがつぶやいた。




「アストリッド訓練兵」

 寸劇のようなやりとりの横で報告を受けていたアロルドが、渡されたメモにまだ目を残しながら、アストリッドを呼ぶ。

「君は二妃さまの傍で護衛を頼む。私もすぐ戻っ……て……」

 呼ばれて向き直ったベルトルドに、メモから目を上げたアロルドが固まった。

「――戻ってくるから、少しの間頼んだよ」

 すぐに状況を察したアロルドはベルトルドの目の前までやってくると、にこにこと目をのぞき込んだ。

「露払いが終わったら、おじさまとケーキを食べに行こうか、アーシャ?」




 ベルトルドが反応するより早く、鼻先がヒヤッとした。とっさにアロルドが体を引いたが、間に合わなかった。

 気がつけばアロルドの前髪の一房が白くなっていた。アロルドは一瞬びっくりして、それから困ったような笑みを浮かべる。

「やれやれ、ヤキモチ焼きだなぁ。まさかこんなに嫉妬深い方だとは思わなかったよ」

 凍った髪を触りながらアロルドが身を起こすと、あらあらとユスティーナが楽しそうに笑う。二人のやりとりを見ながら、ベルトルドは視線を泳がせた。




 傍にいるのは、にゃーのずっと喉を鳴らしている様子で察しはついていた。

 でもまさか、また自分とアストリッドと自分を間違えてるなんて……そんなことはないと思いたい。アロルドだって顔を見たらすぐに区別がつくのだ。そう考えると、顔をあわせてないからわかっていないという言い方もできる……の……か? と首をひねった。

 護衛のアロルドをこの場から引き離そうとしているくらいだから、ディンケラ子爵がよからぬことを考えているのは確定だ。それにさっきのやりとり、たぶんユスティーナもアロルドもわかっていて動いているようだ。だったらシグヴァルドが双子の区別がついていなくても、まあ問題はない……のだろうか。




 アロルドが部下を引き連れて出発すると、幾らもせずに彼らは動きだした。

「二妃さま、どうぞお下がりください」

 椅子に腰を下ろしたユスティーナに、耳打ちする。

 にゃーが影の中からしきりに低く這うような警戒の声を聞かせていて、ベルトルドは出てこないように釘を刺す。ここのところ我慢させすぎている自覚はあって、だからだろうか。あまり聞いてくれている気がしなかった。




 一向に収まる気配がない演習場の騒ぎを見下ろしていたユスティーナは、己を取り囲む騎士を見やる。そしてふふと扇の陰で笑った。

「大丈夫よ」

 拳銃を突きつけられているのに、ユスティーナに緊張感はない。

 これから起こるであろうことすべてわかっているからこその余裕なのか、それとも持って生まれた気質なのか。だが周りを囲まれ武器を突きつけられてのこの落ち着きようは、並大抵ではない。ベルトルドの方が足が震えているくらいだ。肝の据わった女性である。




 周囲を見回せば、少し離れたところにいたニーナも騎士に連れられてこちらに向かっており、御者と侍女は一つ所に集められて同じように銃を向けられていた。

 誰とも正面で向かい合わないように気をつけながら、ベルトルドはユスティーナの背後で控える姿勢に戻った。

「余興でも始まるのかしら?」

「いえ、二妃さま。これが今日のメインイベントなんですよ」

「まあ、ちょっと怖いわね」




 連れてこられたニーナが突き飛ばされて、ユスティーナの足下に倒れ込んだ。ゆっくりした動きで立ちあがると、ユスティーナはニーナへと手を差し伸べる。

 ニーナを助け起こしたユスティーナは、ゆっくりと周りを取り囲む男たちを見回した。居住まいを正した彼女には凜とした迫力があった。睨みつけたわけでも鋭いわけでもない眼差しは、でも男たちを気圧すに足る力強さがあった。

 ユスティーナは最後にその目を、ディンケラ子爵へと向ける。

「どうなさりたいのか、一応、聞いて差しあげてよ」




「陛下の忠実な臣下としては……!」

 動揺したのを悟られまいとして気張りすぎたのか,、自分でも思った以上の声量をだしてしまったディンケラ子爵は、目をそらして咳払いをした。

「……これ以上陛下の耳に、奸婦の偏った意見を吹き込まれるのは、我慢ならないのですよ。国をかき乱されて迷惑しているのです」

「まあ、なんのことかしら? わたくし、陛下一筋でしてよ」




「おやおや先ほども若い男を捕まえて、はしゃいでおられたのをお見かけいたしましたよ。閣下も閣下で、英雄色を好むとはよく言われますが、麗しの姫君がおられるというのに……男も女も年齢さえも関係ないようですしな」

 そのセリフに視線が一斉に突き刺さって、ベルトルドはびくりとたじろいだ。一体どれだけの人間が、イェルハルドのおかしな設定の話を知っているのかと思うと、穴を掘って埋まりたい。

「ディンケラ子爵ともあろうお方が、うちの息子の戯れ言を信じてらっしゃるの? シグヴァルド殿下は陛下に似ていらして、一途なお方でしてよ」




 扇を口元に当て、ユスティーナはコロコロと笑った。そしてディンケラ子爵の背後へと目を向けた。

「そちらも同じご意見なのかしら?」

 水を向けられても、官吏長官ヘンリクをはじめとする聖女殿付きの官吏たちは、黙ったままだ。ただ不快を隠さず、じっとニーナを見つめていた。それはおよそ仕えるべき相手に向ける態度には思えない。アグネータに向けるものとは明らかに違っていた。

 相対するニーナも、少し顔色は悪いがきつい眼差しを返していた。ニーナの思い切りの良さを知っているだけに、見ているベルトルドの方がハラハラする。




 両者の様子を見て、あらあらとユスティーナが苦笑した。

「シグヴァルド殿下は公正な方よ。父の甘言に乗せられたということで、今ならまだ今ならまだ取りなして差しあげられてよ――殿下にも、陛下にも」

 ユスティーナがぐるりと男たちを見る。

「父にとって、自分以外は誰も彼もただの道具。それは今のわたくしの状況を見ればわかるでしょう」

「二妃さまはなにか勘違いをしておられるようです。これは私たちの独断ですよ。私たちは娘の所業に頭を悩ませてらっしゃる宰相閣下の心痛を、見ていられなかったのです」




 視線を逸らし扇を頬に当てたユスティーナが、独断ねぇ……と呆れた調子でつぶやく。

「わたくしに手をかけたとなれば、陛下の怒りを買うことになってよ?」

「いいえ、私たちは止めたのです。ですが私たちでは力不足だったのです」

 ディンケラ子爵が沈痛の表情でほう……とため息をついた。そしてベルトルドに向かい、たくさんの指輪が着いた手を見せつけるように突き出した。彼の着けた指輪の中でも一際大きい、無色透明で、光を取り込んで七色に輝く宝石。それは、隷属の首輪を発動するための聖晶石だ。

「さあ、出番ですよ、アストリッド嬢。約束を果たしていただきます。そこの女性二人を殺しなさい」

おやつをくれてもついていっちゃいけない二人の争いでした(笑)


遅れてます。まだ明日はストックあるんですが、明後日がヤバい……頑張ります。

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