60:王子は妹を断罪するのでしょうか2
ルードヴィク・クロンバリー(双子の従兄/司令官補)
イングヴァル・フォーセル(双子の祖父/将軍)
ゴットフリッド(前王/シグの祖父)
ユスティーナ(現妃/シグの継母)
「黙れ! このぽややん非常識!!」
「ぅええ? 兄さまヒドイ」
「ど う し て! そんな話はもっと早くしない」
低い声ですごまれて、ベルトルドは首を竦めた。
「だって誰も訊かなかったし、お祖父さまには頭ごなし怒られて、お話聞いてもらえなかったし」
「あたりまえだ! 第二王子の七歳の誕生日に入れ代わって出て行くなんて、なにを考えてるんだ、ああ!? おまえのこの頭には砂糖しか詰まってないのか! このばかたれが!」
こめかみを挟み込むようぐりぐりと拳を押しつけられて、ベルトルドは痛みに悲鳴を上げた。
「ごめんなさい~」
「お前らがそうやってコロコロと入れかわらなければ、こんなややこしい事にはならなかったんだぞ!」
ルードヴィク荒々しく息をついき、解放されたベルトルドは痛む頭をさする。
「でも、それでどうしてアーシャの自己責任なるの?」
「おまえ、今までの話の何を聞いてた……?」
背中に何やらどす黒いもやを背負い、唸るような声で問われ、ベルトルドはだってとか細いながらも抗議する。
「シグヴァルド殿下が僕とアーシャを間違えてるのはわかったし、あのときの僕を気に入ってくれたのもわかったけど、でも婚約はまた別問題でしょ? タイミング的に婚約者が必要になったとき、たまたま僕のこと思いだしたくらいじゃないの?」
「タイミング?」
「だって婚約の話が来たのって、殿下が成人された頃だったでしょ。殿下とパーティで会ったのは七つの時で、お祖父さま、一〇歳の誕生日のときに婚約のこと言いだしたもの。アーシャが怒ってケーキが宙を飛んで、僕食べられなかったんだよ」
「……この期に及んでもおやつの話かよ。砂糖じゃなければスポンジか? 脳みその代わりにケーキのスポンジが詰まってんのか?」
嫌そうな表情でルードヴィクは従弟を見下ろし、そして深い溜息をついた。
「違う。殿下が婚約の申し込みに来たのはあのあとすぐだ。オヤジさまがずっと待ってもらってたんだよ、まだ小さいからってのをいいわけに」
もともと先王ゴッドフリッドと祖父イングヴァルの間で、シグヴァルドとアストリッドの結婚は決められていたらしい。
でもあの段階で顔を合わせれば、シグヴァルドに別人だとわからないわけがない。だから時間を置くことにした。なんとか兵役の間二年引き延ばしたが、それ以上は無理だったらしい。
だがそのあとアストリッドが嫌がったために、顔合わせまで話が出てから約五年かかった。シグヴァルドもおかしいと思ってはいるようだが、さすがに五年も経てば人は変わる。そのうえ相手は子ども、変化の激しい年ごろだ。
「だけどそれは片方しか知らないからであって、おまえにうろうろされちゃあ台無しなんだよ」
「どうしてごまかしたの? 間違いだって言えばすんだのに」
首を傾げたベルトルドに、ルードヴィクが複雑な表情をする。顔をそらしホールの窓を見てルードヴィクが黙り込む。つられてベルトルドも窓の向こうへと目を向けた。あの騒ぎは収まったのか、ホールにアストリッドの姿は見えなかった。
「言えなかった。あのころはいろいろあって……どうしようもなかった。殿下の方も……まあ置かれた環境のせいだとは思うが、ずっと誰とも親しくしようとはしなかった。オヤジさまも、俺も、アイナも、うちの母も」
たぶん一番身直にいただろう乳母や乳姉でさえも、親しくなかったといわれる中で、観察日記をつけられないから手紙を書けと言いに行ったユスティーナはさすがかもしれない。
「なんにも興味がない殿下が欲しいと言いだしたんだ。叶えてやりたかったのもあるんだろう」
それで……、と言葉を続けたルードヴィクの声がまた低くなって、ベルトルドは首をすくめた。
「ようやく興味のあるものができたかと思えば、おまえだぞ。オヤジさまの気苦労を考えたことがあるのか? ――なんだってあの人も、こんな食い意地しかないぽややんたぬきにはまるんだ」
「兄さまヒドすぎる……」
「はまるにしたってもっとこう、他にあるだろうに……」
はあぁぁあ……と膝の間に顔をうずめ、地面にめり込みそうに思い溜息をついたルードヴィクを、ベルトルドは眺める。
結局蓋を開けてみれば、さっきアストリッドが言っていたように、祖父や従兄に騙されていたわけだ――アストリッドやベルトルドだけでなく、シグヴァルドまでもが。
だからといってごまかしてものちの禍根になるだけだ。こんなことが何年も経って今更シグヴァルドに知られたら、イングヴァルとの信頼関係にひびが入るだろう。
――……一族郎党断罪なんて可能性があってね。
アストリッドがそう言い出したとき、どう考えたって無理があると思った。だが、こうなってくると話が変わってくる。
アストリッドだけでなく、イングヴァルとの間にもまた、シグヴァルドは問題の種を抱えている。このまま行けば本当にいつか白昼夢で見たあの場面へとたどり着いてしまうのだろうか。
ベルトルドはもう一度窓の方を見た。
アストリッドの婚約解消の申し出に、シグヴァルドはどう答えたのだろうか。
「ねえ、兄さま。シグヴァルド殿下がアストリッドを断罪したりすると思う?」
「はあ?」
「ほら、さっきアーシャが婚約破棄をしたいって言ってたでしょ。それに怒って……とか」
うなじに手を当てると、ルードヴィクは首を傾げる。
「まあ、なくはないな」
目を丸くしたベルトルドに、ルードヴィクは呆れた目を向けた。
「殿下がそんなことをするか。ただグスタフがこれを理由に、オヤジさまを攻撃してこないわけがない。殿下がどう思ってようが、いちゃもんつけて断罪ってのは、考えられない話ではないだろうな」
続兄さま気の毒案件でした。
ラストのリテイクに手間取ってて、もしかしたら最後の方だけ毎日投稿が崩れるかもしれません。
やばそうなときはまた後書きでお知らせしますので、よろしくお願いします。
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