59:王子は妹を断罪するのでしょうか1
ルードヴィク・クロンバリー(双子の従兄/司令官補)
イングヴァル・フォーセル(双子の祖父/将軍)
ゴットフリッド(前王/シグの祖父)
ユスティーナ(現妃/シグの継母)
ぐいと二の腕を引かれ、腰が宙に浮いた。そのままぐいぐいと引かれ、萎えた足がもつれるのに苦戦しながら、ベルトルドはなんとか足を動かした。
「待って……待っててば、わぁっ」
ホールを出た植木の陰で、つかんでいた二の腕を放りだされ、ベルトルドはつんのめって、地面に座り込んだ。
「兄さま……ルド兄さま、あれってもしかして僕のこと?」
「だったらどうした?」
「……兄さま」
逆光で見下ろす無表情なルードヴィクに、ベルトルドは言葉を失った。
「近づくなと言っておいたはずだぞ」
「で、でも……兄さま、アーシャがあんなに嫌がってたのに」
「そもそもアストリッド自身の責任だと言ったはずだ」
ルードヴィクは身をかがめると、ベルトルドのネクタイを掴んで引っ張った。また腰が浮いて、ルードヴィクの薄茶の目が間近で覗き込んでくる。
「いい加減、聞き分けろ。スタンピードを乗り越えるためには、どうしても辺境領の力が必要なんだ。古ギツネの好きにさせるわけにはいかない。攻撃されるとわかっている傷口を、殿下につけるわけにはいかないんだ」
過去、シルヴァが辺境領から嫁いできた日の約束。すでに彼女以外の妃をとらない約束は破られてしまったが、それでも彼女から生まれた子が王位を継ぐという約束だけはまだ破られていない。
今は本当に綱渡りの状態だ。ましてニーナが現れたからには、次のスタンピードはもうカウントダウンに入っている。辺境領の協力なしには、スタンピードは乗り越えられない。今、グスタフに付け入る隙を見せるわけにはいかないのだ。
「わかったか」
掴んでいたネクタイを突き飛ばすように放す。ベルトルドはぺたんと尻餅をついて、ただルードヴィクを見つめる。こんなに怒っているルードヴィクは初めてで、どうしていいかわからずベルトルドは目を伏せる。
「……わかんないよ。だってこんなこと、本人に知られたらどうするの?」
「だから近づくなって言ったんだ」
「……いつから知ってたの?」
「一番最初からだ。菓子持ってベーベー泣いてたなんて、おまえ以外に誰がいる」
反論のしようがなくて、ベルトルドは言葉に詰まった。
「おまえじゃ、殿下の欠点にしかならないんだよ。殿下がアストリッドとケンカしてようと、それはあの人の欠点にはならんが、王太子殿下の想い人が男なのは致命的だと言ってるんだ」
大人しくしてルードヴィクのことばを聞いていた、ベルトルドは、ん? と首をひねった。
「想い人? 誰が?」
「お前がだ」
ベルトルドはますます首をひねった。
「どうして?」
大きなため息をつき、それから目を釣りあげると、ベルトルドの頭を抱え込んで拳をぐりぐりと押し付けた。
「い……痛、兄さま、痛いよ」
「そういう約束をしたんだろ」
「してない、そんな約束してないから。おトモダチがいないって言うから、お友だちになってあげようと思っただけだもん。だって王宮のおやつが美味しかったんだもん!」
ルードヴィクの腕からなんとか逃げ出して、ベルトルドは叫んだ。はあ? といぶかしく顔をしかめたルードヴィクを、ベルトルドはキッと睨みつける。
「ルド兄さまが兵役に行く前、僕に甘いおやつを与えるなって言って行っちゃたでしょ」
「おまえがきちんと歯磨きしないからだろ」
「だから僕のおやつ、アーシャと同じになっちゃったんだよ!」
アストリッドは子どものころから甘いお菓子は好まなかった。彼女が食べるおやつといえば、果物はまだいい方で、ナッツやクラッカーやら、日によってはゆで卵やサンドイッチなんかで、到底ベルトルドが食べたいものではなかった。
「そしたらアーシャが、パーティに行ったら生クリームがいっぱい乗ったおやつがたくさんあるからって……」
ルードヴィクの顔がだんだん呆れたものになってきて、ベルトルドの言葉がだんだん尻すぼみになっていく。
「それで? なんでアーシャの格好していく理由になるんだ?」
「自分が行かない方が、二人分食べられるからってアーシャが。男がひとりでたくさん食べてたらなんか言われるかもだけど、女だったら誰も文句言わないからって。でもね、ひどいんだよ! 僕アーシャの分も食べていいんだって思ってたら、そんなに食べたらほかの人分がなくなるって言われて」
あのときの悲しさを思い出して、じわっと涙がにじむ。
「そしたらね、殿下がいくらでも食べていいって言ってくれてね。このお兄ちゃんと仲良くなったら、いつでもこのおやつ食べられるかなと思って。だから、呼んでくれたらいつでも遊びに行くよって」
しゃがみ込んで頭を抱えているルードヴィクに気がついて、ベルトルドは顔をのぞきこむ。
「兄さま大丈夫?」
「どこの世界に、おやつ目当てに王子と仲良くなろうとする公爵家のボンボンがいるんだよ……」
力無い声でルードヴィクがつぶやいた。普段聞かせない声にさすがに罪悪感がわいてくる。
「いやもうマジ疲れたわ。おまえの関わることに、まともな神経で対処しようとした俺たちがバカだったんだな」
「に……兄さま、元気出して、ね?」
そっと背中をなでた手をバシッと音高く払われた。
さすがにルド兄さまが気の毒……
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