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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
3章

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57/80

57:妹が王子に婚約解消を言いだしました2

アグネータ(20年前狂い咲きの時の聖女)

ヘンリク・アベニウス(聖女殿付官吏長官)

アロルド・セーデルルンド(副司令官)

フレデリク・エクヴァル(アスタに惚れている先輩)

「えっと、どういうこと?」

 だから、とアストリッドは窓から離れるとベルトルドと正面から相対する。そして腰に手を当てて双子の兄の目をのぞき込んだ。

「もっと単純に、私に覚えがないなら、それは君なんだ。王子が執着してるのは私じゃなくてベルってこと」




「ぅえ? 待ってよ。アーシャに覚えがないんだったら、当然僕にだって執着される覚えなんてないに決まってるじゃない」

「そんなこと知らないよ。でもそれが一番しくっりくるんだ」

 アストリッドは床に視線を落とすと、忌々しげに床を蹴りつける。

「ホント、一発くらい殴らないと気がすまない」




「え、殴るって誰…… わあっ」

 急に肩をガシッと掴まれて、ベルトルドは小さく叫び声を上げた。反対側ではアストリッドがわずかに眉をひそめる。双子の間に割って入ったフレデリクは、アストリッドは腰を、ベルトルドは肩を抱いて、笑って見せた。

「その意気だ、ガツンと言ってやれ」




「……なんの話しですか?」

 アストリッドが平坦な声で答え、ベルトルドはぱちぱちとまばたきする。

「殴るって話をしてただろ。思いの丈をぶつけるにはいい機会だ」

「だから一体なんの話をしてるんですか、フレッド先輩?」

「オレが一緒にいてやるから言ってしまえばいい」




 アストリッドが顔をしかめる。心底うんざりしている顔だった。シグヴァルドの話をしている時にだって、ここまで嫌そうな顔はしない。アストリッドがこんな顔するのは珍しくて、そういえば木の上から落としてしまった男の子の話をした時にも、こんな表情をしていた。

 だがアストリッドの態度など気にしていないのか、フレデリクは言葉を重ねた。

 たまりかねて口を挟もうとしたとき、周りがザワザワし始めた。周りを見回すと、周囲で光の粒子がキラキラと踊っていた。温度が急速に下がり始めて、これってまさかと思った時、ひやりとした声が降ってきた。




「――その手を離せ」

  張りあげたわけでもないのに、ざわめくホールにその声はよく通った。しんと静まりかえる。

 見あげると、冷ややかな氷の目がこちらを見下ろしていた。シグヴァルドと話していた子爵は後退りし、ヘンリクがアグネータをその背にかばう。傍で一人ニコニコしているアロルドが、かえって不気味だ。

「聞こえなかったのか、エクヴァル? それに気安く触るな」




 静かだが有無を言わせない声だった。周囲の視線が集中する。なによりシグヴァルドの氷のような視線が圧力をもってのしかかってくる。震えているのが、肩に回った手から伝わってくる。ゆっくりと離れていく手に、ベルトルドもアストリッドも、フレデリクを見つめる。

 だがフレデリクは顔を上げた。

 アストリッドの腰を再びしっかり抱くと、張り詰めた空気の中、一歩前に出た。




「お言葉ですが!」

 取り残されたベルトルドはその背を呆然と見つめる。アストリッドが不快感を露骨に晒して隣に目をやっていた。

「殿下は婚約者の気持ちをわかっておられないのですか。彼女はあなたを拒否しています」

 きつい口調で詰め寄る。受けるシグヴァルドはといえば、文句を言って気が済んだのか、さっきまでのピリピリとした空気が緩んでいた。





「いい加減、彼女を解放するべきです」

「我が婚約者どのは、お前の行動のほうこそ迷惑そうに見えるが?」

 手すりに寄りかかって腕を組み、どこか面白そうに二人を見下ろす。シグヴァルドの声にはいつもの調子が戻っていた。

「そんなはずがあるわけないでしょう。愛しているなら彼女の幸せを願うべきです」




「そっくりそのまま返してやろう。自分の正義を振りかざすんじゃなく、少しは愛している女の気持ちを察してやるんだな」

 くつくつと笑うシグヴァルドの言葉は、ベルトルドには正論に思えたが、フレデリクには通じなかったらしい。これみよがしにため息をついたフレデリクは、アストリッドに目を見つめると頷いて見せた。

 その、俺がいるから大丈夫と言わんばかりに微笑んで見せるフレデリクに、ますますアストリッドは顔をしかめる。だが、相手にはまるっきり通じなかった。




 ぐいと背を押し出され、アストリッドは忌々しげにため息をつく。それから背筋を伸ばし、階上のシグヴァルドを見上げた。

「シグヴァルド殿下、婚約を解消してください」

 ベルトルドは目を瞠る。同じ気持ちだったのか、そこかしこで息を呑む音が聞こえた。

 誰もが固唾をのんで成り行きを見守る中、確かに一瞬シグヴァルドの灰青の目が、ベルトルドを捉えた。

「お前が自分で傍にいると言ったんだぞ」




 ――……呼んでくれたら、ぼくもにゃーちゃんみたいに跳んできます。

 いつか誰かとそんな話をしたような気がする。誰だったか。誰かが言ったのだ。

 ――……トモダチがいないんだ。




 ふっと誰かの言葉が耳に返る。ずっとルードヴィクと話したのだと思い込んでいた。でも違うと否定された。ならあれは誰と話したのだっただろうか。

「何度も言いましたが、覚えがありません」

「忘れているだけだろう」

「可能性がないとは言いませんが、それは私ではないと考えます。どうも私に変な幻想を抱いている人が多いようですが……」




 アストリッドはぐるりとホールを見回し、最後に背後に立つフレデリクをじろりと睨めつける。一瞬だけベルトルドに視線を寄越したが、すぐにまたシグヴァルドに目を戻した。

「これ以上は迷惑です。私は多少文句をつけられたくらいで堪えたりしないし、相手の理不尽に屈したりしません。ましてや木陰で泣きべそかいたりしませんから」

 あ、と声を上げかけて、とっさに口を塞いだ。急に足に力が入らなくなって、ベルトルドはへなへなとその場に座り込んだ。

これでお話の3/4が終了です。

いつも読んでくださっている方、応援いただいた方ありがとうございます。

残り少なくなってきましたが、最後までお付き合いいただけますと(さいわ)いです。


続きが気になったら↓の☆☆☆☆☆やブクマなど、応援していただけたらうれしいです


誤字報告ありがとうございました。

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