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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
3章

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56/80

56:妹が王子に婚約解消を言いだしました1

ニーナ・レミネン(後輩/次の聖女)

アイナ・クロンバリー(双子の従姉/ルドの妹/シグの侍女)

アグネータ(20年前狂い咲きの時の聖女)

ヘンリク・アベニウス(聖女殿付官吏長官)

アロルド・セーデルルンド(副司令官)

ルードヴィク・クロンバリー(双子の従兄/司令官補)

「待って待ってベルくん、アストリッドさまは今聖女殿にいないから。今日は総督府に行ってるの」

 坂を下り始めたベルトルドを捕まえて、ニーナは手を引いて総督府へと向かって走り始めた。

 息を切らしてたどり着いた総督府の門では、いつかのようにアイナが厳しい様子で待ち構えていた。

「ニーナさま、お約束の時間はすぎておりますよ!」




「アイナ姉さま……?」

 名指しされたニーナは青褪めて、慌ててアイナの元へと駆け寄った。

「すみません、すみません、つい話し込んでしまって」

「お支度に時間がかかるんですから、早めにお願いしますと申しあげたはずです。さ、参りますよ」




 背後に控えていた侍女二人に頷くと、二人はがっしりとニーナを捕まえた。アイナとは違うお仕着せを着た二人は、ユスティーナのところの侍女だった。

「ベルくんごめんねぇ~」

 右翼等の方へと、アイナは瞬く間に連れ去られていった。呆気に取られて見送っていたが、ハッとしてベルトルドは正面玄関へと向かった。玄関を入り、隅の方からキョロキョロと辺りを見回す。ホールはいつもより人が多かった。




「アーシャ」

「ベル? どうしたの、ルド兄さまに会いにきたの?」

「アーシャに会いに来たんだ――今日なにかあるの?」

 窓にもたれかかって腕を組んでいるアストリッドの様子は、いつもと変わらなかった。

「二妃さまから会食の誘いがあって、とうとうアグネータさまも断りきれなくなったみたい」




 アストリッドが上の方へと目をやった。吹き抜けのホールの階段を上がってすぐのところで、アグネータがシグヴァルドやアロルド、ディンケラ子爵などと会話していた。他にも少し離れたところには各連隊の隊長たちや、聖女殿の官吏長官のヘンリクまでもがいて、そうそうたるメンバーがそろっていた。

 食事にはまだ少し早い時間だから、一旦どこかで落ち着いてから改めて食堂に移動するのかもしれない。




 へえと頷いて二人して上を見上げる。チラリと、一瞬だけシグヴァルドの目がこちらに向けられて、ベルトルドは横目でアストリッドを覗った。彼女は視線には気づかなかったのか、上を見たまま動かない。

「ニーナさんとね、話したんだ。彼女、君と同じだった。昔の記憶持ってた」

 へぇってちらりとベルトルドに目を向けて、だけどアストリッドはすぐまた目を戻した。




「そっか そういう可能性もあるのか。聖女だから……」

「アーシャと話したがってた。断罪は避けたいって。断罪はニーナを殺そうとしたからだって。あとね殿下の行動はお話の中とは違うって言ってたよ」

 アストリッドがベルの方を見て、それから顔を手で覆ってうなだれた。

「だからね 殿下は本気で君が好きなんだよ」




「――たぶん違う」

 アストリッドは深いため息をついた。それから顔を上げて、顔にかかっていた髪をかき上げる。たぶんと言いながらも確信しているような表情をしているアストリッドが、ベルトルドと目をあわせた。

「私たち、お祖父さまとルド兄さまにだまされたんだ」




 アストリッドの言葉に、ベルトルドはまばたく。組んでいた腕を解いて、彼女は指を三本立てた。

「王子の態度の理由については仮説が三つあった。一つは王子が冷たくされると燃えるタイプ」

「そこはホントに君が好きとかじゃないの?」

 緑の目が刺々しい色を帯びて、ベルトルドは首をすくめる。




「一つ目は直ぐに候補から外れた。二つ目はシナリオの強制力。これはよくわからないだけに否定しようがなかった。でもニーナが違うっていうんならそうなんだろうね」

「君よりニーナの方が詳しいだろうからってこと?」

「そう。で、三つ目がさっき言った――」

 指を一本ずつ折っていき、最後に残った一本をぴこぴことアストリッドは振ってみせた。




「お祖父さまとルド兄さまに騙された?」

「おかしいと思わなかった? どうして王子に関わっちゃダメって言われたのか、君がどうして王子の側近候補に入らないのか」

「まあ。こちらに来ていろいろ言われたから……」

 兵役が始まった最初の頃は、みんな口を揃えたように将来はシグヴァルドの元で働くのだろうと言ってきた。否定してたらいつの間にか言われなくはなったが。




「君の立場なら王子の側近候補として、王子と懇意にしてたっておかしくないはずなんだ。ルド兄さまが側近として王子に付いているとは言え、兄さま一人じゃ明らかに手に余ってる」

 確かにと、ベルトルドは普段のルードヴィクを思いかえす。会えばいつも働いていて、休んでいるところなど見たことがない。まあ、シグヴァルド自体がいつも働いていたのだが。




「あの人やたら優秀だから、執事兼侍従兼側近兼補佐兼っていくつも兼任してやってるけど――っていうか、そもそも王子の側近が一人だけとか、普通じゃ考えられないんだよ。その上、爵位が足りない。母さまが伯爵家から婿取りしてればよかったんだろうけどね。まあ母さまと父さまは大恋愛だから仕方ないにしても、子爵家くらいじゃどう考えたって、王子を支えるのはムリでしょ」

「まあ前王派閥って、ほとんどみんな軍人さんだから、なかなか文官向きな人いないもんねぇ」




「なのにベルの将来が領地経営って、そんなのどう考えたって普通じゃないんだよ。たくさん優秀な候補がいて、君じゃなくてもって状況ならわかるけど、明らかに君を遊ばしとくのは悪手でしょ。だからヘンな勘ぐりが入る」

「勘ぐりって……あの、僕がシグヴァルド殿下を次期国王として認めないとか発言したとかいう?」




「それだけじゃなく、うちは家庭崩壊してて、君は家族の中で孤立してるとか、おジイさまが君をすでに廃嫡してるとか、次期公爵の座を狙ってルド兄さまは君をいびってるとか、ついこないだも馬車に向かって突き飛ばして殺そうとしたとか……」

「ぅええぇぇええぇ……ナニそれ? 待って意味わかんない」

 いや百歩譲って家庭崩壊はなくはないかもしれない。兵役の挨拶に王都に行ったとき、祖父の顔を見たのが実に五年ぶりのことだったのだから。でも、ベルトルドの面倒を見ながら命を狙ってるとか言われているルードヴィクは、とんだとばっちりだ。




 確かに最近あちこちから妙な噂が流れていると聞かされたが、まさかそこまでいろいろ言われているとは思わなかった。

 ああそれでか、と、ようやくイェルハルドの言葉が腑に落ちた。敵対派閥の惣領孫など、なにを好き好んで側近にしようというのか、意味がわからなかったのだ。

 そっかぁと一人で納得していると、アストリッドが呆れたようにため息をついた。

「……君がそんなにぽやぽやだと、さすがにお祖父さまが気の毒になってくるよ」




「最近、兄さまにもおんなじようなこと言われたんだけど……」

 だろうね、と、アストリッドは素っ気なく肩をすくめる。そしてまた腕を組んで上を見あげた。

「どうしてベルを王子に会わせたがらないのか。あんまりそこを突くと、皺寄せが君の方に行くから言わなかったけど――要は君だったんだよ」

兄さま、気の毒すぎる……


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