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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
3章

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55/80

55:妹が聖女に意地悪をしているのかもしれません2

ニーナ・レミネン(後輩/次の聖女)

フレデリク・エクヴァル(アスタに惚れている先輩)


「やっぱりベルくんもだったんだ」

「違うんだ、僕じゃないよ。アーシャが」

 すべてを言わなくても、あーと、ニーナは視線を流す。悪役令嬢の転生ってド鉄板だもんなー、と呟く。

「どうして僕のこと転生者だと思ったの?」




「もらったお弁当……懐かしい味付けだったから」

 弁当? と首をひねって、ベルトルドは思い出す。ニーナの見舞いに行ったとき、ラウラにもらった弁当を渡したのだ。あの時点でもしかしてとは思ってたので、アストリッドのこだわりの詰まった弁当は、なにかしらのきっかけになるかもと考えたのだ。




「あの、少し訊きたいことがあるんですけど、その傷って……もしかしてシグに直してもらいましたか」

 シグ? ってと、頭にハテナを飛ばしながらも、もう湿布を外した左の頬を押さえた。

「ぅえ? あ、その……」

「ああ、大丈夫です、誰にも言いません」

 そのなにもかも見透かしたかのようなセリフに、ベルトルドは青褪める。まさかあの恥ずかしすぎる治し方を知っているのだろうか。しかし下手に突っ込んではやぶ蛇になるかもしれない。




「右翼棟でのあれ、ベルくんだって言ってたけど、どうしてアスタの格好してたんですか?」

「あれは、アーシャがシグヴァルド殿下に会いたくないから、変わって欲しいって言われて」

「なるほど……あの、アストリッドさまってどういう性格ですか?」

「どういう意味?」

「欲しいものがあると、我慢できないってタイプですか?」




「そんな……っ、確かに自分気持ちを大事にする子だけど、そんな子じゃないよ」

「ごめんなさい。単なる確認なんです。アストリッドさまに、ゲームのこと、どれくらい訊いてますか?」

「アーシャは――その彼女は物語って言ってたんだけど、人からの又聞きで、アーシャ自体は詳しく知らないみたいなんだ」




「じゃあ、わざとじゃないってこと? でもその割にはピンポイントで、あの日にぶつけてきたの?」

 爪をかみながらぶつぶつ言い出したニーナを、ベルトルドは見下ろした。

「ニーナさんがアーシャに手紙をくれたんじゃないの? アーシャは君があの日、君がシグヴァルド殿下に会いに行くって手紙をもらったらしいんだ。あの日って特別な日だったの?」




「手紙……ですか? わたしとアストリッドさん以外にも、まだ転生者がいるかもってことなのかな?」

「わからないけど、アーシャはその手紙をくれた人を探してる。妹はただ断罪を避けたいだけなんだ。方法はないのかな?」

「なくはないです。ただその場合、国が滅ぶかもしれません」




 ニーナがふっと視線を外すと、聖木へと目を向けた。ベルトルドは唖然とニーナの横顔を見つめる。

「この話って、ヒロインが英雄を得てスタンピードに立ち向かいます。誰も選ばなければ、アスタの断罪は起こりません。だけどその代わり」

「国が滅びるの? なんでそんなことに」

「お話の中でアストリッドさまは、わたし――聖女を殺そうとしたんです。それが理由で断罪されます」




「じゃあ、君に手を出さなければ……」

「わたしもそう思ってます。だからできればお話ししたかったんですけど……」

 ベルトルドに目を戻したニーナは、困ったように眉を垂らす。

「もしかして聖女殿で働くことにしたのは……」

 急に聖女殿に行くと言いだしたから何故だろうと思っていたのだ。ベルトルドは不意に泣きたい気持ちになって、へたりとその場にしゃがみ組んだ。まさかアストリッドに近づくためだったなんて……。




「ありがとう」

「さすがに断罪とか、回避できるならしたかったから。でも」

 往来でへたり込んだベルトルドの前に、ニーナもしゃがみ込んで、膝の上に両手を置く。まるで小動物みたいな仕草で小首を傾げた。

「ちょっとわからなくなってます。わたしが覚えてるのお話とは、かなり変わってきてて……」




「変わってるってことは、お話どおりは進んでないってこと? アーシャは、強制力だっけ、シグヴァルド殿下が、そういうのに操られてるんじゃないかって言ってたんだけど」

「シナリオの強制力ですか? ないんじゃないかなぁ。だって、一番シナリオ通りの動きをしていないのが彼だから」

 ニーナが首をひねった。




 アストリッドが一番怖がっていた強制力。もしそれがないのだとしたら。ベルトルドが感じたように、シグヴァルドがただただアストリッドが好きなだけだとしたら。じゃあ、アストリッドもまた、その強制力とやらに呑みこまれてニーナに意地悪をしているんじゃないのだとしたら。

 アストリッドが自分の意思で、そんなことをしているということは考えられない。




「アーシャにされたのは、靴を取られただけ?」

 ニーナは頭を振った。

「物がなくなったり、覚えのないことの責任を押し付けられたり、頭上から色々降ってきたり、階段で背中を押されたり」

「この三日間で? それは……よく無事で……」

 指折り数えるニーナに、ベルトルドは絶句した。ニーナは肩をすくめる。




「でも、彼女がやったかどうかはわかりません。そういうウワサになってたってだけで」

 アストリッドは少々乱暴なところはあるけど、女の子相手にそこまでするとは思えない。普段なら彼女の関与を否定するところだ。でも、彼女にはもう一つ、自分の意思に反して動かなければならない理由がある。

 ポケットの上から、中に入ってる紙を押さえる。かさりと魔方陣が描かれた紙が音を立てる。




 だったらやっぱりやらされてると考えるべきだろう。だけどわからないのは、ニーナを害することがフレデリクやディンケラ子爵にとってどんな意味を持つかだ。

 ベルトルドは勢いよく立ちあがった。

「ごめん。僕、アーシャに会いに行ってくる」

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