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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
3章

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51/80

51:次の聖女のウワサが流れているようです

デニス・アルデバリ(食堂前で騒いでた後輩)

アグネータ(20年前狂い咲きの時の聖女)

トピアス・ユーホルト(双子たちの代の訓練兵の副主席)

「待って、お願いだから止まってぇ~」

 上り坂をぜぇはぁ言いながら追いかけてくるベルトルドに、デニスはとても嫌そうな顔で振り返った。

「あんた、体力なさすぎだろ」

「君の、足が、早いんだと、思……っ」

 ベルトルドは膝に手を突いて肩で息をする。嫌そうな顔で見やったデニスは、ベルトルドの言葉を聞かずに踵を返す。




「だから待って……どうしてこんなことばっかりしてるの?」

「どうしてって、友達の服が汚されたんだぞ、怒るのは普通だろ」

「今日のことだけじゃなくて、他の日のこともだよ」

 早足の彼にベルトルドは小走りに追いかける。

「お前みたいに恵まれたやつにはわからない」

「恵まれた……ですか?」




 体力にも運動神経にも、体格や容姿にも、さして恵まれているとはいえないベルトルドが人に羨まれる部分といえば、やはり生まれだろうか。しかしそれをいうならば彼だとて同じだろう。

「伯爵家の継嗣の君も相当恵まれてると思うけど……」

 爵位は単にどの段階で国に下ったかで決められている。一番最初から王家と共にあった三家は公爵、その次に下ったのが伯爵、そして最後に加わったのが子爵だ。男爵位は平民に与えられる爵位で、スタンピードの時に功績をあげたものに与えられるものだ。




「そんなこと言ってられるのが、おまえが恵まれている証拠だろ。伯爵家なんて、極一部を除いて名ばかりの死に体だ。とうの昔に領地は借金の形に取られた。いまは過去の栄光に縋りついて、対面を保つのに必死なくそだ」

 困惑しているベルトルドに、少年はこちらも見ずに嫌な笑い方をした。

「あいつらは金のためならなんでも売るんだよ」

 吐き捨てて少年は去っていく。




 警ら隊の事情聴取から解放された彼を見つけ、追いかけたのだ。なんとなく親のせいだと言いたいのだろうということは伝わったが、親のせいで溜まった鬱憤を晴らしているだけか、親の命令でやっているのか。

 でも貴族の子供たちが、時を同じくして似たような問題行動を起こしているとなると、親の指示を疑う方が自然だろう。だったら止めるのは難しいかなぁと、ベルトルドは思った。最近は彼らの問題行動のせいで、平民たちもストレスを溜めている。刺激があれば爆発してもおかしくない。

 だが、一体何を売るというのだろうか。




 ゴーンと鳴り始めた鐘の音に、ベルトルドはハッとして慌てて坂道を駆け下りる。三時に寮でとルードヴィクに言われていたのに流石にのんびりしすぎだった。

 寮に戻ると玄関で、来客が食堂で待っていると寮監に聞き、早足に向かった。食堂からは廊下にまで明るい声が聞こえていて、ベルトルドは少しだけホッとする。




「ベルー、遅かったな」

「お客さんがずっと待ってんぞ」

 早く早くと訓練兵たちに急かされて、ベルトルドは小走りにみんなのところへと向かった。

「お待たせしてすみません」

 ルードヴィクはすでに帰ったのか、待っていた若い男女の軍人だった。二人組に向かってベルトルドは頭を下げた。




「今日は顔を合わせた後は、露払いの見学が中止になったむねと、当日は駐屯地内で待機との告知書を、貼って回るようにクロンバリー司令官補から指示されているんですが」

「わかりました。顔見せも兼ねてまわりましょうか」

「なあ、ベル」

 打ち合わせが終わるのを待っていた訓練兵たちに呼ばれて、ベルトルドは振り返った。

「どうかした?」




「おまえ、あの話聞いたか?」

「なぁなぁ、なんか情報持ってないのか」

「お前ならなんか知ってるだろ?」

「なんの話?」

 友人達に取り囲まれてベルトルドは首を傾げる。




「次の聖女が現れたって話だよ!」

 反応しかけた表情筋を抑えて、ベルトルドはゆっくりとまばたいた。

「今の聖女さまじゃなくて?」

 隣を見ると軍人二人組も困った顔をしていて、彼らも質問攻めにされていたのかもと、なんとなく察した。




「違うって。ほらこの間、魔鳥襲来の時、魔鳥が変な動きしたって噂になっててさ」

「アグネータさまは全然力を振るわれないだろ」

「だったらきっと次の聖女が現れたんだって話になってる」

「妹とか司令官補の従兄とか連隊長とかからなにかきいてないのか?」




「やめろって。ベルにそんなこと聞くなよ」

「なんだよ、ちょこっとくらい聞いてんだろ?」

「バカ、ベルんとこは複雑だって有名な話だぞ」

「待って、複雑ってなんの話? それから、聖女さまの話とか、誰もなにも言ってなかったよ。聞いたことと言えば、ウル連隊長が聖木の調査に行ったってくらいかなぁ。さっき司令官閣下にもお会いしたけど、なにもおっしゃってなかったし」




 なんだよガセかぁと一人が呟くと、誰ともなくがっかりムードが漂った。

「でも次の狂い咲きなんてまだまだ先だろ?」

「今もう聖女が現れたとなったら、もうすぐ花が満開になるってことだよな」

「準備間に合うのかよ。王も貴族も当てにならなしさ」

「司令官閣下がなんとかするだろ。シグヴァルド司令官は王太子殿下だぞ」




「そうだよな。次の王さまなんだからなんとかしてくれるって」

「ベル、あの時、湖に第二王子を追いかけていっただろ。なんか知らないのかよ」

「うーん、ごめんね。僕あのとき魔鳥があんなに近くを飛んでるが怖くって」

「だよなぁ、ベルだもんなぁ」

 友人達が口々にベルだもんなぁと納得するのを見ながら、ベルトルドは去って行くデニスの姿を思いかえした。




 彼と、目の前の仲間たちとの差はなんだろうかと考える。訓練着や制服、私服と、思い思いの格好の仲間たちと彼の差。貴族と平民だからだろうか? でも寮暮らしにも、男爵家の者や、商家出身の者もいる。彼らは貴族などより裕福な場合も少なくない。

 彼のあのきっちりした感じはどこから来るのだろう。話し方も、やってることを見ても、真面目そうという形容詞は相応しくない。目の前で話している彼らと差はないように思える。でも一見の印象は真面目そうに見えるのだ。そしてああそうかと思った。




 襟回りが緩みのなさが理由かもしれない。

 動いているとネクタイが緩んできたり、首周りが苦しくなって第一ボタンを外したりしている人の方が多い。彼はいつもカラーをつけ、クラバットを巻いていた。他の人たちも、きちんとボタンを一番上まで留めていたり、襟元に崩れた印象がなかったのだ。

 そう気づいたと同時に、ふっとトピアスが脳裏に浮かんだ。

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