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王子と聖女と悪役令嬢ときどき僕~王子には僕が溺愛している妹に見えるようです~  作者: 藤井めぐむ
3章

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48/80

48:聖女は思っていた人となりとはちょっと……かなり違ったようです1

ニーナ・レミネン(後輩/次代の聖女)

イェルハルド(第二王子)


午後からもう一本上げたいです。

 総督府の玄関へと向かいながら、シグヴァルドが隣で生あくびを繰り返している。脱いだジャケットを肩に引っかけた彼に、あの、とベルトルドは声をかけた。

「少しだけでもお休みになられた方が……」

「今寝たら起きられなくなる」

 だったら僕なんかと会ってないで、ルド兄さまの忠告に従えばよかったのに……と考えて、ベルトルドは複雑な気持ちになった。




 ベルトルドでさえアストリッドに見える様な人である。ベルトルドと話してアストリッドと一緒にいるような気持ちになっているのかもしれない。

 ――あれだけアイツに逃げられまくってるのに、恋々と執着して婚約解消してやらないなんて……まったく、憐れにもほどがあるな。

 フレデリックが放った言葉は過激だけど、ベルトルドが考えていたことだって似たようなものだ。




 アストリッドの気持ちが自分にないのを知っていながら、何故手放さないのだろうと思った。いろいろ事情があるのもわかっていたし、ルードヴィクの言うとおり、貴族の結婚に好き嫌いなんて関係ないのも知っている。けど、でもここまで嫌がってるんだからと、アストリッドの話を聞いてるときは思っていた。

 でも――。

「なんだ? 添い寝でもしてくれるか?」

 視線に気づいたシグヴァルドが、ベルトルドを壁に押しつけるようにしてのしかかってくる。




 自分が単純なのもわかっているけど、シグヴァルドと接していると、つい彼に気持ちが動く。こんなに好かれているのだから、アストリッドも少しは考えてあげればいいのにって。

 肩口に頭を埋めているシグヴァルドの頭を、ベルトルドはポンポンとなでてやる。ちょっと似てるだけのベルトルドを代わりにしなくてはならないシグヴァルドは、フレデリクが言った意味とは違うが、かわいそうだなと思った。

 くつくつと機嫌よさそうに笑っているのがまた、うちの猫が喉を鳴らしているのを思い出して、同情的になってしまう理由かもしれない。




 だが。

 あれ? とベルトルドは首をかしげる。そういえばこのアストリッドへの気持ちは作られたものだって……。

「妹とはいつも……どんなお話をなさっているのですか?」

「アストリッド? これといった話はしないな」

「ぅえぇえ?」




 いやアストリッドもそんなようなことは言っていたが、大げさに言っているのだと思っていた。

「あれは初めて会ったときから、なにか言いたげな目で見上げてくるだけで、特に会話らしい会話にはなったことがない。まあ時折婚約解消したいとは言ってくるが」

 湖での二人の様子が脳裏に返って、ベルトルドはあーと目を伏せる。

「その、妹がすみません」




「アストリッドは悪くない。迷惑をかけているというなら俺の方だな」

「殿下?」

 肩に回っていた腕に力がこもる。ベルトルドは肩に顔を埋めている男を見る。

「じきわかる――またのぞきか? イェルハルド」

「兄上こそ、また浮気ですか?」




 既視感のあるやりとりに、ベルトルドはシグヴァルド越しにおそるおそるのぞきこんだ。まだあの設定を引きずってるらしいイェルハルドに、じろりと睨めつけられた。前回までとは違って大いに後ろ暗いベルトルドは、すごすごと首を引っ込める。

「なんだ、本気でうらやましがってたのか?」




 上体を起こしてシグヴァルドは、階段途中で立ち止まっている腹違いの弟を見あげた。どうやら湖での会話が聞こえていたらしい。シグヴァルドは言葉を失っているイェルハルドから、隣で固まっているニーナへと視線を移す。

「ニーナ嬢は今から聖女殿か?」

「はい。副司令官閣下にご挨拶して参ります」




「ならベルトルドを送ってやってくれ。アロルドには俺に頼まれたから遅れたと言えばいい」

 頷いたニーナを確認し、それからシグヴァルドはイェルハルドに視線を戻した。

「イェルハルド、ニーナ嬢を送って行くのはいいが、ベルトルドをいじめるなよ」

 突き刺さる視線が痛かった。できれば一人で帰りたかった。だがイェルハルドの視線は口を開こうとすると鋭くなり、ベルトルドは主張するのを諦めた。三人で馬車に乗り込み、今も向かいからの視線に居心地が悪すぎて、雰囲気を変えられる言葉を探す。




「ええっと、お二人はなにを……?」

「母上とお茶をいただいていただけだ」

 向けられる視線は鋭いままだが、話しかければ答えてくれるらしい。ベルトルドはちょっとほっとした。

「おまえのような不埒な人間と一緒にするな」

「いえ、僕たちもただお茶をいただいていただけですので」




「ああああの……ユスティーナさまってステキな方ですね」

 少年たちの会話に不穏なものを感じたのか、ニーナが早口に割って入った。

「所作がとても洗練されてて、高貴な方なのに、礼儀も覚束ないわたしにも、嫌な顔もせずにこにこと話しかけてくださって。でも……」

「でも……?」

 ふっと小首を傾げたニーナに、ベルトルドも首を傾げた。




「こう、何度も窓の方を見ては微笑んでいらして、窓の外になにかあるんですかって尋ねたんです。そうしたら天気がよいとついにこにこしてしまうのよとおっしゃってて、今日はそこまで天気がいいってほどじゃないのに不思議だなぁって」

 あーとベルトルドはニーナから目をそらした。

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